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☆白い狼☆

今私は森の中にいる。私の街の隣に位置する広い森。

 初任務の下位狼(ローウルフ)の討伐依頼。そのためにここにやってきた。

 下位狼(ローウルフ)。鋭い牙と爪を持ち、俊敏に森を駆け巡る。灰色の毛並みは初心冒険者の刃をたやすくおるほどに硬い。

 それは疾風のごとく。駆け出し冒険者によく出される依頼であり、繁殖力がとても高く、一組の親から15から20ほど生む。

 駆け出し冒険者の死傷事故の多くを占めているらしい。 

 まぁ、ギルドからすると最後の選別的な意味合いも強く、この程度で死ぬようならいらないんだろうけどね。


「そろそろ……のはず」


わたしは周りを油断することなく見渡し、周囲を警戒する。 

 カサカサと低木がそよ風で揺れる。

 それは本当にそよ風だろうか。土の匂いがつよくなる。

 依頼内容は、行商人が襲われて馬を食べられた、だったか。

 地面には真っ直ぐな道が続いている。

 森の中を通ることで輸送費を浮かせることができる。その分仕入れに回せるのだ。

 だが、そんな事を言ってしまえば自己責任になってしまう。だから「迷い込んでしまった」とウソを付くのだ。

 本当はそういうものはギルド側でなかったことにすることもあるのだが、今回は私の初任務ということで出動命令が出た。

 私の魔力感知が4匹の狼を捉える。

 『ユニーク 料理屋』を使い、周りの木々を燃やし尽くして戦闘しやすい空間を作り出す。

 手には解体包丁(ナタ)をもつ。鉄製の重厚な見た目だが、私の魔力の具現化のため重さはない。


「さあ、おいでよ」


わたしは一瞬躊躇う。下位狼(ローウルフ)は口を大きく開けて襲いかかる。

 慌てて避ける。躊躇できるほど私は、強くない。

 私は跳躍する。ナタを振り回して一匹の首を刈り取る。

 残りの狼は後ろに跳躍する。

 

「ワ、ワレラハ、ハンセイシテイマス。アナタサマノ、ハイカニシテクダサイ!!」


カタコトで謝罪をしてきた。わたしははっとする。


「ご、ごめんっ! 話も聞かずに君たちの仲間を倒しちゃって……」

「我ラガ悪イノデス」


彼らには悪いことをしてしまった。話し合おうとすればよかった。獣と区別にしていた自分が悲しい。


「配下……配下(ペット)ね……。良いのかなぁ、ゲルド的に」

「何トゾヨロシクオ願イシマス!」


だが、ギルドの中に魔犬を連れてきている人はいた。多分大丈夫だろう……たぶん。


「いいよ!」


3匹の白い狼。オス2匹とメス1匹らしい。


「んーと、君はマラ。そして君は、マリ。最後に君は、マル。うん! いい名前になった!」


私は名前をつける。うん、いい名前になった。もう一度そう繰り返す。

 名前をつけることで魂を結束して、魔力を円滑に貸出できる。更に、きちんとした忠誠心を持っていれば能力還元も起こる。

 事実上の強化である。

 だが、魔力の貸出は半強制的なため、毛嫌うものも多く、あまり使われていないのだ。

 だが、それは相互ともにであり、人語を操る程度の知能があれば進化を促す。

 それは魔物に限った話ではない。もし、魔力回路をニンゲン同士でも結べば同様の強化が行える。

 だが、主従関係が力ではない複雑な生物である。

 そのため、裏切りが予測しづらく主従関係を築いたことによる利益よりも不利益のほうが大きいと言うのが共通の認識である。

 その点、魔獣や魔物では一度信頼関係を築ければとても心強い仲間となる。

 魔物の中の上位種である、天使系や悪魔系と結ぶことが難しいが、もちろん人間に化けることもできるため、国の重鎮やスパイ関連の組織にはいることが多い。

 そんな時を考えて自分のした行為を肯定していた。


「申し出を受け入れていただきありがたく思います!」


流暢な言葉を操り、跪いた。

 美しい白髪を靡かせている。

 んと? 君は、マリ?

 そして、私に一つの能力が目覚める。

 『グループ 人狼』。種族特有の能力らしい。能力還元ってそゆこと?

 1、嗅覚によって空間を把握できる。

 2、人狼に化けることができる。

私の鼻が圧倒的に強く嗅覚を捉えている。土の匂い、草木の匂い、空の匂い、雨の匂い。

 

