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第七十九話 たまにはずる休み気分

「休みだああああああ!」


 目覚めて十数秒。ぼやけた頭の中に休みと言う単語が浮かび上がった。がばりと起き上がり掠れた声で叫ぶ。とりあえず二度寝でも、と思ったが休日を二度寝で無為に過ごして良いのか? と頭の中に降って湧いた勿体無い精神によって、とりあえず飯を食いに行くかと顔を洗いに洗面所へと向かった。


 寝癖で跳ねている前髪を櫛を使って苦戦しつつも直し、顔を洗う。洗濯物も食事から帰ったらランドリーへ持って行ってもいいかもしれない。後部屋の掃除をして、それからはだらだらとして過ごそう。


 服を寝間着から外行き用の服に着替え部屋を出た。出勤するであろう制服の人々もちらほら見て取れ、自分が休みなことに少しだけ気分を上げる。ともすれば鼻歌でも歌い出しそうなほど気分はよかった。


 食堂に着いて食事を注文する。随分と賑わっているが、今から仕事の人々で溢れるこの光景は慣れっこだった。しばし待ち食事を受け取り席に着く。食事を摂りながら透明なウィンドウに映るニュースを観ていると声が掛かった。


「よー、ミツミ。ここいい?」

「シグルドさんにリディアさん? 構いませんが」

「あんがとよ」

「失礼しますね」


 この二人が朝食の時間に食堂に居るのは珍しいのではなかろうか。そもそも総督府外からの通いのはずだ。朝食を摂ってこなかったのだろうか。


「珍しいですね。お二人がここにいらっしゃるの」

「二人して寝坊したんだよ。いやー、昨日の夜は熱かった」

「余計なことを言わないでくださいシグルド。すみませんねミツミ」

「い、いえ……」


 まあ夫婦だしそういう時もあるか。と自分を納得させる。ところで、とリディアが口を開く。


「報告にありました。誘拐の件ですが、大丈夫でしたか」

「あ、はいはい。ぴんぴんしてますよ。怪我とかもありませんし」

「運が良かったな。サダオミぼろぼろで帰ってきた時もあったからよ。拷問されて」

「ひえ」


 何度目の誘拐かは知らないが、サダオミは満身創痍で帰ってきた時があったらしい。今回ばかりは運が良かったと思うしかない。


 にしてもな〜。とシグルドがスクランブルエッグを食べながら話す。


「人間の純血派だろ? 厄介なものに目をつけられるよな。喚びビトってのは」

「過激なんですか? 人間の純血派って」

「人間が多い国だとそうでもないんだけれどよ。獣人との人口割合半々の国とかは未だに内戦あったりするんだよ」

「彼ら自身が生み出したモノである我らを邪険にすると言うのも、おかしな話ですがね」


 ぶつ、とフォークでソーセージを刺して口に運ぶリディアだが、思うところはありそうだ。


「ま、ミツミにとっちゃ獣人なんて御伽の話だっただろうからな。人間だけしか居ない世界なんて、俺らにとっても御伽話みたいなもんだけど」

「まあ、獣人が居ない時代は肌の色で差別し合っていましたし、ヒトっていうのは時代を経てもそれほど進化しないってことなんですかね」


 人種間の争いは結局地球を離れようと解決していない。肌の色から獣人と人間と言う対立に変化しただけだ。見た目が変わろうとヒトである限りついて回るものなのだろう。


「そういえば、聞きたいことが」

「なんでしょう」

「マイクロフトと言う方はご存知ですか?」

「……存じておりますよ」

「教えていただくことは」

「出来かねます」

「ですよね〜……」


 ただ。とリディアが呟く。


「自主的に調べるくらいでしたらいいでしょう。資料室のどこかにデータではなく、紙でまとめられているものがあるはずです」

「いーのかリディア? そんなこと教えちゃってよ」

「私たちはただ、聞かれたから答えた。だけですからね。その後の保証は一切しませんよ」

「ありがとうございます。リディアさん。シグルドさん」

「調べるのならば休暇を終えてからの方がよろしいでしょうね。あなたのことを監視する方もいるやもしれません。今日のところは大人しく休んでいなさい」

「はい」


 それだけ分かれば充分だ。食事を終えて二人とは別れ部屋に戻る。部屋の掃除を終えて洗濯のためにランドリーまで向かう。洗濯機に服やシーツを突っ込み、端の方の椅子に腰掛けた。


 今日は殆どのヒトが出勤日だろう。私以外には誰もランドリーには居なかった。途中売店で買った棒アイスを齧りながらマイクロフトの名前でヒットしないかとネットを漁ってみる。


 しかし大した情報は得られない。そもそも彼は喚びビトだ。総督府の管理下に置かれていた人物だろう。ネットで情報が転がっているわきゃないか。と早々に諦めた。


 ぽぽん、と軽快な音が鳴る。誰かからのメッセージだ。見てみればガイラルディアからのものだった。


 見れば花の写真が送られてきた。それとメッセージ。


『この花がガイラルディアと言う名前の花なの。赤と黄色のアクセントが素敵でしょう? 私の大好きな花なの』


 ガイラルディアの花。地球に居た時に見かけたことはあったかもしれないが、名前を知ろうとはしていなかったな。と考える。


 素敵な花ですね。と送るとすぐにメッセージが返ってきた。今日は仕事ではないのか? とのことだったが、休暇を取ったのだと告げる。体調の心配をしてくれたが、誘拐の件で気疲れをしている程度なのでサボりと同義だ。大したことはない。と送ると、心配の言葉とご自愛してね。とのメッセージを最後に会話を終える。


「……ガイラルディアさん。何をしているヒトなんだろう」


 ルドラと同じサイボーグらしいが、見目は殆ど人間と変わらない。事故か何かで体のどこかを欠損したのか。いや、もしかしてあの機体、全てがサイボーグだと言うのならば、脳や内臓以外全てを失って?


 考えてみると、ルドラもルドラで謎が多い。総督府に機体のメンテナンスに来ると言うことは、技術の方で検体など行っているのかもしれない。技術のエンダントならば何かを知っているだろうか。でも一応個人情報だし聞いても話せることはないだろう。


 しかし気になってくるととことん気になってしまうタチなので、後でヒューノバー経由でエンダントに話を聞くのもありかもしれない。


 いやいや、今はマイクロフトの件を調べるのが先だろう。と暇だとあれこれと頭の中で話題が飛び交う。

 とりあえずネットでサイボーグのことでも調べてみるか。と再びデバイスを弄る。


 サイボーグ化の専門病院の広告だとか、機体の販売ページだとかが出てきたが、やはり身体的に欠損したヒト向けらしい。獣人向けのモデルや、人間向けのモデルなど様々だが、ルドラの機体に似た感じのものも見つけた。後半はもうどの機体が格好いいだろうか。と探すネットサーフィンになっており、洗濯を終えた知らせの音で現実に戻った。


 洗濯物を回収し部屋に戻る。シーツを新しいものを敷いてから布団に潜ると眠気が襲ってきた。どうせやることもないし寝るか〜とあくびをして枕に頭を乗せた。

 終業後のヒューノバーが部屋へ来るまでずっと惰眠を貪っていたのだった。

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