☆戦闘・2☆
燃えた木々。沈んだ太陽。散った血液。
それはここで起こった争いの悲惨さをまざまざと表していた。
死体の処理はまるでされず、弔う暇すらなく前へ進んでいく。
この隊の隊長であるゴゴは、
「いくぞ」
と声を高らかに上げる。
「おぉ!」
数人の隊員が返事をするがその声は疲弊していた。
進軍の命令、いや、預言を授かってからすでに2週間が経とうとしていた。
武器は刃こぼれし、食料は減る一方で、戦意はなくなりつつあった。
崖を飛んで、川を渡って、山を越えて、そして襲撃を受けて。
辿り着いた場所はそんな、広場であった。
「オグローも近いんだ。味方の兵と合流できるはずだ」
絞った声はガラガラだ。
瞼が重い。長槍を掲げて私はまだできるのだ、と意思表示をする。
柄には滑り止めが、そして刃には美しい紋章が掘られていた。
猫に蔦が絡みつきそこに剣が刺さった紋章。
それは国旗にもなっている重要な紋章であった。
そんなモノが掘られた刃は長柄に翼のような刃が一対、そして鋭い刃が柄から少しズレて伸びていた。
そして得意な槍術は『巻込突』。
一つの構えから大きく分けて2つの動きにシームレスに変えられる技である。
幼少期から叩き込まれたその槍術は手指のごとく正確に動く。
回し斬り、そして裂突。
左肩に柄を乗せて左から回し込んで、鎌のような刃を利用して、相手の武器を引っ張り、そのまま叩き落とす回し斬り。
同じ構えから先に上から叩き落として鎧を貫通するほどの威力で突き、そのまま持ち上げて振り飛ばす裂突。
その2つが基本的な型となって、臨機応変に槍の動きは変わっていく。
そんな自らの力量を信用している。
努力は裏切らない。
そんな古今東西言われてるような言葉を碌な体験もせずに信じていたあの頃。
そしていま、化け物を目の前にしている。
鎌槍の不規則な動きはとても避けづらい。
下手に弾くと体を持ってかれる。
が、鎌槍をふくめ、槍には構えを使った攻撃が基本だ。
つまりは構えさせなければ良い。
それはそこに至るだけならば簡単である。
だが、本来の鎌槍の構えならばである。
地に足をつけたこの戦闘では背の低い私は成人した向こうの高い位置の構えを斬るのはすこし骨が折れそうだ。
「信託 風葬刃」
刃に大きな風を付けてリーチが伸びる。
それは武器で弾けず、だが、人体を裂く。
振るったときに起こる風にも斬撃の属性が付き、広範囲を無差別的に斬り裂く。
目の色が変わった。
雰囲気が変わった。
そして、感じる死。
マニューバはカタナにより一層の力を込める。
彼女の攻撃に備えるのだ。
マラたち四人は誰が一番武功を立てられるかと争っているらしい。
ヴェレーノは内部腐敗を、マラ、マリ、マルは私があげた武器を器用に使いながら敵の母数を減らしていく。
そもそも体力の残り少ない彼らはあっという間に倒されていった。
そしてオリヴィアは副隊長を名乗る青年と退治している。
武器は鞭の二刀流。
返しのついたそれは薔薇の枝のようだ。肌をえぐり、毒をそこから入れていくことを主としたものだ。
かすり傷を与えれば時間の問題を相手に強いるというかなりの強武器である。
そんな武器なのだが、使用者はとても少ない。
その理由は明白だ。使いづらいのだ。
だからこそ、相手を意のままに動かしやすく、有利になりやすい。
が、単純なその動きは慣れるとそんなに驚異的ではない。
私はそう判断して、カタナを出す。
リーチが要るとなると直剣では心もとない。
全てが金属でできた鞭ではないのだが、返しはちゃんと金属だった。
カタナは風を纏い、美しくオーラを放っている。
私はタッと地面を蹴り、大きく跳躍する。
相手の鞭の間合いに入り続ければ負ける可能性は大いにあるのだ。
「掃除屋発動」
風の斬撃を前方に向けて飛ばす。
だが、彼は鞭を持ったまま森に向かって走り始める。
私は地面に着地してすぐに、
「料理屋発動」
すぐに目の前の草木を燃やして行く手を阻む。
向き直った彼は覚悟を決めたようだ。
「お前は死ぬ覚悟があんのか?」
少し震えているのか、それともそれが素の声なのか。
それはいまの私にはわからなさそうだ。
「あるよ。だからカタナをもってる」
「そうか」
鞭は千切れたのか斬られたのかよくわからないが、左右で長さが違っている。
鞭は振るうたびにビュンと音を立てる。
私のスキルは付着物の除去という権能を持つ。それは物質であるのではなく私があると思えばその対象となる。
付着物とは捉えようである。
毒は付着物だろうか? 私は無効化できるか?
