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第五十八話 違法ダイブはほどほどに

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「あのミツミさん」

「はい、何でしょうかマリアムさん」


 心理潜航捜査班の班室にも新顔が増えて以前よりも騒がしくなった気がする。主に元気な双子によって。まあ相変わらず部屋は陰気臭いのだが。


「あ、そんな堅苦しくなくてもいいですよ。私、ヒューノバーさんからしたら同期に当たりますし、ミツミさんも」

「あ、ああ、すみません。急には難しいかもしれないですね」

「じゃあ徐々にで! 昼、ご一緒にどうですか? カリアムも私もミツミさんのこと知りたくって!」


 表情が嬉々としているというか、子供っぽい好奇心で私のことを知りたいらしい。ヒューノバーも一緒であれば、と言えば快諾してくれた。そうして昼時に食堂で昼食を共にすることになった。


「ミツミさんて、アースのどこの国に居たんですか?」

「日本って国だね」

「あまりアースの国の知識がないもので、何か有名なものとかあったんですか?」

「そうだなあ、着物とか、アニメとか、桜……なんかがわかりやすいと思うんだけれど、知っている?」

「桜は分かります! 宇宙航行時代でも長く栽培されていたそうです。自然保護区にある桜、俺たちも観たことはありますよ」

「アニメも有名なんですねえ。古いアース時代のアニメにはコアなファンが居たりしますよ」


 この惑星に置いて、日本人というステータスはほぼ役には立たないと言っていいだろう。しかし自分の知るものが現存し続けていることに少しだけ安堵を覚えた。


「ウィルムルでは人間街があるんですが、行ったことはありますか?」

「人間街……」

「前ミスティとも行っただろう?」

「ああ、あそこのことか」


 以前ヒューノバーとミスティで出かけ、ルドラに出会った場所を思い出した。化粧品や人間用の服を買った場所だ。


「俺らそこ出身なんです」

「え? そうなの?」

「はい。人間街では獣人は居ないこともないんですが少数なので、小さな頃はちょっと浮いてたんですよね。俺ら」

「障害もあったからね」


 あ、障害のこと、自分でカミングアウトしてもいい感じなのか。と少し驚きが生まれる。


「その、他の方から聞いたんだけれど、二人は知的障害を……?」

「ええ、中度くらい。脳への外部補助のデバイスで健常者と変わらない様に過ごせますが」

「この惑星では一般的なことなんだよミツミ」


 ヒューノバーの言葉に、自分の過ごしていた時代にも補助デバイスがあれば苦労する障害者も少なかっただろうと考える。障害を機械で補える時代か。そんな時代が自分の居た地球でも訪れて居れば、差別も少なかっただろうと少々惜しい気持ちになる。

 食事を食べ進めながら話題を振ってみる。


「外部補助のデバイスって健常者でも付けているヒトはいるらしいけれど、どんな感じなの? 脳に直接ってよくわからなくって」

「そうですよねえ。んー、まあ脳内で書類作ったり、写真の閲覧だとかもできますし。結構便利ですよ」


 マリアムがそう言うが、いまいちピンとこない。食事を咀嚼しつつ話を聞き続ける。


「あ、eスポーツとして仮想空間に入るために外部補助のデバイスを付ける方もいますね。でも電子ドラッグを嗜むためにつける方も居ますし、使い方によっては良くも悪くもなると言うか」

