☆黒き炎☆
作戦の決行だ。
宿をあとにして中央にそびえ立つ城に向かう。
マラッサさんがなんとかしてくれたみたいで警備が多少緩い。
だから背後から警備兵を殺して警戒させない。
巡回する兵士さんは遠距離からの弓矢で狙撃する。
サクッと城の周りの兵士を片付け本来の趣旨である『〜城侵入しちゃおう大作戦〜』の下準備が整った。
あとは眼前のバカでかい扉を打ち砕くのみである。
「行くよー!」
城内に侵入できた。だがもちろんそんなのがバレないはずもなくすぐに束になった兵士が現れる。
「能力 風華壱刀」
爆発した風に抱かれて兵士の多くが酷い姿になる。
「いきなり現れてこれかい?」
大きな盾を構えて重鎧を着た人が出てくる。
「よそ様の国を侵略しといてそれか?」
怒っているようだ。
今まで見せてこなかった表情を浮かべ静かに直剣を握っている。
「おいおい、私みたいな一般兵は責任などなかろうて」
鼻につくやつだ。
そんな態度に嫌気が差したのか彼の横を通り抜ける。
「いくぞ」
セルフィムがいつの間にか殺していたようでガシャンと大きな音が響いて倒れる。
「はい!」
私は頷いてセルフィムを追う。
広い城内はいくつも分岐していて目的の頂上へ行く階段が少ない。
見かけた敵は全員倒していく。そもそも敵が少ないから大して苦戦することもない。
だが、いつの間にか誰かに通報されていたらしく階層を上がっていくにつれて警戒度が上がっていく。
階段もおそらく1フロアにつき1個づつしか設置されておらず階段周りの警戒がすごい。
「見ぃつけた」
そんなときに後ろから声が聞こえた。
黒いドレスを着た女だ。
「あら、バレちゃった」
不気味なその女は二つの鎌を取り出した。
ゆらりとしたその動きから放たれる攻撃は見切りづらい。
カタナを取り出して対峙する。
周りの味方は階段に配置された兵士から倒しているらしい。
「あら、私はアナタを倒せば良いのかしら」
視覚や感覚よりも遅れてやってくる攻撃は慣れれば戦いやすいのだが慣れるのが大変だ。
「能力 絢爛水舞!」
水の針を出して相手の動きを観察する。
だけど、今までの動きと反して素早い動きで針を全て破壊される。
水のスキルは相性が悪いようだ。
「信託 鎌威風堂」
風の鎌が上から振り下ろされる。
横に回避してそれを避けるが風で吹き飛ばされる。
そこに追撃するようにクルクルと回りながら鎌が迫る。
ギィンと嫌な音が響いて敵の行動が止まる。
そのスキに斬り込むが大したダメージは入っていないらしい。
彼女の動きは見てなければ避けられないのに見すぎると攻撃をもらいそうになる。
いきなり突っ込むように目の前に来たかと思えば拘束されていた。
「あら、逞しい身体。良く頑張ったわね」
母親かのような優しい声とやわらかく包み込むような身体。
魅了されるかのような拘束攻撃だ。
なんとか腕を動かしてカタナを刺す。
「あら、痛いわね……」
毎回言う『あら』がだんだんと低い声に変わっていく。
彼女は怒っている。
その影響か、振る刃に風がエンチャントされた。
それは行動ごとに風が吹き荒れ回避ミスが起こりやすくなっている。
だけど、彼女の動きが単純化、そして大雑把になった。
降りかかる鎌をカタナで防いで間合いを詰める。
そして相手の鎌を蹴って飛ぶ。
そのまま頭に突き刺す。
「あら、もう終わり?」
私は決め台詞を放って相手の手から鎌を貰う。
地味に『あら』が腹立っていたのだ。
「能力 絢爛水舞!」
水の斬撃が敵の首を斬る。
「すまん、助太刀できなかった」
トドメに腹を剣で突き刺しながら私にそう言ってきた。
彼の服に付着した返り血でどれだけの兵士を狩ったのか分かる。
「一人の手練れがいた」
そうは言っているが、能力の詠唱が聞こえなかったことから全力ではなかったのだろう。
「大丈夫ですよ」
私はほとんど怪我をしてないし気にすることもない。
ただこの乱戦で城の壁が破壊されたのと5人死んだ。
彼らを弔う時間がない。
「彼らはあとで火葬しよう。今は勝たねばならない」
そんなのはわかっている。
泣いてる場合ではないのだから。
「彼らのためにもね」
その声に驚いた。何度も聞いた姉のものだ。
「バス……」
