☆なんてことだ☆
怪我はすぐに治してもらった。
3日ほど安静に過ごしていれば完全体になれた。
そして討伐計画の詳細が秘密裏に私とマニに送られた。
マラ、マリ、マルには別任務をお願いして今居ない。
だから完全二人きりの空間だ。
そして極力小さな声で会話を交わす。
「作戦はどうなの、バス姉」
「良いんじゃないの」
作戦の書かれた魔紙を見ながら言う。
その半透明の紙に浮かび上がるように文字が見える。
「明日午後4時集合ねぇ」
私が紙に書かれた文字を眺めながら言う。
「げ、じゃあめちゃくちゃ話長いってことか……」
「……ん? 何でそうなるの?」
私がそう言うと、
「だってさ、きっと作戦のスタートって夜じゃん。となるとそんな早く集まる必要ないじゃんか」
なるほど。一理あるかもしれない。
一理というか、あるかもしれないのは一話なのだが。
「そんなに話が長いの?」
そう聞くと明らかに嫌な顔をして、
「長いなんてもんじゃないよ。あれは催眠術もびっくり。何であんなに面白くない話を何時間も話せるのか……。なんなんだろ、あの国王」
なんてことだ。
トラウマなようだ。
思い出すだけであくびが出そうどころか出てる。
なんならあくびで涙まででてきている。
そうか、人を殺すというだけで憂鬱どころの騒ぎではないのだが、話が長いというのはそれにプラスアルファされてしまう。
本来は国王の有り難い話だと言うのに。
「まぁいいや。とりあえず明日に向けて英気を養っておこうか」
明日がとんでもなく、憂鬱だ。
なんてことだ。
長い。いや、長いなんてものじゃない。
眠気が定期的に襲ってくる。
「──これがわが国の歴史である。ここからはわが国の変遷を語っていこうと思う──」
端的に話したほうが良いと言うのに。
いまから変遷語るってマジ?
いままで語ってたのはなんだ?
あれが変遷じゃないならなんなんだ──?
──40分ほどだろうか……。
変遷を力いっぱい語り終えていた。おいおい、一話っていう話だっただろ。
二話あったわ。信じらんねぇわ。
そしてようやく本題の作戦の話に移り変わる。
「隣国との戦争は多くの命を奪った。森は燃え、家は崩れ、敵兵も死ぬ。何が預言者であろうか。そんな神など正しいはずがないのだ」
ようやく正しい事言い始めた。
そう、今は一刻を争う戦争中なのだ。
一話ごとに戦慄している場合ではないのだ。
「だが今はどうだろうか。送り込まれた敵兵はここに集まったわが国の先鋭たちによって殲滅された」
ほう。少しずつ眠気が覚めてきた。
スキルで少しずつ自分に痛みを与えて眠気を我慢していたのだがそれはもう不要かもしれない。
「それでソナタらに余から要望がある。イルヤを討伐してくれたまえ。リーダーは余からイオアンに頼んである」
その言葉と同時にひとりの女性が立ち上がり、皆に向かって礼をした。
「イオアンだ。ああ、聖のヨハネとも呼ばれている。どちらで呼んでくれても構わない」
美女である。茅色の髪の毛はとても美しく光を反射している。
集まっているのは50人ほどである。つまり彼女はその50人をまとめ上げられると評価されているのだ。
よく見ると首に吊り下げているのは黑色のギルドのバッジである。それは彼女が確かな実力者であるということを明確に示していた。
「そして5人のサブリーダー、1人目、ケルビム」
その声に1人の大きな男が立った。
獅子のような体躯に牡牛の脚、鷲のような羽。
異人だ。
わかりやすく例えるならば独立したマラたちといったところだ。
「2人目、サキエル」
蒼の髪は波のごとくうねっている。
半透明のローブを纏った女性だ。
腰には大きく曲がった曲刀をもっている。
「3人目、セルフィム」
白い髪と防御力を考えていない薄着。
女性っぽい感じがするが男性なのだろう。
ほぼ上裸だ。
「4人目、アリエル」
サバイバルで作ったみたいな植物そのままの服を着ている。
だが、それは『植之龍鱗』の鱗でできた性能のいい服だ。
出した肩だけで分かるその筋肉質な肉付きはとても良い。
「5人目、ラミエル」
青白い電気を帯びたその服はとても綺麗だ。
強大で神秘的な力を感じる。
が、冷徹で、正義感の強そうな青年だ。
とても好感が高い。
雷をそのままぶきにしたかのような双刃剣をもっている。
「以上だ。それぞれ作戦に尽力するように」
皆が頭を下げて静かに退出していく。
「あれ、君がオリ?」
それはいつか見たお姉ちゃんである。
そう、あの時紅いバッジを付けた私をギルドに連れて行ってくれた優しい人だ。
「あの時、自己紹介したっけ? まぁいいよね、私はイオアンよ」
あれ、そんな名前だっただろうか。
いやそもそも聞いてなかったのかもしれない。
あの時は確かに紅髪だったはずだ。
だがいまはカフェオレのような色だ。
色を変えたのか、それともそれすら間違えだったのか。
「あのときはお世話になりました」
私が頭を下げると、
「いや、別に感謝されるようなものじゃ無いよ。生きてたなら良かった」
彼女は優しく笑う。
その笑顔は妖艶で、引き込まれるようだ。
「今回はよろしくお願いします」
「うん、あなたは私のチームだからね」
それは衝撃だ。
小部隊5ペアをまとめるのが彼女だと思っていたのだが。
「ん、その認識で大丈夫だよ」
「ですよね? 私は誰の部隊なのでしょうか?」
だが、彼女はチッチッチ、とかわいく私を否定した。
「だから私の弟子と言い張って私の二人行動だよ」
私はぽかんとする。
「妹が心配かな? うん、じゃああなた達二人を私が面倒見るよ」
違う、というまもなく彼女は小走りで国王のもとに向かう。
心のなかでなんてことだ、とつぶやいたのだった。
魔紙
魔素でできた非常に薄い紙。
高価でほとんど流通していない。
長持ちせずに封を開けると2日も経たずに消滅する。
それを逆手に取り、国の機密情報などのやり取りなどに用いられている。
魔素でできている都合上炎や水に強い。
イルヤに改名しました。
実在まんまだったので……。申し訳ございませんでした。




