☆蒼☆
今回は珍しく領地内だった。っていうかいつも管轄外だった気がしてきた。
あっ、そう思ったらなんか少しずつギルド不信になりそう。こういうことはあまり深く考えるのは愚の骨頂。
頭をブンブンと振って思考をやめる。
まあ良いや。今回は何時ぞやの丘、ドゥーラ丘である。一人でテント張って過ごした夜。
あんな場所にとんでもモンスターが居たらしい。ホントに襲われなくて良かった。
「ここねぇ……」
どうやらこのドゥーラ丘はマニにも嫌な思い出があるみたいだ。
「どうしたの?」
私がマニに話を振る。
「なんか気分悪いなって」
「大丈夫?」
「病気とかそういう感じじゃないんだよな」
そうなのか。私には干渉できないみたいだから思考を呪肉鬼に戻す。
「この辺じゃない?」
私を乗せてくれていたマリが止まってそう言う。
「そうだね。ありがとう!」
私はマニを撫でてから降りる。可愛い音を漏らしている。
それぞれ乗せている人を降ろして人の姿に戻った4匹。
「パウロどのへんにいるか分かる?」
パウロには敵影の感知システムがあるらしく、その精度は『魔力感知』の100倍ほどらしい。
もちろん、研究員が言っていただけらしいから正確な値ではないと思うが。
「あちらのようです」
「よし、走ろう!!」
「おけ!」
「わかりました」
武器を取り出して走り出していく。目の前の閉じた美しい白い羽が神秘的だ。
おそらくゆっくり目に走ってくれているのだろうがそれでもだいぶ速い。
5分ほどだろうか? ずっと走っていると私の魔力感知にも敵の姿が映った。
「ご注意ください」
冷静なその声は直接脳に伝えられているかのようにはっきりとそしてまだ頭を占領している。
「神託 黒・双雷」
キュッと短く高い音がなり、遅れて私が理解する。
おそらく細く鋭い雷の光線を放った。それは容易く一体の呪肉鬼を貫いた。
だけど、いきなり私の魔力感知が数十体の呪肉鬼を捕捉した。
「能力 掃除屋」
最近内緒で技量を上げていたのだ!!! というのも片刃剣はかなり扱いが難しく、少しづつ木やその辺のモンスターを狩って扱いを覚えてきた。
そしてなぜかわからないがたまに黎い爆発みたいなものが起こる。
そういう物を知らずに使い続けるのは良くないからここで掴んでいこうと思ったわけである。
風を纏わせた片刃剣をもって呪肉鬼に斬りかかる。サクッと斬れて気持ちいい。
「能力 絢爛水舞」
水の斬撃を飛ばして呪肉鬼をなぎ倒していく。
バフっと黒いオーラが傷口から噴き出して動かなくなる。
「神託 黒・双雷」
手に握った黒い雷を投げて雷が地面を伝ってまとめて倒していく。
さらに獣人たちは各々の武器や爪でゴブリンを切り裂いていって母数がどんどん減っているのが分かる。
「トドメは任せて……。能力 掃除屋!!」
ようやく準備が整った。私が初めて使う大規模な能力。
地面から炎の柱が何本も噴き上がり、皆燃やしていく。
ちゃんと仲間を避けて炎を呼ぶ。
「やるね、バス姉ちゃん……」
多分溢れて出たであろうその言葉はやけにくすぐったい。
「でしょ」
私は平然を装ってそういった。
「まあいいや、死体を集めよう」
マニが散らかった呪肉鬼の亡骸を見ながらそういった。
「死体集めますよ」
ん、どういうことだ? 聞く前に、目の前の骸たちが消えうせた。
「すみません、勝手にやってしまって……。取り出しましょうか?」
はっとしたように謝るパウロ。
「問題ない、むしろありがとうだよ! あ、でもその死体を提出しなきゃいけないからその時ついてきてくれる?」
どちらかと言うと助かるという感情のほうが大きい。
そもそもあまり入れておきたくないから、他の人が持ってくれる分には感謝なのだ。
「はい、もちろんです」
始めのときのマラたちとにた感覚に今いる。でも根底にある感情が違う。
『慕い』と『恩』。似たような気もするが違う。