姉の胸に飛び込む。さっきの抱擁とは違うただ優しさがあった。
ところどころひび割れた床の先に倒れた女性と二振りの鎌をもった小さな背中が見えた。
ゆっくり近づいていくとセルフィムがいてマニである確信を持った。
今のマニは小さな子供のように私の胸の中で泣いている。
「こんな場所にいたくないから早く行こう」
今までの強い女性に戻る。
彼女の言葉に頷く。
イオアンが私の頭を撫でてそのまま階段に向かう。
穴の開いた階段は飛び越えて上の階層ついた。
そして大廊下を抜けてある大広間。
「何できちゃうかなぁ……」
風船のようなお腹すら守る青色の鎧。
私たちを見つけるなり黒鉄の大斧を取り出した。
丸い刃が左右対称についたその大斧は2メートルはあるだろう。
その大斧は黒き炎を宿しているらしい。
「では征くぞ!」
イオアンが弓を一つ撃ち放って一気に近づいていく。
それに5人ほどついていく。
「信託 黒炎」
渦巻く炎は武器で防げないらしい。
武器が溶け落ちていってしまえば戦えないまではいかないが、戦力は大幅に落ちてしまう。
三叉の槍を振り回して大斧の動きを誘導していく。
それはもはや舞踏であり、余裕を感じる。
「信託 黒·雷帝軍槍!」
雷の槍が展開されて乱れ飛ぶ。
昏い雷は黒き炎と色合いがマッチして見づらい。
「それで終わり?」
イオアンは背後にもう回っていた。
今の槍を回避するわずかな時間でそんなことをしているのかと驚く。
重厚な鎧を完全に貫いている三叉の槍。
「まだだぁ!!!」
怒涛の叫び声が部屋に響く。
それと同時に黒き炎が爆発して何人かを巻き込む。
「負けルはずガないッ!!!」
油断した味方が致命傷を負う。
それで今まで突っ立っていた事実に気がつく。
疲れた身体にムチを打って戦いに混ざる。
「クソガキが、なぜ来た?」
黒き炎を投げながら私に言ってきた。
かすってしまって左腕が痛む。
「能力 掃除屋」
門衛から貰った鋭い剣に風を纏わせる。
なぜか私の行動を目で追いかける彼。
「あの子を討ったのかッ!!!!!」
激しい咆哮は狂気に染まっていて、それはきっと『守る』ではなく『倒す』に攻撃の目的が変わったのがわかった。
それは単純な話ではない。
私は絶対、仲間の為に命を賭せていない。
イオアンの弓を避けずに喰らっている。
だけど蹌踉めいたりせずに、ただ私への殺意だけを抱いている。
「シネ」
彼を中心に爆発した黒き炎は部屋を覆い尽くした。
私は直感的に彼の上に飛んで移動していた。
それは正解だったようだ。
地面に埋まった大斧を抜いて一心不乱に攻撃を仕掛けられる。
「いってぇ……」
イオアンが立ち上がってその大斧を弾く。
「お前らいつまでボーっとしてんだ」
「いや、体力温存」
一理ある。まぁ、次の敵との戦いに彼らを差し出せば良い。
「先行ってて!」
大斧をなんとか受ける。
下手に受けたら刃毀れどころの騒ぎではないだろう。
イオアンが大斧に一撃を放つ。
バキッと折れた。
「煩わしい!!!」
さっきの黒き炎と同じ動きだ。
もう、見切っている。
兜を蹴って体勢を崩させて黒き炎の発動をなんとか阻止する。
そのまま剣で篭手を切り落とす。
落ちてゆく腕と一緒に目に入った折れた斧を拾って頭を叩き潰す。
ブシャッと昏く淀んだ血が吹き出す。
鎧の中から黒き炎が噴き出して消える。
中に残ったのはストラップだ。
開けると中には一人の少女が写っていた。
それは彼が狂った私の剣の持ち主の写真なのだろうか。
はやく、この戦いを終わらせねば行けないと思った。
黒き重斧
黒き炎が宿った大斧。
忠誠を誓ったある男が授かったものである。
とんでもなく重く振り回すのは大変だ。だけど彼は弛まぬ努力の末それを振り回す力を得た。
愛だの恋だのどうでも良いのに思い出してしまった。彼女の愛しさに。
でなければ黒く染まるはずがない。彼の誇りの黄金の雷が。
写し身のストラップ
忠誠とともに賜るストラップ。
中にはある少女の像が写っていた。
愛や憎悪などからなる忠誠のいかに希薄なものか。
ならば一緒に護衛させれば良いと気が付いた。一人のために守るなら、城ごと守れ。
それはとても悍ましいことだと思う。