「仮想空間に電子ドラッグかあ」

「電子ドラッグ、結構長い問題なんですよね。マフィアグループが関わってたりしますから」

「ま、そもそも心理潜航に置いては俺らは不利な立場なんですけどね。ハッキングの心配がありますから」

「けれどなれたんだよね。心理潜航捜査官」

「俺らは正規ルートって訳じゃないんですよね」

「そうそう、ヒューノバーさんとかみたいに養成所出身ではないので」


 養成所出身でなくともなれることは以前知ったが、二人は心理学を専攻していた大学からの引き抜きなのだそうだ。


「お恥ずかしながら、私たち、違法ダイブで一回捕まってるんです」

「ええ?」

「まあ結構深い場所まで潜れるってことで、心理潜航捜査官になるなら情状酌量もあるけど〜? って釈放ちらつかせられて、じゃあやりますみたいな」


 マリアムとカリアムは顔を見合わせて苦笑いをした。まあそりゃそんな表情にもなるか。


「違法ダイブって結構横行しているものなの?」

「そうですね。こっそりと……ってセラピー感覚で頼んでくるヒト居ましたからね」

「心理潜航ってやり方によれば快楽を引き出すことも可能なんですよ。ご存知でした?」


 知らないなあ。とアイスコーヒーを飲みながら言えば、ヒューノバーにやってもらうといい。と言われた。いや違法なんだろうが。


「別に個人間でやる分にはバレなきゃ大丈夫ですよう。ねえ? ヒューノバーさん」

「お、俺は隠れてでも犯罪行為はちょっとな」

「お堅いっすね相変わらず。でも夫婦間とかでこっそりやってるヒトは居るもんですよ?」

「……職務としてやってきたと思ってたけれど、初めてヒューノバーにダイブした時ってもしかして違法だったの?」

「いやいやいや、ちゃんと許可は取ってあったよ! そもそも資格だってあるんだから!」


 ま、それもそうか。ルールを破ることを嫌いそうなヒューノバーがわざわざ違法ダイブなんてするわけがない。


 食事を粗方終えて本格的に雑談タイムになってきたが、この双子、アングラ出身だからなのかはわからないが、結構貞操観念が緩い気がする。直接的に言われたわけではないものの、もしや違法ダイブ今もやっています? と微かに違和感を感じる。


 食堂を出てお手洗いに行くから、と二人とは一旦別れてヒューノバーと話をする。


「あの二人、今もまだ違法ダイブしてる感じあるけれどヒューノバー的にはどうなの」

「あー……まあ、仕事さえちゃんとやってくれれば……」

「班員全員目瞑ってそうだな」


 にしても心理潜航で快楽を引き出せるか。セラピーみたいな側面もあれば、そちら側の側面もあるらしい。性に奔放そうなこの惑星のヒトビトの常識から考えると、違法ダイブで捕まるヒトって結構多そうだ。そうヒューノバーに尋ねると割と居るらしい。


 ……ヒューノバーの深部にいきなり潜った時のことを考えて勝手に気まずくなる。


「ヒューノバー、色々、段階踏んでいこうね」

「……何の話?」


 頭に疑問符が飛んでいるヒューノバーを置いてトイレ行ってくるわ〜と女子トイレへと逃げ込んだ。


 違法ダイブ、興味がないわけではないが、深部で自分が襲われる可能性を考えると結構リスキーなものだが、あの双子は慣れていそうでそのうち興味本位でまた話を聞いてみるか。と考えた。


 その後班室に一旦戻り、昼休みがまだあったこともありヨークにこっそりと話を振る。


「ヨークさんてサダオミさんにダイブしたことってありますか?」

「ええ? なんだい急に」

「や、ちょっと気になって」

「あるけど」

「その、性的なことってしたことは」

「……双子からなんか聞いたねアンタ?」

「へへ」

「まー、夫婦間でこっそり、ってのはあるけど」

「あるものなんですね」


 ヨークは茶菓子を食べながら遠くで談笑中のサダオミを一瞥した。


「アンタも興味ある年頃かい?」

「喚びビトのバディ持っている方として聞いてみたくて……へへ」

「ま〜……熱い夜を過ごしましたと言っておくよ。興味あるなら恋人に直接言うんだね」

「や、そっち方面苦手なのでちょっと」

「なんで聞いたんだいアンタ」


 ヨークに呆れられ、茶菓子をひとつもらって自分の席でうまうまと食べ、若干ヨークとサダオミのいかがわしい妄想を繰り広げた後仕事に戻った。

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