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☆戻った日々☆

うぅ〜、疲れたぁ。そう息を吐きながらベッドに横たわる。

 この戦でポイントが稼ぐことができたおかげで何個か任務をこなせば蒼位(ブルー)に昇格できる。

 給与が上がり、20歳未満でも住宅の契約が可能となる。

 そうすればようやく宿生活ともオサラバだ。まぁ、別に宿の生活も良かったのだが、やはり何も気にせず過ごせる我が家が欲しいと言うワケである。

 そして長期のミッションにでていたマラたちも帰還してきた。

 そして私たちが戦場に行っていたことを暴露した。

 更に言うならばマニがうちのチームに編成されたということも重大ニュースだ。

 というのも、本人の意志とうちのチームの魔物数が上限スレスレということもある。

 人1人につき5匹までだったはずだから、もう勧誘ができないのだ。

 となるといかなる理由があろうとも倒すか逃がすしかなくなり、逃がした場合の被害はすべて私が負担することになる。

 まぁ、マニとの旅がしたいという気持ちもなくはないからそれでいいか。




ギルドマスターは部屋の中を右往左往していた。

 ここ最近、出兵してからというもの普段冷静沈着な彼が意味のないうろちょろをカマしている。

 もしうちのギルド内での死者が出れば国から報が届く。

 それは紅い紙に名前だけ書かれてあり、紅は血を現す。

 そんなものが届いてしまえばただでさえやかましく動く彼が発狂して涙をこぼすに違いない。

 しかも、我らメイドが部屋に入ることをついさっき禁じられた。

 ギルドマスターのことは放っておいて避難してきた人に食料を配る。

 朝日が昇り、燃料を節約するために暗い部屋に視界が通り始める。

 普段ならギルドの鍵を開けて冒険者たちの受付をするのだが、そんな事もできない。

 冒険者たちがローテーションを組んで見張りをしている。

 玄関を守る彼らに託して無施錠になっているのだ。

 そんなとき、ギルドマスターが飛び跳ねるような音が響く。

 ガチャと扉が空いてそのまま階段を駆け下りて私たちの元にやってきた。うるさい。


「静粛に」


ギルドマスターのいつもの声のような気がするが、若干嬉しそうな、なんというかいつもと違う。


「今日の午後までには緊急事態宣言が取り消される。荷物をまとめ帰宅の準備をするように」


それが意味するのは戦勝、そしてうちのギルドからの死者は、ゼロと言うことだ。

 やっと、この国に平和が戻ってくると歓喜にわいたのだった。




ど、ち、ら、に、し、よ、う、か、な、か、み、さ、ま、の、い、う、と、お、り。

 指が止まったのは左の依頼書。

 それはアゴーン森林の魔物ハントである。

 ビリッとやぶって受付に持っていき受理届を書く。


「そういえば、武器の精錬ができたそうですよ」


受付嬢の方が教えてくれた。

 今回の戦争でカタナの刃毀(はこぼ)れが多少あった。あとは倒した人から頂いた武器も同時に研いでもらっていた。

 いつぞやの竜の素材も同時に渡すことで『研ぎ入れ』してもらうのだ。 

 受付嬢に感謝を述べてそのまま鍛冶屋に行く。

 歩くたびに足が痛いのは筋肉痛だろうか。

 いつもより少し時間をかけながらすすんでいく。

 少し重いドアを引いて鍛冶屋の中に入る。ムワッとした空気が私を襲う。


「よぉ、武器はできたぜ」


まるで鉄に話しかけてるように視線をずらさずそう言った。

 ハンマーが振り下ろされるたびに火の粉が飛び散る。

 いつもの場所に私の武器が置いてあるはずだ。勝手に鍵を取って奥の扉の鍵を開ける。

 丁寧に扱われているのであろう私の武器は重厚な箱の中にしまい込まれていた。

 難しそうな鞭も使いやすくなっていて、直剣や愛用のカタナそしてヴェラの片刃剣。

 そのどれもが扱いやすくなっていて感謝である。

 箱に蓋をして私の武器をメインウェポン以外を収納する。

 そうそう、片刃剣の使いやすさとかもちゃんと確認しなきゃ。

 それにマニ達の武器も拾う。すごい数の武器を集めて、扉を閉めて鍵もかける。

 武器を持ち上げて確認している鍛冶屋のおっちゃんは納得いったのか水の中に突っ込んだ。

 

