Ⅵ
「大丈夫? 怪我してない?」
どこにでもいるような麻の服から覗く肌の色は髪と対照的に白い
かといってシリアのようにほんのりと赤みがかっているのではなくて、どちらかといえばそれは雪のような白さだった
体格は全体的に細身
身長はちょうどシリアとあたま1つ分離れているようで、優しげな面立ちからは今は心配そうな視線が向けられている
彼はシリアがおずおずと目を開けたのを確認すると、彼女を支えていた手を離して少し距離を取る
おそらくはそれが自分を怖がらせないためにと慮った行動なのだと理解できて、シリアはこころが暖かくなるとともに少しばかり落ち着きを取り戻せた
「あ、は、はい……大丈夫です」
「そう。よかった。はい、これ」
柔らかな笑顔と共に青年が差し出してきたのは先ほどまでシリアが持っていた革袋
どうやら、シリアを抱き留めた際に手から離れたそれをもう片方の手でキャッチしてくれていたらしい
優しそうな雰囲気に似合わず反射神経や運動能力は優れているようだ
「あ、えっと……その、ごめんなさい」
それを受け取りつつも、まず謝罪をし、不注意で、と言いかけたシリアを青年は片手をあげて制した
「大丈夫だよ。それじゃあ気をつけて」
「あ、はい。気をつけます……」
そうして自分がきちんとした感謝の言葉を伝えられなかったことにシリアが気が付いたのは、にこやかな笑みを浮かべた青年が横に置かれていた彼の荷物であろう台車を引いて立ち去っていく姿を見送ったあとになってからだった