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第七十二話 もしかして爛れているんですか?

「邪魔するわよ」

「邪魔すんなら帰って〜」


 ベッドに寝転んでニュースを漁っているとミスティが部屋に入ってきた。今日も酒盛りか〜? と思っていれば、どん、と机に鍋を置いた。


「……なにそれは」

「鍋」


 それは見れば分かる。何を入れて持ってきたのやら、と思いながら体を起こせば、なんだか嗅いだことのある匂いが鼻を掠める。


「ちょっと待って、まさか」

「エトリリワタリガニよ」


 ミスティが蓋を開ければ、ほわんとあの蟹の匂いが部屋中に漂った。ベッドから起き上がり机に近づくとミスティがにやりと笑った。


「えー! どうしてどうして!」

「お土産に買った二人のご相伴に預かる形に以前食べたけれどね。私、ひとりで胃袋の心ゆくままに食べてみたかったの。だからこっそり買ってたのよ。自分用」

「私と食べてもいいの?」

「蟹の席には話し相手が必要よ」

「蟹食うとき大体みんな静かになるがな」


 ごと、と酒のボトルを机に置いたミスティに、やっぱり酒は飲むんかい。と笑ってしまう。グラスや取り皿を持って来ると椅子に座って酒の口を開けていたミスティは、早く座って〜と私を急かす。


「はいはいはい、はいお箸」

「どうも。調味料持ってきたから適当に使って」

「あい、どうも」


 酒に注がれたグラスを掲げ、乾杯とグラスを当てる。くい、とひとくち飲むと馴染みのある味がした。


「あ、日本酒だ」

「確かあなたの故郷の酒だって聞いたから、飲みやすくて好きなの、その銘柄」

「へえ〜、この時代でもあるんだ」


 少々懐かしくなってきたところで、いただきましょうか。とミスティと共に蟹を突き始める。ポン酢につけて蟹を口の中に放る。甘みと独特の風味で、そこに日本酒を流し込むとたまらなくなって来る。


「いーねえいいねえ」

「蟹っていいわねえ。でかいし」

「酒がまた合うね〜」


 蟹を箸で割きながら食べ進める。いつもよりは口数は少なくなるが、ぽつぽつと話をした。


「聞きたいことがあるんだけれど、今ほぼ関係ないことだけど」

「ん? なに?」

「いやさ、ニュース見てて思ったんだけれど、私の時代だとさ未来ではAIにヒトの仕事は奪われるって言われていたんだけれど、なんかこの惑星、普通に働いているヒトだらけだよね」

「ああ……あったわよ。ほとんどAIが仕事をしていた時代」

「へえ、なんで無くなったの?」


 ミスティは蟹を咀嚼し終えると淡々と話し出す。


「端的に言って人類が堕落しすぎたのよね」

「堕落……」

「子供育てたり介護あったりするヒトもいたけれど、やることと言えば遊ぶくらいなわけね。で、遊んでばかりに嫌気がさすヒトも多かったわけ。犯罪も多くなって、ドラッグ漬けだとかセックス依存症だとか、鬱だどうだと問題も出始めるわけよ。なんというか色々爛れた時代もあったらしいわ。で、結局多少は働きましょう。って時代に戻って今よ」

「夢が夢じゃなくなっちゃったか」

「ねー。私らからすれば羨ましい時代だけれど、実際触れてないから言えることだからね。介護や建築なんかの広い方面で今現在もAIだとか機械体だとかは普及しているから全く無くなった訳ではないわよ」


