Ⅷ
怪訝そうな顔を向けてくる衛兵に軽く会釈をしてから門をくぐり抜け、平民街よりも馬車が通りやすいように手入れされた石畳の通りを歩く
貴族街の通りにはシリアの他に歩いているものの姿は見えなかった
それはそうだろう
貴族街は貴族が住んでいる区画であり、彼らはどこに行くのであっても基本自分たちの馬車を使う
使用人たちであれば自分の足で移動することもあるだろうが、このように太陽の高いうちならば下級の使用人たちは屋敷で働いている最中のはずなのだ
だからこそ旅装のような出で立ちで自分の足で歩くシリアはかなり目立って見えた
そんな彼女が次の詰めの門ーーつまりはエルフェンリート城の城門前で呼び止められることになったのは当然のことだろう
「そこの旅の方、ここから先は貴き方々のおはします所。許可なきものの立ち入りは禁じられています」
彼女が衛兵のひとりにそう呼び止められたのは正門ではなく裏門
登城する際には馬車で乗り付けるのが一般的であるため、徒歩であったシリアはこちらに回るしかなかった
しかもその上で正式な裏門ですらなく、兵士や城で働く者たちが使う通用口の方へと向かっていたのだ
そんなおかしな行動をするシリアに槍を手にした3人の衛兵たちは呆れたような目を向けるばかりである
「あ。すみません、こんな格好じゃだめですよね」
だが、衛兵に拒絶をされてもさして気にすることなく、シリアはそう告げるとフードを外し、上着の上から纏っていた外套を脱いだ
まずフードの中から溢れたのは朱
肩まである、まるで夕闇に太陽が溶けだしたかのような橙の手入れの行き届いたまっすぐな髪はとても美しく、衛兵たちは思わず目を奪われーー、
「……?」
そして落ち着きを取り戻した後に、目に入った彼女の服にわずかばかりに首を捻ることになった