Ⅶ
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「あぁ……やっちゃった……」
結局心配をさせてしまった店主にも謝罪を繰り返しその場を後にしたシリアは先程の市場からは少し離れた場所を軽く落ち込みながら歩いていた
突然のことについ動揺してしまったからとはいえ、不注意にも人通りが多い場所なのだということを完全に失念してしまっていたのだ
とても優しく、親切な黒髪の青年だったおかげで自分も大事には至らなかったものの、心優しい店主にも心配をかけてしまったし、ぶつかったのがあの青年ではなく小さな子どもやお年寄りだったら怪我をさせてしまっていたのかもしれない
またあれが人ではなく、馬車との衝突だったのであれば自分の方が無事ではすまなかったのだろうとも思う
今後は絶対に気をつけねば、と思う反面でそのおかげで親切な人にも出逢えたのだということが少しうれしくもあった
王都には青年や店主のような人が良くて親切な人々が暮らしている
今日、さっき来たばかりでもう2人も会えたのだ
ここにはきっともっともっとたくさんの素敵な人々がいるのだと、そう思えただけで胸があたたかくなる
「……頑張ろう」
小さく呟きながら、シリアは目の前の道の先に広がっている大きな門を見つめた
2の門、と王都では呼ばれているらしいそれは1の門ーーつまりは外と王都との関所になっているそこと大まかな造りは変わらない
複数の階層型式になっているエルフェンリートの王都にはいくつもの門があるものの、この2の門は市井の人々が暮らす平民街や商業街と大きな屋敷が立ち並ぶ貴族街との境界線になっていた
とはいえあくまで区画の境目というだけでそこに住む貴族以外は立ち入り禁止というわけではないし、誰でも通り抜けることができる
そしてシリアの目指す目的地も、この貴族街ではなくさらにその先であった