 夢と違って現実とは世知辛いものだな。蟹を口に運びつつ、しばらく無言になったのちに再び私が話題を振る。


「私の前の喚びビトにサダオミさんて方が居るのは知っているとは思うんだけれど」

「存じていますとも」

「なんか前飲んだ時に誘拐三回くらいされたとか言ってたんだけれど、喚びビトってそんなに価値あるの?」

「そりゃあね。純血派の獣人が居るように、純血派の人間も居るからね。それに喚びビトイコール人間の純血だからね」


 それもそうか。私たちが居た時代には人間以外の人種なぞ存在しなかったのだから。もしや誘拐さたら祭り上げられたりするのだろうか。それはそれで嫌だな。


「私は今のところ誘拐のゆの字もないから平和ですわ」

「あんた引きこもりだから誘拐しようにも難易度激高よ。総督府内に誘拐目的で潜り込むとかよっぽど実力なきゃあ無理だもの」

「引きこもりサイコー!!!」

「誇ることじゃないからね!?」


 たっくもー、と言いつつもミスティは蟹を口に運び、咀嚼したのち話出す。


「ミツミ、あんた、ヒューノバーとはどこまで進んだわけ」

「おほほ」

「進んでないわけね。あんたら仲悪いわけでもないのになんでよ」

「なんでと言われてもねえ」

「別に婚前交渉が無かった時代でも無かったんでしょう? あんたの居た時代」

「人それぞれって感じだったけどね〜」


 この話題、いつか振られるだろうなとは思っては居たが、ミスティと二人きりでよかったと思おう。一応居住まいを正してから口を開く。


「私さ」

「うん」

「突っ込まれるより突っ込む方が好きなんだよね」

「…………うん?」


 ミスティの頭上には疑問符が飛んでおり、私は苦笑いをした。


「……突っ込むと言うと……ヒューノバーに?」

「うん」

「……ついてないわよね?」

「正真正銘の女です」

「道具であれこれすると?」

「うん」

「……意外な性的嗜好持ちだったわね」

「だからさ。地球でお付き合いしていたことがあった時は、本心バラすと逃げられていまして……」

「まー……この惑星でもメジャーではないわねそれは」

「私組み敷かれるの好きじゃないんだよね。屈服させられているみたいで。で、なんで入れる側に回りたいかと言うと、恥ずかしいんだけれど、支配欲みたいなのが満たされて楽しいと言うか……」

「結構仄暗い理由ね……」

「支配欲を満たしたいとか言うとなんかモラハラ人間みたいで、自分でもあんまり言うことじゃないなとは思っているんだよ。ミスティだから話したけど」

「受け入れられないヒトもそりゃ居るだろうしねえ」


 ミスティだからぶっちゃけたが、自分の性的嗜好があまり声高に言うべきものではないと言うのは理解している。だが女だから入れられて当然だろうと言う考えが私は苦手であったため、反発心も多少なりにはあるのだと思う。


 まあ、それ以上に自分よりもでかい男を屈服させることに快感を得てしまう人間なのだが。


「これヒューノバーに打ち明けるべきだと思うかい?」

「……あいつはミツミのことならなんでも受け入れるとは思うけど、時と場合は選んだ方が賢明だとは思うわね」

「だよね〜」


 蟹を食べるのを再開しつつ、ミスティに相談することとする。ミスティは嫌がるそぶりも見せず相談に乗ってくれるので助かる。


「やっぱ初めてはこっちが下になった方がいいよねえ?」

「そりゃねえ。でもミツミからしたら屈辱的に感じるわけ? 好きな相手でも」

「ちょっと思う」

「……少しずつ調教する他無いわね」

「それやって逃げられたことある」

「具体的に何したの」

「拘束して……目隠しして……まあ色々と」

「初っ端からかっ飛ばしてんじゃないわよ! 逃げるわそりゃ!」

「うう〜」


 別に飛ばして逃げられたわけではない、と思いたいが。ミスティからちゃんと打ち明けてから順序を踏め、と叱られた。なんだか酒が回ってきたのもあり、思考がふわふわしてきた。


「あんた根本的なところドSなのね。ヒューノバーMに仕上げなさい」

「爛れてるゥ〜」

「そうよ! あんた爛れてんのよ!」


 思いもしなかった性的嗜好聞かされるこっちの身にもなりなさいよ! とミスティが箸で私を指差す。なんだか説教でも始まりそうになってきたので、話題を無理矢理変える。


「ところでミスティさんはお好きな方は?」

「いない」

「そ、即答……」

「それよりもあんたの話よ。逃げんじゃないわよ!」

「うわああああ!」


 その後ミスティに根掘り葉掘りと性的嗜好について掘り返され、酒が入っているのもありなんでも答えてしまい、翌日の朝ベッドで隣で全裸で眠るミスティを見て頭を抱えるのであった。

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