Ⅱ
彼女が生まれ育ったのは人よりも木々に囲まれた緑豊かな地であり、過去王都に訪れたのだって小さい頃に叔父に連れられてきた1度きりだ
目に入るものすべてが珍しく見えて、シリアは少しばかり胸を踊らせた
いくつかの領地を跨いだ先から運ばれたという塩漬けの魚や野菜類
手先の器用なご婦人達が作ったらしい編み細工
腕利きの彫金師が仕立てた装飾品類など、どれも心奪われるようだった
「!」
けれど、その中で彼女がいちばん心惹かれたのはとある屋台の小さな赤錆色の果実
ひとつひとつは親指よりも小さな、豆粒大のそれが売り場の台の上にこんもりと山積みにされており、その横には大人の拳ほどの素焼きのカップが並べられていた
また人のよさそうな主人がいる奥の柱には小さな革袋も吊り下げられている
どうやらそのどちらかの容器で量り売りをしてくれるようだが、王都では珍しいものなのか人通りの多い通り沿いにも関わらず、その店の辺りにはあまり人気がなかった
「今朝届いたばっかりのメイフェルベリー産のキルカの実、あまくておいしいよ」
「わあ……」
店主の言葉にシリアは思わず顔を輝かせた
赤錆色をした薄い殻を指でつまんで剥けば、中からは白くて透明な瑞々しい果肉が顔を覗かせる
そんなイメージがつい頭を過ぎり、彼女はしばらく真剣な顔で眺めてから何ヶ所かを指差す
「えっと、そこと、そこと、そこの部分のやつを、袋でお願いします」
運送のための日程を考えてのことだろうか、よく見ると実はすべてが熟しているというわけではなく、ところどころにまだ蒼々としたものも混じっているようだった
だというのに見事に食べ頃といった具合に熟したものだけを選んだシリアに店主は目を丸くする