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第七十八話 彼女の花言葉

「帰宅帰宅、ああ我が家」

「総督府のこと我が家って言うのちょっと変ね」

「仕方ないでしょうが。実家がもう消え去って宇宙の塵にでもなってんだから」

「すごいブラックジョークね」

「がはははは」


 警察の護送によって総督府の居住区まで帰ってきた。ヒューノバーとは正門前で別れ、ミスティと共に自室へと向かう道すがらであった。緊張していたこともあり、ふい〜と呑気に息を吐くとミスティに脇を小突かれる。


「もうちょっとしゃんとしなさいよ」

「無理言うなよ〜。喚びビト様だってヒトだぞ」

「……まあ今日くらいは許そうかしらね。あ、室長」

「えっっっっっ!!!」


 ミスティが角から曲がってきた人物を見てそう言う。俯き気味だった顔を上げるとミスティの上司、秘書室の室長、サイボーグらしい無機質な機体と顔を持つルドラの姿があった。


「ミスティ、ミツミ、ご苦労様です」

「どうしたんですか室長、居住区に御用が? 私が居ない間に何かありましたか?」

「いえ……、そう言うわけでは無いのですが」


 ルドラは歯切れ悪く口籠る。このヒトにもそんな面があるのだなあ、と呑気に考えていたが、ミスティに用があったわけではなさそうだ。何か私用らしい。


「……私のパートナーがどうやら迷っているようで」

「へ? 室長のパートナーって……」

「同じサイボーグです。ただ、見目は私と違い人間に近づけた型です。機体の調整に呼んだのですが、迷ったそうで」

「位置情報は……」

「故障のようです。こう言った不具合が出ることがあるので来させたのですが、間が悪いもので」


 以前、ルドラと共に赤毛の女性を見た記憶を思い出した。遠目だったので長い髪の赤毛だったとしか覚えていないのが惜しい。ルドラには助けられた身だ。疲れてはいたが、共に探そうかと進言した。


「その提案はありがたいですが、報告に上がっていました。誘拐されたとか。お疲れでしょうし、ミスティと共に自室に戻りなさい」

「いえ、大丈夫です。仕事も明日は休みで良いと言われていますし、何なら誘拐休暇をもぎ取ります」

「誘拐休暇って何よ」

「リディア班長! 誘拐休暇をください!」


 腕時計型のデバイスに叫びおどけていると、ルドラが小さく笑い声を漏らした。


「誘拐に対して休暇を与えられるかは分かりませんが、少々休みを与えた方がいいと進言しましょう。お力をお借りしても?」


 ルドラは口元に手を当てながら笑いを堪えるような仕草をする。疲れて頭がおかしくなってるとリディアに伝えられたら、班室が生ぬるい目で満たされていそうで若干嫌だな。まあ休めるならいいけど。根っからの怠惰の権化。


「パートナーの方のお名前は?」

「ガイラルディア、と」

「向こうも動いているかもしれませんし、室長の電脳で私たちの位置情報を共有してもらっても?」

「可能です。……はい。共有しました。では、私は居住区の西に行きます。ミスティは北、ミツミは東をお願いします」

「はい、分かりました」


 二人と別れて東のブロックに向かう。ヒトとすれ違いはするものの、あの赤毛とは出会わない。売店の中も確認したものの見当たらない。どこを彷徨いているのやら、とランドリーの前を通ると、赤い後頭部が一瞬見えた。足を止めてみると、屈んだのか見えなくなる。ランドリーの扉を潜る。洗濯機の稼働音が響く中、端に置いてある椅子の方を見れば、赤毛の女性が棒アイスを齧っていた。


「ガイラルディアさん?」

「……? あ、呼んだ?」

「はい」


 女性の元へと向かうと、パートナーもサイボーグだと言っていたルドラを思い出す。どう見ても人間と大差ない見目で、サイボーグだと言われねば絶対に分からないだろう。言われても本当かと疑う。


「私、総督府で働いている者です。ルドラさんがお探しでした」

「ごめんなさい! 位置情報の機能、調子が悪くて迷ってしまって……」

「ご無事で良かったです。見つかったと連絡しますね」

「ありがとう」


 ルドラの連絡先を腕時計型デバイスへ先程入れられたのでメッセージを送るとすぐに行くと帰ってくる。位置情報はルドラの中にすでにあるので、しばらくガイラルディアと話でもして待とうとガイラルディアの隣に椅子をひとつ開けて座る。一応ミスティにもメッセージを送ってから彼女に話しかけた。