何を考えているのだろうか。怖気づいているのだろうか。
私は大きく息を吸う。そして吐く。準備はできた。私は今から人を殺す。
鎌槍から放たれた風の刃は周りを巻き込みながら広がっていく。
水面に広がる波紋のごとく。私はそれを前に飛んで避ける。
それはそのまま後方に飛んでいき、後ろの大木は斬られて音を立てて倒れた。
「能力 絢爛水舞」
刃に纒った水はヴェールのように薄い。
「さっさと決めるね」
「……あら。大層な自信だこと。良いわよ、できるのならね」
絢爛水舞は攻撃の軌道修正と阻害。
相手の弱点を冷静に見極めてそこに攻撃を叩き込むのだ。
敵、ゴゴが指鳴らしを一つすると風の刃が無数に創成される。
「信託 風葬刃」
おそらく先出しの置いておくことで常にプレッシャーを与えることを狙ったスキルだろう。
いつ発生するかわからないスキルは精神的なブレーキとなる。
そして風の刃が発射される。
跳躍して避けて、そのまま木を駆け上る。
が追尾した刃は木を一撃で貫き、ぐらりと揺れる。
私は木の枝を蹴ってどんどん移動する。
そして刹那の隙を探す。
最後の風の刃が私の追尾を始める。
そのまま指鳴らしを私の耳が捉える。
スキルが発動する。
体を押し込むような風圧。
いつもよりも細い足場でその圧力に木の枝は耐えきれない。
「能力 絢爛水舞!」
足場を作って私はどうにか態勢を正す。
いつもの練習ではない押し付ける感覚。
遠近感覚が狂ってスキルはこの距離じゃ正確性に欠ける。直接刃で決めるべきだろう。
相手のスキルを逆手に使う。
落下速度をかさ増しするが、下に見える刃は私に向けてある。
胴を突き刺すようにそこに控えていた。
受身の要領で慌てて体をひねる。だけど狙ってその刃先は動き続ける。
「貰ったぞ!」
彼女の言葉とともに私は覚悟を決めて身を重力に任せる。
もうスキルを発動する余裕などかけらもなかったのだ。だが、それは詠唱をすればである。
一度出したものは操れる。
それはゴゴが示していた。そして私の思いつきと同時に斬撃の塊が地面に堕ちた。
「ぐぅ……」
それでもなお身体の原型をとどめていたゴゴ。
それは日々の訓練の賜物か、それとも未完成の技だったからか。
鎌槍は使い物にならないまでに傷ついていた。
ムクリと起きた私は右の脇腹から血が垂れる。
刃は確かに横腹を割いた。
それはどうにか刃をずらしたからである。
「とどめをやろう」
私はどうにか声を力を振り絞り、刃を一閃する。
彼女は確かに笑っていたのだ。
首は転がって切り株に当たる。そしてゴゴは意識を手放した。
来週は指笛を投稿するつもりです。もしかしたら時間ないかもですが……、




