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第五十七話 栗鼠の双子と蟹の恩返し

「改めまして! マリアム・デルクス。出向より戻りました〜!」

「カリアムも戻りました〜。相変わらず陰気臭い部屋っすわここ! もっと光らせちゃいましょうよ」

「ヤだよ。この陰気臭え部屋がいいんだろ〜?」

「二人ともおかえり〜」


 班員にわいわいと迎え入れられる二人を私は後ろの方で拍手をしながら観察する。姉のマリアムは栗鼠の獣人の可愛らしさと活発そうな性格から結構な根明に見える。弟のカリアムも人間ではあるが姉に似た髪色でこちらも眩しい笑みを浮かべ、根暗代表選手権第三位の私は直接話をしたら目が焼けるのではと心の隅で考えた。


 隣に居たヒューノバーにこそ、と話を振る。


「あのお二方、どんなヒトたちなの?」

「そうだなあ。人当たりがすごい良い子たちだね。話しかけるとすごい明るくてちょっと気圧されることがあるかも」

「根明のヒューノバーが圧倒される根明とかすごいな……」

「あの! ご挨拶いいですか! 喚びビトさん!」

「んえ」


 ご指名をいただき班内の視線を一身に受ける。少しだけ居心地が悪くなりながらも自己紹介をする。


「初めまして、細越沢みつみと申します」

「ミツミさんですね! わあ……本当に喚びビトさんが来たんですね! 良かったですね! ヒューノバーさん!」

「う、うん」

「ヒューノバーさん、俺がメッセージで喚びビトさんのこと聞き出そうとしてもはぐらかすんですよ。いや〜そんなに独占欲あるのか〜って思ってたんすよ!」

「そ、そうなの? ヒューノバー」

「ん、んんん」


 心なし恥ずかしそうに視線を逸らしたヒューノバーに、こちらもむず痒くなる。そんな私たちの様子を見て双子はきゃらきゃらとはしゃぎ始めた。


「あのう、ヒューノバーさんからはお付き合いを始めたとは聞いてるんですが、やはりヒューノバーさんから告白を!?」

「あ、いえ、私から……」

「ちょっとヒューノバーさん! そこ俺たち聞いてないんですけど!」

「言うつもりなかったし……」

「そりゃ無いんじゃあないですかあ? 俺らにだって喚びビトさんのこと色々語っておいて〜」


 カリアムが肘でヒューノバーをうりうりと小突いている。なるほどこういう絡み方か。隠キャの私からすると恐怖を覚える絡み方であった。多少大袈裟に盛ったが。


「それくらいにしておきなさい。カリアム。マリアム、レポートは書いてきましたか」

「あ、はいリディ……班長。データを今送りましたので確認お願いします」

「ええ」


 端末など何も弄っていないように見えたがいつ送ったのだろうか。リディアの方を向いているので後頭部が見えていたが、一部に機械のようなものが付いている。二人ともだ。


「ねえヒューノバー、二人の頭に付いているものってなに?」

「ん? ああ、脳接続型の補助デバイスだよ。彼らは、本来障害を持って生まれたヒトだったそうだから」

「あ、そうなんだ……ごめんあんまり突っ込むことじゃなかったね」

「いや、健常者でも着けている人は居るから。心理潜航捜査官は脳をハッキングされる危険性があるから着けないヒトが多いってだけで。あまり見慣れないとは思うけれど、聞いても普通に話してくれると思うよ」

「うん、分かったよ」


 脳に接続されているデバイスか。そう言えばなんかこめかみに機械のようなものが着いているヒトとか見かけたことはあったな。と思い出した。言語補助デバイスや眼鏡型のものと大差ないのかもしれない。気にはなったが、この惑星ではそう珍しいものでもないのならば深入りする必要も無いだろう。興味本位で聞くことでもない。


