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第六十六話 仲人おじさんグリエル

「やあ、久しぶりにご足労いただき感謝するよ」

「いえ……暴動の件などでお疲れでしょうに、お時間を取っていただき申し訳ありません」

「まだまだ事後処理はあるが、大分落ち着いてきたのだよ。これでも」


 グリエルに呼ばれ、ヒューノバーと共にグリエルの居室へとやって来た訳だが、机の上の散らかり具合から見て暴動の後片付けはまだ続いているようだった。

 にしてもこの仲人おじさん、グリエルはそれを見せまいと晴れやかな笑みを浮かべており、結構ヒトとしては出来ているヒトなのだろう。


「今回の呼び出しのご用件は?」

「なに、二方の仲がどうなのか聞きたくね」


 まあいつもと同じと言うことらしい。特に進展と言った進展もないのだが、仲は深められていると言っておく。


「以前よりも仲は良くはなったかと」

「そうかそうか。仲良きことは良いことだ」

「あのう、この呼び出しって今後も定期的に……?」


 それとなく聞いてみると、仲人おじさんグリエルはそうだ! と溌剌とした語調で告げる。


「私としては、ミツミ、君を喚んだ手前最後まで面倒を見るつもりだ。いずれ総督の座を降りたとしてもね。君とヒューノバーの仲を取り持つのも私の使命だ。想像したくはないが、破局なぞしても君には幸せになってほしい。その手伝いをしていくつもりだ」


 アフターケアもしてくれるらしいので、もしヒューノバーが浮気でもした場合にはお世話になるか。と表に出さぬよう無表情で考える。

 そうだ。とグリエルが口を開く。


「最近純血主義派の行動が苛烈になってきているとは聞いたかね」

「ええ」

「私はニュースに目を通したくらいですけど……」

「この総督府にも少なからず存在する。人間を蔑ろにしたり排除しようと動く者がね。ヒューノバー、気を張っておきなさい」

「はい」

「……質問よろしいですか?」

「ああ、どうぞ」


 グリエルの言葉に、ミスティに聞いたことなどを思い出してグリエルに問いを向ける。


「純血派の方々、どういった思惑で人間を排除しようとするのでしょうか。やはり宇宙航行時代の差別からですか?」

「それもあるがね。自分の力を誇示しようと排除に固執する獣人もいるのだよ。獣人が力を持つ国は少なからずあるが、エルドリアノス国に置いての獣人の力の強さは他国に比べ随一だ。一応この国家は大国と呼んでもいい。その中で力を持つと言うことは、他国にも影響や介入など可能になる程だ。私は中立を保っているが、私を引き摺り落とそうと企む輩も居る。純血派が力を持たぬよう、私が総督に選ばれたと言っても良いのだよ」

「純血派の力が強くなると言うことは、喚びビトである立場のミツミやサダオミさんにも危険が及ぶと言うことなんだよ」

「まあ、私やサダオミさんは国が絡んだ存在だものねえ」

「喚びビトそのものに大した力はない。しかし存在だけで見れば、彼らとって邪魔なのだ。人間が獣人と手と手を取り合うと言うことは」


 私やサダオミ、喚びビトは国力の証しでもあるのだそうだ。要人と言っていい。それもそうだろう。一時停電と言っても首都の電力全てを使って喚び出す大きなイベントだ。私たちにスフィアダイブの力があったとしても大したものではないが、存在だけで見れば喚びビトが居ると言うことはそれだけでトロフィーのようなものなのだろう。私やサダオミが急に死んだなんてことがあれば、それこそ大問題に発展しかねないのだそうだ。

 自分の存在が知らぬ間にトロフィーにされているのは少々嫌ではあったが、喚ばれてしまった手前、一般人ですなんて顔はできないのだろう。つくづく人間が生きにくい国だと思う。


「ヒューノバー、総督府内でも気を抜くなよ。純血派の力は総督府内部であっても届いているのだ。こちらも表立って動くのは難しいが、できる範囲のことはする。ミツミのことを守ってあげなさい」

「はい」

「……まあ、要件はこれで終わりだ。職務に戻っていい」


 そうグリエルに言われヒューノバーと共に総督室を後にした。なんとなくもやついてはいたが、心理潜航班室に戻る道すがらに、ヒューノバーに話しかける。


「私、守られてばかりって好きじゃあないんだよね」

「そうかもしれないけれど、君は特別なヒトだ。総督府内では自由に過ごしても構わないけれど、ひとりで外に出るなんてことは避けてくれよ」

「引きこもりなんだから外出ねえから安心しな」

「それはそれでどうなんだろうか……」


 ヒューノバーが腕を組んで考える仕草をする。ばし、と腕を叩くとあいた。とわざとらしい声を上げた。


「守ってくれよう。マルチネスさんよお」

「急によそよそしい呼び方するなあ。守ってあげるけどさあ」

「特にリリィが今一番の脅威だからどうにかしてくれ」


 ライオンの獣人の彼女。ヒューノバーに恋慕の情を向けているだけならばいいのだが、私に突っかかってくるのはどうか控えてほしいものだ。純血派閥があるとか以前に普通に怖い。


「ああ……彼女か。純血派で目立っているしね。俺がいる時はなんとかするよ」

「居なかった場合はミスティに守ってもらうから」

「……俺、居住区に引っ越そうかなあ」

「なんか引っ越してきたら一生エンダントにゲーム誘われてそうだな」

「ありそう」


 くすくすと笑うヒューノバーに、肘で小突いて顔を見上げる。


「まあ、簡単に捕まったり死んだりしないから安心しなよ」

「えー? 心配だなあ」

「私、ヒューノバーから見てか弱い羽虫とでも思われてんのか?」


 心理潜航班室に戻るとヨークが出迎えてくれた。そういえばこのヒトも喚びビトのパートナーなわけだが、気になったので私たちのような総督からの呼び出しはサダオミが喚ばれた当初あったのかと聞くとあったらしい。


「私もね〜前の総督には色々言われたよ。ほら、前に初期は仲微妙だったっていったじゃない? 反発しあってた時もあったとか」

「ああ、そういえば言ってましたね」

「まあ、結構頭悩ませてただろうね。今思えば。それを思うとあんたら順調だねえ。進行度本当にのろのろだけど」

「はは……」


 さ、帰ってきたなら仕事しな〜とヨークは私の肩を叩くと席に戻っていった。私たちも仕事に戻るかとデスクに向かう。机の上に焼き菓子が置いてあり、サダオミから日本語でお疲れ様です。と綴られていた。


「なんかさあ」

「ん?」

「良いヒトたちに恵まれているなあって実感するよ」


 既に座っていたヒューノバーの肩に手を置いて、こちらを見るヒューノバーに苦笑いを向けた。いつの間にか要人扱いなんかされていたが、この部屋の中にいる限り、私は普通の私で居られる気がした。席に着いて焼き菓子をつまみ、途中になっていた文書の作成を再開しようとデバイスを立ち上げた。

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