☆堕霊☆
三つ子の幼い子供。男の子二人と女の子一人の兄妹。
──そして彼らは神であった。
ここは二番目に広大な領土を持つ、ルーヴァという国。社会主義の国であり、ヴェラよりも長い歴史を持つ。大陸の中央にある国でヴェラ、ステージ、ダラニ、アーガなどと面している。
同じ宗教が三つに分かれ、それぞれの宗教がそれぞれの土地を管轄しているため、国の政府はほとんど機能していない。
さらに、経済状況や社会主義国としてのあり方もそれぞれ違う。
完全に全ての人や職業、食物を管理しているのは国土の北にあるルナク県。
社会主義的な思想はほとんど持っておらず資本主義にかなり近い、南東側に位置するウーナ県。
職業だけ国が指定し、ほかは自由市場となっている南西に位置するパナヴァ県。
そしてどこにも属さない中央に走るポレモス山脈。
その3つの県を分けるのは川であり、今までは安定していた。だが、パナヴァ県が補助していたヴェラが負けて改宗政策がステージの手によってされている。
それは信者の減少でありシヴァ派の弱化を意味する。
加えて神への信心の増減によって大司教、預言者の信託の威力が変動する。信心の減少というのはイコール威力、権威の減少ということでそれは避けたい話。
そしてそんな一番パナヴァ県にとって都合の悪い状況で今、『三宗会議』が行われている。
代表者が集まり、国政を進めるというものである。だが、基本話はまとまらない。
「────のう、シヴァ?」
なぜ自分がここに呼ばれてしまったのか。王族であるパナヴァ・ミットロはため息混じりで返答する。
「もう一度よろしいでしょうか?」
そもそも俺は第一子などではない。なんなら末っ子だ。
もちろん王族なのだから呼ばれかねない血筋ではあれど、こういうのは苦手だ。
「貴公らのまつりごとの失策の責任をどのように負うのかと問うておる」
知るかよ。今聞いてきたのはルナク県の代表者、県長その人である。
県の政治は父が請け負っている。
つまり政治に関しては一切わからない。特に今の話はヴェラが先走ったことによる敗戦の話だろう。
生まれてすぐシヴァの弟を送りつけていたと言うべきか?
シヴァの弟は預言と言って宗教を悪用していた。アイツに制止が効かなかったのだ。
「まつりごとの失策とはヴェラの戦争ということでよろしいでしょうか?」
イラッとしたようなルナク県長。
「そうだ」
今回は責任者を送るはずなのになぜ俺なのだ、と幾度も考え、ため息が自然とこぼれる。
「ヴェラが抱いていたステージへの憎しみをなぜか彼が覚えていたらしいです」
自分だって良くわかっていない。
憶測の域をでないし、今となっては分からないが側近がなにかしらを教え込んだのだろう。
「それによって我等の抑制も聞かず、ステージに攻め込んだのです」
それに全く納得していない様子であるが、自分だって理解しきれていない。
「まぁ良い。ならば貴公、今宵の会議は出席するな」
こっちから願い下げだと言う感じなのだが、それに出席できないということはしばらくの治世を知らぬままでいるということになる。
そもそも『貴公』とは対等以下の人に対して使うものであるため、対等と思われていない。どうでもいいけど。
「くわっはっはっは!! 貴女はよう虐めている」
いきなりの大笑に身構える。
「煩いぞ。妾のすることに苦言などあろうはずがないのだ」
なんだ、こいつ。声も顔もかわいいのにとんでもない奴だわ。
まあ王侯貴族の長女たる彼女は随分と甘やかされて育ったのだろう。
「出席するがよい。元は貴公の父及び兄の失策である、此奴に反省の余地などなかろうて」
完全に俺の立場を把握している。
この言葉は俺に恩を着せつつ、裏で盗聴している俺の家族への威圧だろう。
静かに椅子から立ち上がり、
「ありがとう存じます」
と頭を下げる。ここで発言権を有する三人の中で立ち位置は一番下だ。
そしてこの場は解散となった。
その『三宗会議』と同時刻にギルドマスターを集めてステージでも国ぐるみの会議が開かれていた。
その名も『国内地方防衛組合会議』という。
今回の議題は、ヴェラの統治するギルドマスターの指名、そして堕霊の話である。
「今回の戦の死者は何名ですか?」
「では、ステージ国王は返答よろしくお願いします」
