☆門衛☆
愉快だ。
神の言葉を騙って民を動かす。
私を無心で信じて命を賭す。
腹の底から込み上げてくる嗤いを堪える。
神など居たらこうはなっていない。
私など生まれるはずはない。
そしてこんな国があっていい、はずがないのだから。
そして妄言を伝えるのだ。
宿で一泊して、この街に慣れていく。そういえば、昨日の夜いきなり力を奪われたような感じがしたのだが、気のせいだろう。
今日の夜、城に侵入して討つ。
ドキドキしてしょうがない。
今はただ殺意を研ぎ澄まして作戦の成功を祈るだけだ。
土の壁一つ挟んで小さく声が聞こえる。
土を掘ってすでに王城の近くまでやってきていた。
地盤沈下などがあるかもしれないが、その辺はスキルで支えているし、通ってきた道は全てガチガチに埋めてきた。
もちろん空気穴は堀につなげておいたからそのへんも安心してほしい。
王城は地下に部屋があるらしく、声がわずかに聞こえてくる。
「この国も怪しくなってきたなぁ」
「黙れっ! 不遜ぞ!?」
チッと舌打ちを一つして、槍のような長物を地面に突く音が壁を越えて響く。
バレたかと思ったが、気づかなかったらしい。
衛兵がそれでいいのかと不安になったがバレてないならそれに越したことはない。
「お前らもかわいそうだなぁ」
鉄か何かを叩くような甲高い音とともに太い声が聞こえる。
「罪人は黙れ」
冷静な声でここは牢屋なのだと理解する。
笑い声とともに静かになっていく。
「今何時だ?」
外は雨なのか、湿った空気を感じる。
「何時でも良いだろう? さっさと寝ろ」
「言ってやっても良いだろうに。5時だよ」
日が暮れる時間になってくる。
決行は9時だったはず。まだまだ時間がある。
今下手に掘り進めたら音でバレるだろう。
だから時間になればこの壁をぶち破って牢屋に入る。
マップは知らない。だから他の部隊が先に入って兵士を全員殺して暴れる。
そして我々が死角から敵将を討つ。
だから今は隠れ忍ぶのだ。
正門の扉は破られ、城は燃えているように紅く染まった。
敵襲だ。
警戒を怠ったわけではないのに、今、眼前に敵国の兵がいる。
「信託 創聖!!」
白く光る刃が作り出して敵に刺す。
いや、刺せていない。
獰猛な狼のような、雰囲気を背後に感じる。
やっぱり人を殺す感覚は慣れない。
慣れたく、ない。
広い城内が赤くなる。
「あっちだ!」
イオアンが指を差した方向に曲がる。
部屋から出て大きな広場に居た。
「そうか、来たのか」
「へへっ。ワタシたちが最後の砦かな?」
イオアンは立ち止まり槍を構える。
「信託 光聖」
彼女の手に持つ剣が明るく光る。
後ろに控えていた仲間がその攻撃を受けてしまい倒れる。
「ちょっとずるいんじゃない?」
私たちの仲間の数を言っているのだろう。
「良いだろう? 我らが彼らの国を侵犯したのだから。冥加 生律」
地面が煌々と輝き、やる気が失せていく。
おそらく精神系の攻撃だ。
「そうか、君たちは生き残るか」
3人ほど、倒れて死ぬ。
「能力 神の恵み」
失せていたやる気が復活して力が増幅するのを感じる。
イオアンが大槍を男を狙って刺す。
が、それは避けられる。
「あなたはワタシがやるわ!」
イオアンを眺めていた視線が奪われる。
後ろに避けて後衛が別の兵士たちと戦っているのを確認する。
「任せていいな!?」
ケルビムの声に私は頷く。
こんなところで足止められるなら少数でも奥に送り込みたい。
「行かせないわ!」
スキルを軽々と回避してそのまま奥に進んでいく。
「私だけで我慢して」
その言葉に獣のような危なさを感じる。
「いいわね、待ってたわ!」
突進を避けて背後を取る。
だが、私の攻撃を完全に読まれて弾かれる。
