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ももたろう短編シリーズ

ももたろう ~出会い編~

 おじいさんとおばあさんによって産まれることができた赤ちゃんは、ももたろう と名付けられ大事に大事に育てられてきました。


 ももたろう が12歳になった頃、鬼が各地を荒らしていると聞き、悪い鬼を退治する旅に出ることを決意します。


 おじいさんからは、立派な拵えの刀と羽織と不思議な袋を。

 おばあさんからは、大好物が詰まった重箱と笹の葉に包まれたきびだんごと竹の水筒を。

 それぞれ受け取り旅に出た ももたろう。


 けなげなしゃべる犬に出会った ももたろう は、犬の願いを叶えて仲魔を得ることができました。



 ……さて、今回は、何と出会うのでしょう?



『主殿、なにかがこちらへ向かっている。警戒されよ』


 鬼の痕跡を探して森の脇の小道を歩いているとき、先日旅の()()になった犬……ではなくて、狼の マカミ が、 ももたろう に警戒を促します。


 人間の ももたろう にはなにも分かりませんが、狼である マカミ の感覚は鋭く、とても頼りになります。


 耳をピクピク動かしたり方向を変えたりしているので、なにか音が聞こえているようです。


 まだ12歳の ももたろう には、近づいてきているなにかより、 マカミ の耳が動く様子が可愛くて気になってしまいます。


 その場で待つことしばし、ももたろう の耳にもドスッ、ドスッ、と重い足音が聞こえてきます。

 やがて、森の方から黒くて大きな……とても大きな猿? が姿を現しました。


 まだ伸び盛りの ももたろう の背丈の、3倍はありそうな巨体。

 おじいさんの狩りに着いていったときに見た猿とは比べ物にならない大きさです。


 大人の熊が二本脚で立ち上がったときよりも大きいかもしれません。



『小者が……。そこをのけ。さもなくば、叩き潰す』



 地を揺るがすような低く重い声を発する黒い猿。

 お腹に響く重い声を聴き、猿がしゃべった!? と ももたろう は驚きます。

 なぜなら、おじいさんと山に狩りに行ったときに聴いた猿の鳴き声は、ギャッギャッ、とか、ギーギー、とか、そんな感じだったから。

 狩人のおじいさんが来た! と人の言葉で叫ぶ猿は、一人も……一匹もいなかったからです。



『貴様がよけて通ればよかろう。図体(ずうたい)ばかりでかくてそんなことも分からぬか。でかいだけで所詮(しょせん)は猿か』



 しゃべる猿のお出ましに ももたろう が驚いていると、なぜか マカミ が黒い猿に対して挑発してしまいます。

 これが『犬猿の仲』か! と ももたろう が感心していると、黒い猿の体から風が吹いてくるような圧を感じます。


『犬の分際で、我の道を(はば)むか? ……もう一度だけ告げてくれようぞ。そこをのけ。さもなくば、叩き潰す。ただそこにいた。という理由で、鬼が我らの家族を薙ぎ払ったように』


『ほう……面白い。久方振りの大物。我が力を主殿に見せるのにちょうどよい』


 黒い猿の言葉に マカミ はやる気満々ですが、ももたろう には聞き捨てならない言葉が含まれてました。


「ちょっと待った。きみ、今、鬼と言ったね? 僕も鬼を退治するための旅をしているんだ。よければ、なにか知っていたら教えてほしいんだけど」



 二匹の間で膨れ上がる闘志に気づかないふりした ももたろう が待ったをかけると、黒い猿は低く重い声で静かに語り始めました。



『我は、向こうの山のさらに向こうにある山に暮らす猿の両親より産み落とされた異常個体なり。あるいは、そこらに捨て置かれていた赤子を、仔を亡くした猿の夫婦が見つけ引き取ったのやもしれぬが……。とまれ、猿の夫婦の仔として育てられた。いつしか両親の背丈を越え、十の仲間よりよほど重く木にも登れぬが、この身は熊にも負けぬ強靭(きょうじん)さが宿るようになった。


 ある日、森を荒らすよそ者がいると仲間から教えられた我が、真っ先にその場へと参じれば、人とも猿とも違う、二本の脚で立ち丸太のような金棒を振るう荒くれ者が居た。

 なんとか撃退し仲間の元へ帰れば、ねぐら周辺の木々はなぎ倒され、森に火が放たれ、仲間たちの(むくろ)が焼かれているところだった。

 生き残った仲間たちから話を聞けば、角を持ち鬼を名乗る者どもが、笑いながら仲間たちを無惨に殺していったのだという。そして、食うでもなく、森に火を放ったのだと!


 ただ、そこにいた。という理由で、我らが家族は無惨に殺されたのだ! ならば、我は鬼どもを無惨に殺してくれようぞ。そこに鬼が居るから。という理由で!