その質問が国王ステージに投げかけられる。
「わが国民が2,035名、我が国の兵士たちが3,109名、ヴェラ兵が5,803名の計10,947名だ」
人の魂で顕現する堕霊は戦争中によく発見される。
今回は今のところ目撃情報はないが、いつ現れるかわからない以上今のうちに現れるところを洗いざらいしておく必要がある。
「ご返事ありがとうございます。質問者はわかりましたか?」
「はい、ありがとうございます」
カタン、と椅子に座る音が響く。
「では議事を進行します。ヴェラに置かれるギルドの統治を行う人物の指名をステージ国王お願いします」
そして6人の名前が呼ばれた。ヴェラを六分して彼らが今まで見守っていた土地は他のギルドマスターに統合されることになった。
ちなみに、ギルドの土地は明確に区分はされていない。一番近いところにいるギルドメンバーの所属するギルドのリーダーに任せられるのだ。
「では呼ぼう。カイ、ルート、ログ、ジョーヨ、インスー、ニコウ」
5人が順に立つ。だが、ひとりログだけが立たずに手を挙げる。
「はい」
「発言してください」
議長が発言を促す。
「私は辞退します」
それはギルドが国が管理しているものではないから拒否ができるのだ。
「なるほど、良い。では代わりにウミラ、君に任せてよいか?」
次に指名された人は頷く。特徴的な蒼い首飾りはバッチではない。それがどういう物なのかは本人しかわからない。
いろいろなものが決議されこの場は終わったのだった。
なぜまた私はヴェラにいるのか。
それは私がヴェラに2度来たことがあるかららしい。三度目の正直……、ではなくどちらかというと仏の顔も三度までだ。
何度この土地に訪れれば良いのか。
私がここにきたくないのにはもちろん理由がある。
まずはサービスだ。宿がとても少ない。田舎ともなればそもそもない。
宿だけではなく食事をするところがほとんどない。私のスキルでは食べ物を召喚できるのだが、それはかなり一時的なもの。
魔力を結晶化した食べ物は他の人が食べればプラスだが、自分で食べる分にはマイナスだ。
一時的な満腹感は得られるため、たまになら使うのだが、発動のときにもエネルギーを消費するともなれば長期遠征には向かないのだ。
というわけで普段はこの能力に関しては使っていない。
次に活気、人通りという点だ。
大きな街を除いて全く人通りはないと言ってもよく、居るとすれば変態野郎か冒険者、物乞いくらいだ。
物に関しては基本配給システムなのだが、戦争が終わり物資が不足している。そのせいで物乞いが急増したそう。
週に一度ほど商人が訪れて物を売る。
変態野郎というのは誘拐犯が性犯罪を目的にしたりや奴隷にするのを目的に活動している。
最後は個々で私が戦ってここの国民の生活を壊してしまったこと。
これらの理由から私はあまりここにきたくないのだ。
そして今、二度と来るもんかと再認識したのだった。
『三宗会議』
唯一権能を持つ国権機関。
三つの代表者が集まり会談する。
数百年前から続く伝統ある会議である。
『国内地方防衛組合会議』
ギルドのリーダーであるギルドマスターを国内の全地方から集めて行う会議。
ギルドは世界中にあり、それぞれがそれぞれの国を守っている。だが、ギルドは私的な組合を自称しているため国の命令も拒否権を持つ。
そして有事には国外のギルドの力を借りることもある。
だが、高い利用料がかかるため嫌煙される。
ちなみに全大陸のギルドマスターを集めて行う会議を『全大陸組合会議』という。
堕霊
天使の堕ちた姿。天使、悪魔それぞれが階級を持つ。
堕霊は仲間討ちや生き物を殺してをしてチカラを奪う。それによって階級が上がる。
天使は魔術を使うほどに強くなる。
だが、どちらも階級定員があり常に変動する。
堕霊は人が死んだ時にその場に残留した魂を喰らって顕現する。
その時に天使も現れる。
そうやって、また大きな戦争が起こるのだ。かつてステージとヴェラに二分した戦が。全てを灼き払う、地獄の業火が。
それは確かに地獄だった。
堕霊 ( 下位堕霊→中位堕霊→上位堕霊→三大堕霊→悪魔女帝 )
天使 (下位天使もしくは精霊→中位天使→五輪天使→上位天使もしくは聖神 )
だが、天使には隠されたランクがあるようだ。