「雨が降りますね」


マラが匂いを探知したのかそう言った。


「うん。じゃあ帰ろうか」




街の近くまで来た。まず街の人にはあまりバレたくはない。

 3人をよく見る。服は渡していないが、おそらくスキルを上手く使うことで毛を服に変えたのだろう。

 そして3人と目が合うと、


「尻尾と耳ですか? もうなくしてます!」


マルが獣の耳があったところを指さしていった。

 なら白髪四人組パーティーが下山したって言い切ろうか。

 私達は下山道を通って街に入る。

 街にだいぶ溶け込んできて、みんな笑顔で手を振ってくれる。

 ギルドの中に入ると、


「あら! オリちゃん。初任務はどうだった?」


先輩冒険者が私に話しかけてきた。

 オリヴィアではなく、親しくなった先輩たちはオリと呼んでくれる。


「どうだったか……きいといて何だけど人狼を仲間にしたの?」


一発で見抜かれた。彼女は『ジョブ 種族看破』を持っている。

 つまりは彼女の前では種族がバレるのだ。

 マルが、


「オリヴィア様。この方は誰でしょうか?」

「先輩だよ。このトートさんのおかげで強くなれたんだよ」

「そうですか」


3人は迸っていた殺気を見事に消す。


「強そうな人狼たちね。その中でも上位種だ」


目を細めて小さくつぶやいた。


「貴女に見せたいものがあるの。……蒼位(ブルー)になったら、みせるわ」


怪しい笑顔を浮かべている。顔が整っているだけあって少し怖い。


「……はい。楽しみにしてます」


私は少し気を張って答える。空気がピリつく。

 不自然に細めた目は悍ましいくらいに冷酷な雰囲気をつくりだしている。

 この人はいきなりこうなることが多々ある。威圧されているような、気圧されるようなプレッシャーを放っている。

 彼女は手を少し振ると去っていった。


「彼女は素敵な雰囲気を放ってましたね。誘惑的な……」


ふぅん、と私は言った後に少し違和感を覚える。

 まぁ良いか、と考えることを止める。


「おかえり。任務報告を」

「はい。4匹の下位狼(ローウルフ)がいました。群長(ボス)を倒すとすぐに恭順になり、私の配下にしました」

「……そうか。彼らはそういうことか。ちゃんと君を慕ってるみたいだ。認可しよう」


彼らは認められた。流石に獣の姿だと危うかったが、なんとかなってよかった。

 今後のいろいろの説明を受け、終わった頃は日が傾いていた。

 

「ねぇ、君たちのボスどこに埋葬しよう?」


私は3人に聞いた。


「あなたの好きにしてください、もしよろしければ衣服とかにするのはどうでしょう?」

「え、いいの?」

「我らののぞみはあなた様のしたいことですので」


残りの2人もそのとおりと大きく頷いている。じゃあ、といって、私はギルドの加工場に行く。


「これは上質だな! 毛皮もよし、爪もよし、牙もよし、肉もよしだ!!」

「じゃあ、武器と肉と服作ってくれる?」

「おうよ! 言い方悪ぃが、よく『魔狼』狩れたな!」


え、まろー? マロー? 『魔狼』!?

 私は真っ白の狼を見る。(たす)かに! 魔狼は『上位狼』が魔力を溜め込んで、30年怪我を負うことなく生きていることで毛皮が真っ白に染まる。

 激レアの毛皮であり、高位貴族の結婚式で花嫁が着るくらい高額である。

 その貴重性と防御力の高さ、更には魔力染(まぞめ)つまり魔力の注入具合で黒から白の間で色を操れることによる加工のしやすさ。

 その外套は目を引くような美しさをもつと言う。

 12歳の女子なのだ。戦闘に身を置こうともオシャレは好き。

 18歳の先輩女性冒険者とオシャレで盛り上がれるのだから。

 思考が逸れた。私はふと思い出す。


「あとできたら──」




翌日。獣の姿に戻ったマラたちになめられて目が覚めた。

 白い毛並み。新雪のような、晴れの日の雲のような。

 もふもふしていて、ふわふわしている。

 でもドアのノックの音で固くなった。針のような、鱗のような。

 

「あぁ。マラ達人化」


私は小声でそう伝えると皆はすぐに人化してくれた。

 魔力探知でギルドの加工場のおじさんと判断したのだ。


「すまねぇ、英気をためてる(とこん)に。これ完成品だ」


私の手渡されたのは一つの刀。

 刃紋は美しく波打っていて、黒い。そして緩く反っていて格好いい。

 鍔はボスの毛皮を使われているのか。

 柄には丁寧に編み込まれた毛が美しく締めている。

 そしてもう一つ手渡されたコートは内側に美しい白。外側はまた違った美しさを持つグレーの毛皮。

 そしてフードには耳の周辺だけ暖かくなっている。寒さガードとともに暑さガードもつく魔力服だった。

 

「そしてこっちが3本の短刀と服だ」

「ありがとう」


3人は不思議な顔をしている。

 私はおじさんの説明を受ける。




 一つ一つがとてつもない力を持っているのにそれを3本も。

 武器はまだわかるが服はわからない。そもそも彼女はトンデモ能力(スキル)保持者なのだ。

 ユニークだけではなく、物質想造というユニークの中でも最上位に位置する権限持ちなのだ。

 人間はバカである。能力(スキル)の名前ですべてを決めていくのだから。

 ユニークであることを無視して。

 物質想造は少しの魔力を結合させ、物質状態にすることで消費少なく永続する物質を作る。

 そんな能力を持つ彼女が服を4枚も欲するワケがないのだ。


「君達いる?」


深い思考を続けていたオレはその言葉で彼女の方向を見る。

 彼女は不安げな表情を浮かべている。

 何に不安を感じているのだろうか。


「くれるのですか?」

「うん。嫌ならいいんだけれど……」


ああ、そういうことか。

 彼女は案じているのだ。オレ達が受け取るのか。そして渡すことによってオレ達と彼女の仲にヒビがはえることを。

 そんなことがあろうはずがない。オレ達の親父の遺品で作ったものをおすそ分けしようというその気持が嬉しいのだから。

 彼女は純然だ。なんでこんな仕事をしているのかなんて聞かない。 

 ただ命を落とそうとも彼女を守ることをオレは心に誓ったのだ。

受験もなんとか終わり、作品投稿再開します!これからもよろしくお願いします!!

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