☆妖猫☆
妖猫討伐の任務地に到着した。
目の前の大きな建物は近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
蔦に覆われた壁に、所々剥がれた破片が落ちている。
異様な雰囲気を纏うそこは明らかに人の気配を感じない。
やたらと豪華な扉を押し開ける。
軋む扉の音。
重く、冷たい鉄の感触が劈くようにてに刺激を与える。
後ろにいる3人から緊張を感じる。
「行くよ」
私は小さく呟いた。
昼というのに陽の光を感じない空間に沈み込むように入っていく。
こんなときに便利なのが『料理屋』である。
自分の進む道に火を燃やして明るくする。
カビの匂いとホコリの匂い。
火の明かりに照らされてキラキラと光っていた。
そして一つの部屋につく。
そこだけは何故か放置された感じはない。
1人分の食事のセットが美しく並んでいる。
まるで今にでも食事が盛られるかのように。
3人の気配を感じる。
私の周りを囲うように配置しているようだ。
なのに、音も気配もなく肩に触れる肉球。
「やぁ」
妖猫だ。テーブルに飛び乗って距離を取る。
妖猫が舌を出す。
妖猫の特殊魔術『毒舌』である。
一応人類に属するが彼らは魔術を使いこなす。
それは爪と牙、舌に毒をまとい内部から腐らせるものである。
ひっかくように飛びついて爪を振り回す。
剣で爪を触るとまずいかもしれない。
完全に人形である妖猫を斬るのは良心が痛む。
「話し合いという選択肢はないのかな?」
妖猫がシャンデリアに尻尾を巻き付けてぶら下がりながらそう聞いてきた。
「え……?」
猫の目はかすかに揺らぐ。
あるいは見間違いかもしれないが。
「妖猫は嘘が得意。揺らがないでください」
マラがそう言うと悲しそうな表情を浮かべているような気がした。
「わかんないよ」
私はそう言った。
彼の動きは大雑把で何故か殺す気を感じなかった。
「妖猫……なのに……?」
彼の耳は可愛らしくピクピクしている。
「うん。君の名前はヴェレーノ」
彼とのつながりを強く感じる。
そして、スキルを発動させる。
「じゃあ、行こうか」
4人組のパーティは1人、いや1匹加えて再出発するのだった。
妖猫
猫の耳と尾のある魔物。
普段は人間に化けているため、手出しがしづらい。
魔術を巧みに操る。目立った傾向はない。
体が柔らかく、アクロバティックな戦闘を好む。
人間界にも潜み、手を出さなければ人間として人生の幕を下ろすこともある。




