☆マスターの圧☆
彼の威圧で冷え切った空気にとどめを刺すように、
「あなたがたの行為は完全な犯罪です」
と可愛いが冷たい声で言った。
始めて見た彼女は切れ長の目、紫がかった髪だ。
服が燃えきった二十代だと思われる青年は焦げたお尻を出している。
「ユニークスキル 掃除屋」
彼の焼き爛れた皮膚が治る。
ギルドマスターがさせたかったのはこういうことだろうか。
変わらずショックで死にかけているが、半日も放置で起き上がるはずだ。
「これでもなお、嗤いますか?」
怖い、ギルドマスター。
娯楽のないこんな世界で戦闘に見出す彼らは戦闘狂になりがちである。
そしてそれは身内での争いにも発展しかねないほどだ。
法を犯すほどに。
逃げるように押し黙る。
やっと気がついたのだ。彼女はきっと愛されている、と。
「すみませんね、不愉快な気持ちにさせてしまって。この方々をこのギルドで出禁にしておきます」
彼女は表情を変えずに、
「いえ、とんでもないです」
と微笑みながら言った。
小さな体と似つかわしくないほどの礼儀の良さ。
傲っていた自分のモノよりも遥かに使い勝手の良いモノを持つことが認められない。
そんな考えを見透かすかのように睨まれる。
恐ろしく、妖しく、解けていくように心をこじ開けられる。
「さぁ、任務の話がまだでしたね。いきましょうか」
彼女は慌てて、
「はい!」
といい、居なくなっていった。
その背中を見つめる。
己の愚かさを考えぬようにしながら。
いきなり気を使われ驚いてしまった。
外に出ていないだろうか。
廊下でそう考えると気分が落ちる。
「気にしないでください。彼らはただのバカですので。しかも国外のギルドメンバーですので殺すことは出来ぬのです」
ギルドマスターは部屋の扉を開けながらそう言った。
「はい、特段気にしていません」
私は貴族の時代に築き上げた自然な創り笑いを使う。
笑いなど作っておいて損はないのだから。
ていうか、殺すこともできるのか。やはり、怒らせてはならぬ人もいる。
「なら、いいのですが」
彼は慣れた動きで椅子まで動く。
わたしはそこまで気にしていない。
バカにされて悲しむのはもう、慣れたのだから。
嘲笑も、悲観も、嘆きの声も。
ギルドに入る前に味わった。
事実なのだ。
そんなことを考えていたら視線が落ちていた。
机のランプがともる。
そして視線を上げると目があった。
「おや、眩しかったですか?」
「いえ、そんなことないです」
わたしは即答して少し後悔する。
が、もう手遅れなため考えないようにしよう。
「で、どうでしたか?」
すぐに仕事の話に変えてきた。
「倒せましたよ」
「スキタイもいたとか……?」
なぜ知っているのだろうか。
甲羅の加工をギルドに任せていたのだが報・連・相がはやい。
はい、と返事をする。
「そうですか。あなたも強くなりましたね」
その言葉に違和感を覚える。
「いえ。マラたちのおかげです」
「そう、ですか」
彼は声のトーンを落とした。
「少し休暇を与えます。その後ここに来てください」
休暇を入手した!
久しぶりである。頭の中で休暇プランを立てていく。
「その後新たな任務を与えます」
「わかりました」
そう言って頭を下げて退室しようとすると、
「三日後来てください」
そう、言われた。




