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第六十七話 ナンバリングで言うと2

 次の潜航予定者の資料に目を通しながら片手で菓子バーを口に運んだ。班室内のヒトビトは仕事や休憩に席を立ったりと各々自由に過ごしている。初めてここに連れられて来た時のように陰気臭くは感じるが、堅苦しい印象は既に消え去っていた。


「ヒューノバー、ミツミ、ちょっといいか?」

「何でしょうか? シグルドさん」


 シグルドがコーヒー片手にやってきたかと思えば、空いている椅子を引いてきて腰を据えた。


「一応聞き取り調査とでも言うか、ミツミ、この環境には慣れたか?」

「おかげさまで」

「ん、ならいいんだ」


 コーヒーを飲みながらシグルドは今なあ、と前置きをして話を始めた。


「今純血派がどうとかニュースでやってるだろ? 標的にされるのは人間が多いが、スフィアダイブの適正のある獣人も標的に入ってるんだわ。ヒューノバーはわかるとは思うがよ」

「はい」

「獣人も、ですか?」

「スフィアダイブの適正があるってことは、少なからず人間の血が入っているってことだからな。スフィアダイブを行えるのは、本来人間だけだ」


 それは確かにそうか。と納得をする。以前説明されたが、スフィアダイブを行えるのは人間しか持ちえない力だ。人間をモデルとし作られたとは言え、獣人は本来持ちえない能力なのだ。シグルドの話によれば、スフィアダイブの適正があってもそれを隠す獣人も存在するらしい。純血派に属する獣人でも隠しているパターンが前例としてあったのだそうだ。秘密がバレた際は、純血派から追放されるのだとか。そうして自分の能力を恨んで人間を襲う。と言う逆恨みのような事件も前例としてあったらしい。


 待てよ。と考える。あのライオンの獣人のリリィは純血派に属すると聞いたが、それならばなぜ人間の血が混じっているであろうヒューノバーを狙うのだろうか? 何か、裏でもあるのか?


「で、一応気をつけろって言う注意喚起だよ。……どした? ミツミ」

「え、ああ、いえ」


 考えに耽っていて話を聞くのを忘れていた。正直に話を聞いていなかったといえば、シグルドは笑って許してくれた。


「何か気になったか?」

「その、ある獣人女性が純血派って聞いたんですけど、人間の血に入っているヒューノバーにアプローチするのは何故だろうと思って……」

「はーん、サクソンだろう」

「ご存知なんですか」

「有名だからなあ。自分の種族を鼻にかけてるって話は流れてくるからな。仕事ができるばかりに周りが何にも言えねえって」


 随分と有名人なのだな。と考え、ヒューノバーを狙う理由はわかるかと聞けば肩を竦める。


「血は確かに大切なんだろうが、案外ヒューノバーに一目惚れでもかましたんじゃあねえの?」

「そんな理由で血を蔑ろにしますかねえ」

「それか」

「それか?」

「スフィアダイバーを派閥内に取り込んで政治利用に使う可能性もあり、だろうな」

「今まで追放してまで純血を保とうとしていたのに?」

「内部に動きがあった可能性は無くはねえよ。リーダーがここ数年で最近変わったって噂もあるからな。リリィを利用している可能性はあり得る。そもそもスフィアダイブは洗脳にも使える能力だからな」


 確かに心の底にまで行けば、暗示のようなものをかけるのは可能だろう。実際私も行った。そうして深く潜れる心理潜航捜査官の能力を使わない手もない。ヒューノバーの利用価値は充分だと思えた。


「まあ気をつけろって注意喚起でした。お前ら午後潜航だっけ。頑張れよ」

「はい、ありがとうございます」

「ありがとうございました」


 シグルドがリディアの元に向かって行くのを見送り、ヒューノバーに話しかけようかと思うと、ヨークがやって来た。


「はいこれサダオミが作ったお菓子、午後よろしくね〜」

「あ、ありがとうございます」

「純血派、懐かしいねえ」

「何かあったんですか?」

「昔ねえ。サダオミ誘拐されたことがあんのよ」

「ええ!?」


 なんでもヨークが身重の時、サダオミが純血派の過激派に誘拐されたことがあったらしい。どうなったのかと聞くと、銃片手に拠点に乗り込んだと言うのだ。……なんか、ヨークとサダオミって、異世界転移モノにありがちなイベントを網羅しているような気がする。私がナンバリングツーならば、ワン、前作の主人公感が二人にはある。


 純血派から救い出したあとに陣痛が始まってサダオミが第一子を取り上げたらしい。映画かなんかかよ。


「ヨークさん。なんか武勇伝的なモノあったらもっと教えてくださいよう。潜航終えた後にでも四人で飲みません?」

「あっはっは、いいよ〜。サダオミ連行していくわ」

「ミツミびっくりしそうだね。二人の昔話聞いたら」

「ヒューノバー知ってたのかよ〜。教えてくれればよかったものを」

「本人たちから聞いた方がきっと楽しいよ」


 にこにことしている私のバディは、戦いとかそう言うのには無縁そうだなと感想が生まれる。まあ私が誘拐なんぞされたら飛び込んでくるのはヒューノバーよりもグリエルが思い浮かんだ。あの仲人おじさん、私とヒューノバーを絶対くっつけるマンの過激派な気がするからな。カプ厨か何かかよ。


 ヨークが去ったのち、午後の潜航の資料に再び目を落とし、昼休みになり食事を摂ったのち潜航室へと向かった。

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