「よう、生き延びたな」


私の方を向いてそう言った。


「でしょ?」


私はおどけてみせる。

 あの戦で勝ったのは事実だ。だけど、イオアン含め心強い味方が多かった。

 私は弱かったから、たくさんの味方が死んでしまった。私は守れなかった。

 そんなことを共有できるような味方は少ない。みんなの前では明るくいなければならない。

 だって、その責任を一番感じているのはイオアンであろうから。


「あぁ、代金は要らないよ」


それに驚く。今回は頼んだ武器の数も、種類も多い。とくに鞭なんて研ぎづらいだろうし。


「なんで?」


じゅー、という水の音がだんだん弱くなっていく。

 それに気がついたのか手袋をつけ直し、それをもう一度火の中に突っ込む。


「そりゃあ、アンタが生きてっから。あとは、この街の死傷者はゼロだったからな」



それは初耳だ。


「戦争っちゅうのは起こるべくして起こる。それが宗教なのか、歴史的な背景か、貧富の差か。そんなのはお偉いさん達が勝手に理由をつけんだ」


ゆっくりと落ち着いた口調で話し続ける。


「正直、政権が入れ替わっても仕方がないしどうでも良い。だけど、民が苦しむのにそれを取るのが許せんのや」


赤くなった鉄を取り出し叩く。


「やから、アンタが生きとってわしゃ嬉しいんや」


頭の中をその一つの文がなんども再生される。

 鼻につーんと痛みが走る。目頭が熱くなる。無性に、抱きしめたくなる。

 だけど私は強くなければいけない。守るべきものを守るために。

 ドアに手をかけて鍛冶屋を出る。空気がまるで変わる。


「また持って来いな」


ドアが完全に閉まる前にすり抜けて私に届くその声。


「うん、またね」


足の痛みなど忘れてマラたちに会いに戻る。




戻ってきたオリは吹っ切れたような、少なくともさっきとは全く雰囲気が違う。

 それに安心して彼女(オリ)に走って近づく。


「おかえり!」


オリは前と同じ、優しい笑みを浮かべて抱きしめてくれる。


「……ただいま!!」


そんな私達をみる他の三人。

 ふっ、私だけの特権なんだな、これが。

 だけどそんなのを気にしない人もいた。それは、マニだ。


「お疲れなの?」


あいも変わらず言葉にトゲがあるが、その実彼女(マニ)なりに心配しているのだろう。


「いや、行こうか」


やっと、オリと一緒に冒険に行ける。

 だれが知らない人を背中に乗せたいのだろうか。いや、マラとマルは簡単に寄せていたのだが。

 少なくともゴリゴリの重装は嫌だ。せめて軽装の弓兵とかどうよ?

 なら載せても良いかも知らん。

 悶々と1人でそんな事を考えていると今回の任務の説明をオリがしている。


「今回の敵はゴブリンだけど気を付けることね」


おいおい、声可愛いかよ。

 この声を聞き漏らしたと考えるととてももったいないことをした。


「なんで?」


聞き返したマニに心から感謝を述べる。

 全神経を耳に集中してその声質(せいしつ)を堪能する。


「今回は魔法を使うゴブリンだ」


魔法を使うのか。それは厄介である。


「マラとマリの背中に乗って移動したいんだけど、良い?」


そんな、毎回確認など取る必要もないのに。しかも毎回流れ作業のような聞き方などではなく、心配してるのが伺える。

 

「良いよ」


なんなら『乗ってください』まである。

 すまんな、マルよ。今回のアナタはついてくるだけだ。

 ヴェレーノは体を丸めているから話を聞いていないだろう。もったいないわ。

 そこから研いでもらっていた武器をオリが持ってきてくれていて、それを受け取る。

 ほら、こういうところが彼女のいいところっていうワケ。

 そして宿をあとにしたのだった。




研ぎ入れ


熟練の鍛冶屋が行う特別な鍛冶。

 特殊な魔物の素材を武具にその魔物の力を注入できることがある。魔法剣などを作る際には必須な力となる。

 その力を初めて確認されたとき仕事に恵まれた。

 だが、いつの間にか羨望の対象に変わり、殺され、奪われた。今でもこの力は上位のもののみが扱え、希少価値を保っている。

 いつか使ってみたいものである。

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