幼稚園(1)
「みーちゃんはねー、あつきくんが好き!」
「たえもー!あとゆうとくんもすき!」
「いっちゃんは?だれがすき?」
年長さんになり、いじめっ子と同じ教室になった。
この頃から、女の子は常にグループで行動し始める。
私はいつの間にか、その子と同じグループになっていた。自分ではそんなつもりはなかったが、取り巻きとなっていた。
他のグループもあったんだから、そっちに逃げればよかったのに。
まだ5歳のわたしは、逃げる術を知らなかった。
「わたしはゆうとくんかな。」
「いっちゃんもゆうとくんかー!ゆうとくんがいちばんモテるね!」
そもそも好きとは何なのか。
5歳の自分にはわかる訳もない。
1番に思いついたのがゆうとくんだったからとりあえず周りに合わせて言った。
周りに合わせなければ、1人になるかもしれないと思っていた。
グループは、教室内のカーストの上位にあった。
いじめっ子は苦手だったが、何となく感じるカースト上位の居心地良さを手放せずにいた。
自分の居場所を守ろうと、この頃から周りの目には敏感に反応していた。
なぜなら、グループの内のカースト最下位は私だったからだ。
「たえね。今日はきれいなビー玉もってきたの。みんな、ほしいよね?」
「ほしい!」「みーちゃんもほしい!」
「じゃあ、みんなにはジャンケンしてもらうね。さいごまで勝った人にあげる!何をだすかは、たえが決めて、1人ずつにこっそりおしえるから、みんなはそれをだしてね。」
当時も気づいていたが、たえちゃんの独壇場だ。
皆、そのことに気づいていたのかはわからない。
ましてや、皆がたえちゃんの言いつけ通りにジャンケンをしていたのかはわからない。
私は、別にビー玉なんていらなかった。
なんなら、このジャンケン大会に参加するための、(欲しい)という言葉を言ったことは1回もなかった。
ただただ、その場にいただけなのにいつの間にかエントリーしていて、いつも1回戦で敗退していた。
もちろん、これはたえちゃんのシナリオに従っていた結果だ。
つまり私はお気に入り最下位。
トーナメントの結果が、たえちゃんのお気に入りランキングになっていることは、5歳の私でもわかった。
しかし、この日は違った。
なぜか2回戦まで残っていた。
「いっちゃん、つぎはパーだしてね。」
いつもなら初戦敗退なのに、と思いながら、従順にパーをだした。
「いっちゃんのかち!ビー玉はいっちゃんにあげるね!」
優勝した。戸惑った。
これまでこんなことは無かったからだ。
周りのみんなも驚きながら、良かったね、と声をかけてくれていた。
欲しいわけじゃなかったが、綺麗なビー玉をもって、私は笑顔になっていた。
その後は教室のみんなでご飯を食べて。
掃除の時間。
「たえちゃん、さっきはどうして、わたしを勝たせてくれたの?」
あまりの衝撃に、本人に聞いてしまった。
つ
「うん?いっちゃんが好きだからだよ!」
嬉しい。初めて友達と思えた気がした。
「あとはね、わたし、ゆうとくんも好きだけど、あつきくんのほうがもっと好きなの。みーちゃんは、あつきくんが好きだから。だから、みーちゃんよりいっちゃんが好きになった!」
理由なんて聞かなきゃ良かった。
こどもの感情と行動は、なんて欲望に忠実なんだろう。
たったそれだけで、お気に入りランキングが変わるのだから。
この経験から私は、人の気持ちは簡単に変わることと、嫉妬ほど怖いものは無いと感じた。