☆強婆☆
「能力 絢爛水舞!!」
マニがスキルを使う。
今回はパウロが承認されてから初めてのフルパーティでの冒険である。
群れた犬は総数で50匹は居るだろう。
しかもただの犬ではない。『魔猟犬』という魔物を狩り食べる猟犬である。
知能こそないが、俊敏さ、数、威力を持ったショートリーチの攻撃が得意なのだ。
「能力 掃除屋!!」
私は魔猟犬に向けて竜巻を打つ。刃状にした竜巻の風は犬を斬り刻んでいった。
マラたちもそれぞれが魔猟犬を狩りに行った。
ふっとギルドに入る時の試験を思い出す。あの時も犬を倒した。
だけどあの時よりも確実に強くなったという自信がある。
「神託 黒・双雷」
パウロが雷のビームを撃つ。
それは地面を焼きながら魔猟犬を殺していく。
「能力 絢爛水舞!!」
普通は短距離に使う能力である『絢爛水舞』。
だけど見たことのないほどチカラを入れているマニ。
「いくよ……」
そう呟いて地面に向けて彼女の魔力を流し込む。
水の塊が生まれてこの大きな範囲を包む。マラたちはいきなり出来た水に包まれて混乱している。
能力を使って彼らの口元に小さな空気をつくる。これで何とか呼吸はできると、思う。
そしてマラたちは慌てて水から上がる。
その直後、
「神託 黒・双雷」
が発動する。水の中を雷が通る。正確には水の中に溶けている魔力を通じて、だろう。
何匹か逃げていたらしくマラたちが追いかけて駆逐するだろう。
だけどそんな時に私の『魔力感知』が敵影を捉える。犬の処理が終わったと言うのに。
「あ〜あ、なんで殺してしまうのか? 命がかわいそうじゃ」
彼女は剣を鞘から抜く。
彼女の皮膚は皺に包まれていている。見た目から推測するに70代であろう。頭に着けた宝石がとてもキレイ。めっちゃ欲しいという物欲を飲み込む。
長年身をおいてきた戦闘という舞台に彼女は美しく踊るのか、それとも踊るのを拒否するのか。
片刃に描かれた美しい刃紋はとても上質なカタナであることを察する。
ゴウゴウと燃え盛るような炎が刀身に纏わりつく。
「私は猫派なんだ」
私はふうっと息を吐いてそう伝える。
「ふむ、知ったことではないのう。儂は命の尊さとやらの話をしておる」
いきなり目の前に現れた彼女の攻撃を咄嗟にカタナで弾く。
重い攻撃。手のひらが痛い。
こんな攻撃を受け続けることはおそらく無理だ。
マラが私の後ろから飛び出す。犬の追いかけっこが終わったのだろう。
勢いに乗ったその攻撃はキィンと音をたてて簡単に防がれている。
圧倒的なまでの強者。
マリ、マル、ヴェレーノが同時に斬りかかるが軽くあしらわれた。
そして、知る。全く後隙がない。
私たちの攻撃を待っているらしく微動だにしない。
「混沌なる魂よ、そのチカラを使い、薙ぎ払え、死する雷よ。神託 黒・双雷!!」
空に浮いたパウロの合掌した手を高く空に掲げて神託が発動する。
辺り一帯の木々は原形をとどめていない。
「そのようなものを人に向けて撃つなど……」
パウロに一瞬で近づき攻撃を与える。
あそこまでニンゲンの足で飛べるのかと驚愕する。
パウロの鮮血が飛び散り空から落ちてくる。それをマニが受け止める。
「ごめん、治療させて……」
マニがそう言って戦線を離脱する。仕方ないと思う。
「チィ、逃げられてしもうた。さっさと片付けるしかないのう」
軽く私を一瞥する。私のことを脅威としてみていないことの表れであろう。
ヴェレーノが飛びかかりながら攻撃する。それに続いて私も突っ込む。
風で刃を伸ばして間合いを変える。私の魔力を持ったその刃は傷口をうむがなぜか斬った感触が気持ち悪い。
鎧をまとった騎士ばかりを倒しているからだろう。
「ちと油断が過ぎたかのう?」
斬って通り過ぎた私の背中に痛みが走る。
小さい声が漏れる。痛い。
クルッと空中で回って向きを敵側へと変える。
達人であればあるだけ予測しようとする。それを裏切れば理論上は勝てる。ただ、それが机上の空論に近いのは痛感している。
「「「獣力 三位一体!!」」」
3人の『雷』『炎』『地』の獣力が合わさって老婆に向かって飛んでいく。
その対処はさすがの老婆でも対処に手をこまねくはずだ。
地面を蹴って走り出す。
ドンッと地面が揺れるほどの大きな力が『獣力 三位一体』にはあるようだ。
老婆はそれを刃で一刀両断する。その隙にもう一度背中に浅い傷を入れるがやはり感触がない。
たぶん正面からでは勝てない。
勝てるならズルい方法でも甘んじて受け入れるべきだろう。
「獣力 焰刃!!」
緋色の刃に私の片刃剣は変わる。
いつものカタナは仕舞ってヴェラで頂いたあの片刃剣を実戦運用する時が来たようだ。
鋭い視線が私に刺さる。
そして老婆は私の眼の前にきて何十、何百の斬撃を一瞬で繰り出す。
知らない攻撃ばかりだ。能力で無理やり手数を増やして逸らす努力をする。
強く地面を踏み込み、その姿からは想像できないほどの重い攻撃で身体が後ろに押される。
反応が遅れたせいで全てを防がなければならなくなってしまった。
「ぐぅ……」
コイツはニンゲンなのか!?
私は声を漏らして頑張って弾くが終わりが見えないのが本当に辛い。
安心するな、今のところ出来ていても一瞬の安堵で全てが瓦解するよ!
そう自分に喝を入れるが、入り込んできた攻撃が肩にあたる。
今のは仕方ない。私は悪くない。
私に連撃を打っている隙にマルが背後から、
「獣力 獣地」
岩でできた大きなハンマーを背中に叩き込んだ。
腰のあたりに当たったその打撃はそのまま老婆の身体を飛ばす。
ヴェレーノが吹き飛んだ身体に追撃を与える。
「獣力 焰刃!!」
焰の刃で首を狙って振り抜くがスカったようだ。
仕方ないだろう。相手も自分も速度が出ているのだから。
「ふぅ……」
ゆっくりと起き上がる老婆。
まだまだ元気らしい。
「儂は人殺しの趣味などないのじゃが、のう」
たんたんっと何かを投げつけてきた。
不思議な黒いものと四枚刃の小さな投げ武器。
「苦しみなど与えぬ。ゆっくりと安らぎに抱かれるが良い」
本気の老婆と戦う羽目になったのだった。




