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第六十五話 純血派と喚びビト

 仕事終わり、食堂にて私はSNSに目を通しながら食事をしていた。ニュースになっていた純血種保守派による過激な事件があったとのことで、純血派、獣人種の血しか認めないと言う派閥があることを知りそれについて調べていた。


 日本で言えば右翼に相当するものなのだろうが、ここは獣人が築いた国だ。獣人が生まれた背景を考えるとその勢力が力を持っているのは当然だろう。この国のトップはグリエルな訳だが、グリエルはどの立ち位置に居るのだろう。


「お疲れ〜」

「ん? ああ、ミスティ。お疲れ様」

「何してんの?」


 ミスティが私の目の前の席に食事の乗ったトレイを置いて座る。純血派について調べていた。と言えば、ああ、と納得したようだ。


「ニュース見たんでしょう。そういう知識を取り入れるのは良いことね」

「この総督府ってあんまし過激なヒトに出会ったことないけど、居るものなの?」

「居るじゃないあいつ。リリィ・サクソン。あれとか典型的な純血派よ」

「ああ……そういやそうか。それっぽいな」


 ライオンの獣人の彼女を思い出し、ヒューノバーへの恋慕だけではなかったらしい。ミスティが食事を始め、それは何かと聞くとニョッキだと言われる。


「人間もそれなりに採用されてるからね、総督府。だから表立って問題起こす奴はそうは居ないけれど、あなたが知らないだけで居るわよ」

「ふうん。グリエル総督ってどっちに位置してるとかあるの? 左右で」

「あの方は中立を貫いてるわね。そもそも国のトップがどちらかに偏っていたら問題でしょう。やばいわよ。純血派がトップになったら。人間なんて肩身狭い以前に国外に追放されてもおかしくはないんだから」

「それは困るな〜」


 そもそもスフィアダイブの適性を持った人間をわざわざ喚ぶヒトが純血派な訳はないか。心理潜航捜査班でだって人間に対して偏見がありそうなヒトは存在しないし、周りの環境には私は恵まれているだろう。


「そもそもだけど、本当の意味で純血な獣人なんてほぼ居ないに等しいわよ。どっかしらで人間の血は混じってる。そんな奴らが純血主義とかイキってもねえ。あほらし」

「結構言いますねミスティさん」

「そりゃ、私のスフィアダイブの適性だって人間の血が混じっているからだしね。仕事柄役には立たないけど。人間の血が混じっていたから今ここで仕事しているようなものでもあるし」

「養成所からここに来れたのも人間の血が入ってたからみたいなものだしね〜ミスティ」

「人間差別は問題に上がることはあるけれども、少なくとも私は安心して接してくれて良いわよ。ヒューノバーもね」

「そこはありがたいです」


 食事を進めつつ、純血派の記事は部屋に戻ってからでもいいかと別の話題を振る。


「そういやさ。グリエル総督からまた呼び出しかかったんだけれど、ミスティ知ってる?」

「知ってるわよ」

「まーたなんか聞かれんのかな〜。進捗どう? って」

「十中八九そうでしょうね。で、私からも聞くけどどうなのよ」

「はあ、まあ、その」

「その反応だとヤっては居ないわね」

「キスくらいはしたし!」

「カタツムリみたいな歩みだこと」


 アンタら純情ねえ〜。とミスティがニヤつきながらフォークを私に向ける。


「いい加減体の関係持ってもいいと思うわよ」

「生々しいこと言わないでくれよ」

「だってこの惑星からすれば遅いのは当然だもの。別に処女って訳じゃないでしょうアンタ」

「黙秘します」

「こっちは喚ぶ際の調査で知ってんのよ」

「個人情報保護法はねえのかここには」


 ニヤつきながらニョッキを食べ進めるミスティに、苦々しい表情で皮肉を言えば、身辺調査は仕方ないだろうと言われる。


「恋人や伴侶を持ってて離れ離れにするわけにはいかないんだし、多少は許して欲しいわね」

「こっちは家族と友人と離れ離れだが?」

「それは目を瞑って欲しいわね。私が友人で許して?」


 こてん、と首を傾げる猫ちゃんの顔に、くそ、可愛いって正義なんだな。と悔しくなる。


「あーんミスティ〜。地元の飯食いたいよ〜」

「何? ホームシック?」

「ホームシックになるには遅すぎんだろ」

「アンタ最初は泣いてたらしいけど、結構図太いしホームシックになるの笑うんだけど」

「酷え言い様」


 日本食は食べれはするが、母の手料理だとか、地元の郷土料理だとかが恋しくなってきているのだ。食堂の飯だって美味いし満足はしているが、だからって恋しくならないわけではない。


「ここはミスティさんの手料理で手を打ちますので、どうかお慈悲を〜」

「私料理できないもん」

「ええ〜? 本当にござるか〜?」

「うん。実家でキッチン出禁だから」

「それ相当だな」


 流石に実家で台所出禁になっている人見たことないんだが。そう言えば、ミスティがくすくすと笑う。


「それでも良いなら作ってあげるわよ」

「なんか怖いからいいです……自室のキッチン爆発させたくはないから……」

「流石に爆発しないわよ。あ、ヒューノバーに作ってもらいなさいよ」


 あいつ多分料理できるわよ。との言葉に意外に思う。


「確か飲食店のキッチンでバイト経験あるはずよ」

「なんで知ってるんだ」

「喚びビトの番なのよ。アンタと同じように身辺調査したからに決まってるじゃない」

「個人情報保護法〜!」


 総督府の前に個人情報保護法は無意味らしい。これは下手なことはできないなと心の中で馬鹿をしていないかと身の振り方を思い出した。


「まあでも、いいんじゃない? おうちデート」

「いやまあはい」

「なんで今から緊張してんのよ。別に部屋に招くの初めてってわけでもないでしょう」

「そうだけど〜ちょっと恋人としては心の準備がいるというか」

「やだもう、純粋すぎて可愛くなってきたわ」


 きゃらきゃらとミスティは笑っているが、私としてはやはり身構えるというか。食事を終え、ミスティと共に食堂を出て歩きながら話す。


「ミスティは良い人いないの?」

「今は秘書室の仕事が忙しいから、恋人どうこう考えてらんないわね」

「ええ〜? でもミスティ可愛いしさあ。結構モテてきたでしょ?」

「ふふ、どうだと思う?」


 笑みを浮かべて私を覗き込むようにミスティが問う。こういう仕草を自然とできるのだからモテないわけがない。


「ねー、酒買ってってアンタの部屋で飲んでいい? 愚痴聞いてよ」

「ええ〜? またあ?」


 売店に連行され酒を買い込んだミスティに部屋に押し入りされ、溜まっていたであろう愚痴を大放出し、ぐでぐでのミスティが出来上がり結局私のベッドで全裸で寝るといういつもの夜になった。私はミスティの抱き枕として身を捧げ、あちいあちいとうわ言のように言いながら眠りについた。

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