 その道を阻むのなら、貴様らも叩き潰すまで!』



 黒い猿の身に降りかかった不幸を語るうち、黒い猿の目から雫がこぼれていることに気づいた ももたろう は、一つ提案をしてみます。


「それじゃあ、一つちから比べをしようか」


 そこら辺に落ちていた枝で ももたろう の歩幅で七歩分くらいの円を書き、円の中に線を二本引きます。


「じゃあ、この円の中に入って。線のそっち側にいてね。……うん、そこ」


 ももたろう が言うとおりに動く黒い猿を見て、思います。


 このとても大きな黒い猿は、悪しきモノではないのだな、と。

 家族や仲間を想う様子は、人となんら変わらないのだな、と。


「はっけよい、のこった。の合図のあとは、脚の底以外が地に着いたら負け。この円から脚が出ても負け。相手の体を地面に着けるか、この円から相手を押し出せば勝ち。簡単でしょ?」


『……うむ。人の世の(ことわり)には(うと)い我であるが、分かりやすいぞ』


 ももたろう は、ちゃんと伝わっていることに満足しつつも、どうすれば勝てるかをよく考えます。


「じゃあ、やろうか」


『いつでもよい』


「見合って見合って、……発気用意(はっけよい)


 身を低くし、手をついた ももたろう は、とても大きな黒い猿からすればとても小さい存在です。

 それこそ、自分の仲間や家族たちと同じように。


 しかし、今の ももたろう からは、黒い猿を圧倒する闘気を感じます。



「のこった!」



 黒い猿が ももたろう に気圧されている隙を突き、全速力で黒い猿の股下を駆け抜け、反転して、黒い猿の膝裏に突進します。


 片方の膝を後ろから突かれた黒い猿は、バランスを崩して手を付いてしまいます。


「地面に手をついたね。僕の勝ちだ!」


 ももたろう は、すかさず勝利を宣言します。


 けれど、黒い猿は納得がいかないようです。


『待て、確かに我は地面に手を付いたぞ。しかし、我は戦えなくなったわけではない。続きをやるぞ』


「でも、僕は言ったよね? 手をついたら敗けだと」


『むうう……確かに。……しかしだな』


 一応敗けは認めたものの、やはり納得はいかないようです。


「納得はできない?」


『当たり前であろう。このとおり、我はまだ戦えるのだ。だのに、敗けを認めろなどと』


「じゃあ、事前の取り決めを反古(ほご)にして、鬼のように理不尽な暴力を振るうの?」


 ももたろう の問いかけに、黒い猿はたいそう驚きます。

 自分の家族や仲間たちが受けた仕打ちを、鬼ではなく、何の罪もなく関係もない者に対して行おうとしていたことに気付いたからです。


『わ、我は……なんてことを……しようと……』


 驚きのあまり、言葉を失ってしまう黒い猿に対して、ももたろう は声をかけます。


「きみときみの家族のように、鬼の理不尽な暴力にさらされる者は多く居るそうだよ。僕は、鬼を退治する旅をしているんだ。……この、しゃべる犬……じゃなくて、狼の マカミ と一緒に」


『…………フンッ』


 マカミ がちょっと涙ぐんでいるように見えるのは、黒い猿の境遇に想いを()せたからかもしれません。


「きみも、一緒に行かないかい? 鬼退治に」


 ももたろう が手をさしのべれば、黒い猿もまた大きな体で、ももたろう の小さな体を傷つけやしまいかとおっかなびっくり手を差しだし、太くて大きな指に小さな手をつかませます。


 これでまた、()()が増えました。


 ……と思ったら、黒い猿のお腹がすごい音を立てて鳴ってしまいます。


 ご飯の時間にはまだ早いので、ももたろう はおじいさんの袋にしまった笹の葉に包まれたきびだんごを取り出します。


「おなかがすいたなら、どうぞ」


『……一つでよい。……少年よ、そのきびだんご、一つ我にくれまいか?』


「おばあさん特製のきびだんご、一つと言わず、たーんとお食べっ!」


 大きな体に見合わず少食な黒い猿が遠慮すれば、ももたろう はたくさん食べさせようとしてきます。


 おじいさんの袋にはとてもすごい秘密があり、一度袋に入れたものならたくさん食べても問題ないからです。



 お食べーとぐいぐい(すす)めてくる ももたろう に戸惑う黒い猿を見て、地面に伏せて鼻を鳴らす マカミ は、どこか満足そうでした。




「そうだ、きみの名前はなんていうの?」


『我は、名など持たない。群れの家族たちも名を持つものはいなかった。……そなたが付けておくれ』


「うーん、それじゃあねぇ……。キョウ なんてのはどうかな?」


『……うむ、良い響きだ。して、それはいかなる訳があるのだ?』


「お腹によく響く重い声だから、「響く」と書いて キョウ 。どうかな?」


『……主よ、恩に着る。これより、我が名は キョウ 。この無双の力と強靭な体、主と共に』



 そう言って、 キョウ は胸を力強く叩きます。

 まるで銅鑼(ドラ)を鳴らしたような力強い大きな音が辺りに響きます。


「……大げさだなあ」


 とても大きな音にちょっと驚いた ももたろう は、気にしないふりして一声かけます。

 そんな ももたろう は、2匹目の確かな()()を得たのでした。



 ……うん? 2人目? 2体目? 二柱目?





 今回は、これまで。





 ×猿

 ○ゴリラ(変異種)

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― 新着の感想 ―
ももたろうの、普段の朗らかな感じと物事の理を説く時のメリハリが感じ取れて非常に良きですね!これは効く(確信) おじいさんとおばあさんの教育の賜物か…! ゆっくり読もうと思ってたのに、ついつい続きを読…
[一言] ゴリラwwwwwww 絶対強いやつですね。 よく相撲で勝てたなぁ。 桃太郎なら楽勝なのか(;'∀')
[一言] 着々と戦力が強化されてゆく( ˘ω˘ )
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