「私、ミツミと申します」

「ご存知だろうけれど、私はガイラルディア。ありがとう、見つけてくださって」


 ガイラルディアは目立つ赤い髪、よく見ると金も入っているようだ。それに青い瞳に優しげな可愛らしい顔立ちをしていた。頬にそばかすが散っている。薄い血管の色味も見え、サイボーグだと言うのならば随分とクオリティが高いものだ。


「ルドラさんにうかがったのですが、機体のメンテナンスにいらっしゃったとか」

「そうなの。定期的にあるんだけれど、私面倒くさがりでどんどん伸ばしてしまって、こう言う不具合が起きるのよね〜」

「はは……」

「呆れてるでしょ?」

「いえいえそんな!」


 ぷく、と頬を膨らませる彼女を見て感情表現豊かな女性らしいと分かる。見目も可愛らしいが、仕草から明るそうな女性だなあと感じる。


「あなた、蟹の方よね?」

「へ? 蟹?」

「そう、エトリリワタリガニ、美味しかったわ。ありがとう!」

「あー! ああ、いいえ〜、こちらこそお世話になって」

「ふふ、謙遜しないで? 随分昔に食べたきりだったから懐かしかったわ」


 ふふふと口元に手を添えて笑う仕草に、ルドラと少し似ている。どちらかの癖が移ったのだろうか。パートナーだと言うし、共に暮らしているのだろう。ガイラルディアはアイスを食べ終え、棒をゆらゆらと揺らしている。


「はー、この国で人間と話せる機会ってちょっと少ないのよね。ミツミさんもそう思わない?」

「少ないと言えばそうですね」

「ねえ! たまにこうしてお話ししてくれない? ルドラの知り合いだったら、ルドラもあんまり焼かないと思うし」


 ルドラ、意外にも束縛系の方なのだろうか。あのヒトもヤキモチを焼くことがあるらしい。人格者に見えるが意外な面を知ったな。


「ミツミ〜」

「あ、ミスティ」


 ミスティがやって来た。ガイラルディアを認めると、こんにちは。と外行きの笑みを浮かべる。


「ガイラルディアさん。こちらはミスティ」

「ああ! ルドラがたまに話してくれる子ね? 可愛い猫ちゃんが居るんだってよく聞いているの」

「ふふ、ありがとうございます。ガイラルディアさん、花の名前なんて素敵だわ」

「あ、ガイラルディアって花の名前なんだ」

「知らなかった? 赤と黄色が混じった花なの。この髪を見て、ルドラが名付けてくれたの」


 ルドラが名付けた。と言う言葉に引っかかる。何かしら深い事情がありそうだ。深くは聞かずに、素敵ですね。と笑みを顔に乗せる。


「ガイラルディア」

「ルドラ! やっほー!」

「……やっほーではありません。メンテナンスをサボるとこう言うことになるのですから、次は規定の日時に来なさい」

「はいはいごめんなさい〜。ね、ミツミさんとお友達になってもいーい?」

「ミツミさんと?」


 ガイラルディアが人間との会話に飢えているのだと大袈裟に芝居をしながらルドラに話をする。ルドラは呆れているのか頭を振って手を添えた。


「……まあ、ミツミさんがよろしいのなら」


 意外にも肯定が返ってきてガイラルディアがきゃっほーい! と飛び上がった。アイスの棒が手を離れて私の頭に当たって跳ね、ゴミ箱に入った。


「ミツミさん、ご迷惑でなければ……」

「ああ、私も多少交友は広げた方がいいと思っていましたので、総督府外の話とか聞けるのなら……」

「わーい!」

「ガイラルディア、とりあえず早くメンテナンスに行きますよ。お二人とも、お疲れのところ申し訳ありませんでした。ガイラルディアを見つけてくださってありがとう」

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ」

「そうですよ室長。ミツミ、どうせ帰っても寝るだけですし」


 謎に私に対して当たりの強いミスティを小突くと倍になって返ってきた。脇腹を抑えて唸っているとミスティとルドラは話を終え、ルドラはガイラルディアを連れてランドリーを出て行った。


「痛えよおミッちゃん……」

「はいはい。一仕事終えたし飲むわよ」

「地獄再び」

「あ?」

「すんません」

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