彼女が抱いているのは返すべき『恩』というものであり、マラたちは私を慕っていた。
『恩』はきっと彼女を縛り付け、実験体にされていたときと同じ立ち位置に留めさせるだろう。
それは本当の意味で彼女を解放していない。だけどそれを指摘したり、訂正させるのは私ではなくマニであるべきだ。
彼女を助けて味方にしたマニがその現状に気づくのはきっとまだまだ時間がかかる。
「帰ろう」
私の稼働し続けていた脳みそを遮るようにマニがそういった。
少し疲れたような気がするがおそらく大規模な能力を発動させたからなのだろう。
ドサァとカウンターに大量の死体が落ちてくる。死体が傷つかぬように優しく扱っているようだが量が量だ。
「えっ……と」
受付嬢のひともかなり困惑している。
見た目は完全に有翼人だが、ハーピィは『異空間収納』を持たない。
「少々お待ちください!!」
叫びとも取れるそれはおそらく嬉しい悲鳴といったところか。
いや、そう思っておいたほうが自分自身にとって良いだろう。うん、そうに決まっている。
「座って待ってようか」
「はい」
今は私とマニとパウロの3人だ。他の4人は宿で待ってもらっている。
「なんか頼む?」
ここはランクによって頼めるドリンクと軽食が変わる。それは無料で提供されるのだ。
私の能力で適当なご飯を呼べるのだが普通に忘れていた。まあ良いだろう。
やはり手作りに勝手に補正してもらったほうが私としても楽しい。
「んー、マニは何でも良いかな」
ハッとしたような顔のマニに私は一瞬考える。
そしてそんなに考えることなくその理由に気がついた。
マニは一人称が『マニ』だったらしい。可愛いヤツめ。
「そうか。パウロは?」
「お誘い感謝します。ですが申し訳無いです」
敬語はやはり慣れていないのだろうか。
「遠慮しなくていいのに……」
私はそう呟いて注文しに行く。
当時は高かったこの椅子もらくらくとは言わずとも登るようなことはない。
「サンドウィッチ3つと、フルーツドリンクを」
私は首からぶら下げたバッチをみせて注文した。
「お持ちしますので席でお待ち下さい」
感謝を伝えて席に戻る。
数分で注文したご飯が届いた。
『新鮮野菜のサンドウィッチ』と『フレッシュフルーツのスムージー』。
少し大きめのサンドウィッチ2早速手を伸ばす。
口に入れたときのシャクっとした野菜の食感と甘じょっぱいタレが最高。スムージーも少し酸っぱいが、それがとてもサンドウィッチと合う。
意外と一番食べているのはパウロ。幸せそうにご飯を食べている。一心不乱に口を動かすパウロはとても愛おしい。
マニは静かにゆっくり食べている。なのにのどに詰まらせたのか胸の中央を叩いている。
それはそれで可愛い。
「終わりました。ここで大丈夫ですか?」
討伐部門の受付嬢がわざわざ席までやってきて審査を終えたことを報告してくれた。
「あなた方のチームは合格です。パウロさんの実力検定が終われば正式に蒼位となります」
そういえばそんなのもあったわ。
「いける?」
パウロにそう聞くマニ。
「もちろんです」
自信満々のその返事を残してパウロは連れて行かれた。
そして呪肉鬼の死体の売却を終え、5分立たずでパウロは合格して戻ってきた。
「とんでもない快進撃でしたよ。これがバッチです」
人数分の蒼色のバッチ。
それを、首から下げる。
私たちは正式にチームになったのだった。
有翼人
人と鳥の末裔とされる存在。
彼らは不貞の存在として忌避されている。だが、人の遺伝子を持つため人との子供を作れる。
空を飛び、炎を中心とした魔術を使う。
倒して得られるくちばしはそのまま首飾りとなり、羽根は上質な服に使われる。生きたまま捕まえると奴隷オークションなどで出品される。
きっと彼らは感じている。ニンゲンに対する優越を。
翼を持たぬものが我等に敵うものか。醜くずっと嘯けば良い、と。