 昼休みも終えたし各自職務をとのリディアの声に、自分の机に戻って椅子に腰掛けた。が、後ろにカリアムがやってきた。隣のヒューノバーがどうしたのかと問うていた。


「エトリリワタリガニ、もう無いんですか」

「あー、部屋にあるけれども」

「譲っていただけません? 金は払うので」

「ごめんなさい。あれは贈り物にしようと思っていて……」

「ああ、じゃあ無理に譲ってもらうワケにはいきませんよね……すみません! 今度四人で飲みましょ! 色々聞きたいことありますし!」

「はい、予定が合う時にでも」

「じゃあ仕事に戻ります。失礼しました〜」


 申し訳なさそうな笑みを浮かべ退散していくカリアムを見送り、机の上に顔を戻す。


「あの残りの半分、ルドラさんに贈るんだっけ」

「うん、前お菓子駄目になっちゃったし、今回の旅行で珍しいものだって分かったし、贈り物にはいいかなって。秘書室で食べてもいいだろうし、パートナーの方とでもいいだろうし。アレルギーの有無はミスティに確認してもらったから多分大丈夫だとは思うけど」

「エトリリワタリガニは一応高級食材になるから、貰って嬉しくないヒト早々いないと思うけどね」


 きっと大丈夫だよ。とヒューノバーが笑ってくれる。笑みを返して仕事に戻る。その後休憩を挟んだりしつつ終業時刻となり、ミスティにメッセージを送ってルドラを引き止めてもらい、一旦急いで自室に向かってエトリリワタリガニを冷凍庫からクーラーボックスに詰め秘書室へと向かう。


 秘書室のインターフォンを使うとすぐにミスティが顔を出した。


「ありがとう引き止めてもらって」

「いいわよ。室長には私から言ってあるから、入って」


 失礼します。と部屋に足を踏み入れると無機質な機械の頭部とパンツスーツに身を包んだルドラの姿を認めた。


「喚びビトさん」

「あの、以前外で助けていただきありがとうございました。こちらお礼の品なのですが」

「……ふふ、私、蟹は好きなんです。パートナーも。私は大したことはしてはいませんが、あなたのお気持ちとして受け取ります。ありがとう」

「こ、こちらこそ、本当にありがとうございました!」

「室長、このエトリリワタリガニ、美味しいですよ」

「それは、期待してしまいますね」


 頭部の口の辺りらしき場所に手を持っていきくすくすと笑っているような仕草をするルドラ。なんと言うか、スマートで絵になるサイボーグ女性だ。


「お引き止めしてしまい申し訳ありません。ただ、感謝をお伝えしたく」

「充分受け取りました。今日は家でこちらをいただきますね。では」

「はい、ありがとうございます」


 秘書室を嫌味なく出ていくルドラを見送り、はあ、と息を吐いた。


「良かった、受け取ってもらえた」

「室長、何するにしてもスマートだから退室まで隙が無いわよね〜」

「憧れるう〜あんな女性」

「わかる。まあ謎は多いけどね」


 エトリリワタリガニは渡したし、私たちも居住区に帰るか、とミスティと部屋を出て帰路に着いた。そう言えば、と昼間のことを思い出す。


「ミスティって脳への接続型のデバイスって着けてないよね?」

「ん? うん、ああ、あの双子」

「あ、そう」

「あまり大っぴらに話す話題じゃあないから、気になるのは仕方ないけどね。あの双子は特殊と言うかね。獣人と人間との混血が進んだ結果の負の側面を持って産まれたのよ」

「負の側面?」


 混血による負の側面とはなんだろうか。とミスティの言葉を待った。


「多胎児だと障害を持って生まれる可能性があるのよ。獣人と人間の混血って」

「はあ〜……そう言うリスクが」

「ひとりなら確率は限りなく低いんだけれどね。あの子たちは本来は知的障害者なの。それを外部補助デバイスで健常者と変わらない知能にしているの」

「まあ、視力が悪いヒトが眼鏡かけるのと同じものだよね」

「理解が早くて助かるわね。ま、私がこれ以上話すべきではないだろうし、機会があったら本人たちに聞いてみるといいわ。この時代だと、あまり珍しいことでもないからね」


 ミスティとの話はアウティングに近い行為だろう。無理矢理聞き出したようになってしまい自分を恥いる。しかし、私とミスティとでは認識に齟齬が発生している気がする。障害の有無はこの惑星では然程大きなことではないのだろう。ルドラだって機械で体を補っており、知能を機械で補うのも大差ないことなのかもしれない。


 食事などを済ませた後自分でも調べてみようと決め、ミスティと食堂へと向かった。

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