「能力 掃除屋」
バッと風で距離をとる。
彼女の攻撃を見る。
「信託 光聖!」
光り輝く大弓が創製されて光の弓が放たれる。
横に飛んで避けて、能力で炎の弓を創る。
案外うまく行ったが、簡単に避けられた。
「面白いね、君!!」
接近され、上から振り下ろされた刃をカタナで弾く。
そのまま繰り出される連撃を弾き切り、喉をめがけて突くが避けられた。
追撃も当たらないと感じて息を整える。
「君は何でやり返しにきたのかな?」
それは、と言いかけて止まる。
国のためだ、なんて思ってなかったから。
家族の為でもなく友人のためでもない。
「あれ? 目的のない、理由のない仕返しかな?」
私には人を殺すほどの衝動はない。
国民は殺されたが私には全く関係のない命だ。
現実味などない。
「だからかぁ。君だけ瞳が違う」
私の攻撃を避けながら彼女は喋りをやめない。
「例えば今後ろの人達が死んだら?」
後ろが気になる。振り返りたい。
彼女を飛び越え、位置を変える。
後ろでは劣勢になりつつある戦友たちがいる。
横ではイオアンがおしているが彼女はすぐに助太刀などできぬだろう。
彼女を風で吹き飛ばして彼らのところに行こうか。
彼女は吹き飛ぶのか?
「注意、散漫」
横腹から生暖かくなる。
痛みがない。気が付かなかった。
「信託 光聖」
上から降り注ぐ光の剣を走って避ける。
「あ〜あ。隣はもう死んだね」
視界がぼやけきた。
きっと血が足りなくなってきたんだろう。
もう時間がない。
「能力 神の恵み」
隣の決着がつく。
弓矢が彼の胴を貫通する。
そこを槍でトドメを刺したのだ。
「大丈夫?」
イオアンが駆け寄ってきた。
傷口が塞がる。
私は彼女に近づいて攻撃を繰り返していく。
「積極的だね!」
彼女の迎撃を完全に防ぐ。
だけど斬り返す刃で二の腕から噴血する。
喉仏にカタナを突き刺す。
力が抜けて私に向かって倒れた。
納刀すると同時に、イオアンが治してくれた。
「良い勝利だったよ」
「今動けるのは何人ですか?」
イオアンはゆっくり口を開く。
「私たちを含めて5人さね」
その言葉に悲惨な戦闘が繰り広げられたのを察する。
「相手兵にかなりの強者が紛れ込んでいたようだ」
彼らを埋葬したいがそんな時間はない。
合掌して前へ、進んでいく。
信託 光聖
聖なる光をその場に出現させるスキル。
その輝きは闇に大きな特効を持つ。
そして怪我を徐々に回復させる力も持ち、ムーンが門衛となった所以である。
きっと、彼女も気がついていたのだろう。
祖国の闇を。それを明るみに出すには私は倒されるしかないのだと。
冥加
ダラニという国のスキルのこと。
彼らはバーダという宗教を信じていて、神に与えられると考える。
冥加 生律
聖なる光を操るスキル。
その輝きは不死なる敵に大きなダメージを与える。
そのスキルの持ち主だったブールは国を恨んでいたと聞く。
その恨みが報われることはついぞなかった。
恨みの形が変わって果たされる。それが彼の本望だと良いが。
聖実の剣
人を殺すための武器。
それは鋭く研がれて、良く手入れされている。
闇の力が刻印されたその一振りは持ち主を一時隠すことができる。
聖なる国を守ることを誓った彼女はただそれに従っただけだ。
だけど心の何処かできっと気がついていたはずだ。我らの神の内には闇がある、と。
忠聖の槍
人を刺し貫くための武器。
鋭く尖った槍は誓いを貫くことを意味するのだろう。
闇の力が刻印されたその一振りは持ち主を一時隠すことができる。
聖なる国を守ることを誓わされた彼は皮肉にも国と同じ命運になった。
鋭ければ人を貫く感覚に慣れぬはずだ。だって彼は人を殺すのが好きではないはずだから。




