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魔法少年ボタニカル★フレンズ  作者: 九JACK
アマリリスの魔女編
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give it back

 マリは軍と交渉した。

『わがままを言ってごめんなさい。自分のことなら、自分で解決をするべきでした。けれど、私のお願いを聞いてくれてありがとうございました。私はもう、ここを出ます。けれど、向こうをしばらく攻撃しないでください』

 当然、それは何故かと聞かれた。マリは答えたくなかったが、協力してもらうには教えるしかなかった。

 魔法発症者が魔法発症者を食べると、いくらか回復するということ。回復したナギで、砦の人間は防御を固めるだろう、ということ。

 魔法発症者を食べることにより、魔法の能力そのものも向上している可能性がある、ということはかなり重要だった。杉の魔法使いはそもそも強いのかもしれないが、魔法の操作が緻密で細かかったように思う。魔法発症者を食べるのには、そういう利点があるのかもしれない。

 けれど、能力が向上したところで、植物化が収まるわけではない。杉の魔法使いが長く生きているのは魔法という病気そのものを浄化する能力を持った桜の魔法使いを食べたからだろう。

 ナギの体を取り込んだマリも柳魔法の緩和によって、魔法の侵攻が抑えられている。だが、ナギはそうではないだろう。

 ナギが食べさせられた魔法発症者の赤ん坊が浄化や緩和など、そう都合のいい魔法を持っているとは考えられない。だとすれば、マリや杉の魔法使いと違い、ナギは魔法を使えば使うほど、病が侵攻していくことは変わっていない。

 攻撃をしたら、ナギは強くなった魔法を使うだろう。魔法は強ければ強いほど、侵攻が早くなる。つまり、砦に攻撃をすれば、ナギが死に近づいてしまうのだ。

『せめて、私があちらに戻って、ナギと脱出してからにしてください』

「だが」

 兵士が反論する。

「あなたが一人でナギさんを連れて脱出するなんて不可能だ。どうするんだ?」

 その質問は当然のものだった。マリは切なく微笑む。

『私の魔法を使います』

 ロストにしか通じない言語。けれど、マリは魔法を侵攻させたことにより、魔法が強化されたのを確信していた。

 この「声」が届く範囲はきっと、魔法発症者以外にまで及ぶ。その分、リスクもある。効力が、強すぎるのだ。極端な話、「死ね」と言えば、目の前の兵士が簡単に死ぬであろうほどに。

 むやみやたらに使ってはいけない。だから、手話や筆談を使うのだ。

 きっと、この力も知られれば利用される。だから詳細は話さなかった。

 魔法の詳細については、外国人も喉から手が出るほしいことだろう。だが、マリが受けた扱いを知っているため、それ以上踏みいってこない。その心理をマリは利用した。

 自分の身を守るためには、人は少しでも狡猾にならなければならない。マリとて例外ではなかった。少し胸の奥がちりりと痛むが、仕方のないことだ、と飲み下す。失ったものは取り戻せない。けれどナギはまだ生きている。その希望を取り戻すためなら、マリは心だって、体だって、どんなに傷ついてもかまわなかった。

 ……もう、わかっている。ナギと再会したところで、マリの体はもう子を成せない。ナギとの証を残せない。それでも、ナギに会いたかった。ナギを愛していることに、変わりはなかったから。

 子どもが救えなくても、せめて、ナギだけは。その願いが、今のマリの唯一の拠り所だった。

 ナギと再会したところで、ナギはただの、一本の柳の木になるだけだろうけれど、それでも、一目、一目でいい。無事だと知りたい。できるなら、抱きしめたいし、抱きしめられたい。

 もう二人だけの世界にしてほしい。

 マリのぶちまけた思いの丈に、外国人はお手上げのポーズを取り、肩を竦めた。基地を出ていくマリに「幸運を祈る(グッドラック)」という言葉だけが、いくつもかけられた。

 人の温かさを感じることができた。マリの心はそれである程度満たされている。だが、同時にわかったこともある。

 日本人だろうと、外国人だろうと、人間である限り、温もりと冷たさを併せ持つ。だから、もはや人間ではなくなったマリはここから孤独な戦いを強いられるのだろう。

 それでも、ナギに会いたい。

 その想いを胸に、マリは日本人の砦へと向かった。


 砦からは強くナギの気配を感じた。それはナギの魔法が強化されたことと、マリの植物化が進んだことが原因だろう。

 マリはそっと壁に触れる。壁に触れただけでは、中の人間には気づかれまい。けれど、魔法と魔法が干渉し合い、ナギには伝わったはずだ。

 マリは言葉を紡ぐ。

「開けて」

 すると、砦の壁は木の枝が絡み合ったものに変化し、マリの通れる隙を作った。ナギがそうしたのか、マリの魔法が効いたのかは、わからない。それでも、中に入るという当初の目的は成された。

 マリは続ける。

「導いて」

 木の枝が蠢き、道を作る。森ならきっと、獣道と呼ばれる類の道だが、不思議とマリが通りやすいように、枝たちは道を開ける。

 それを真っ直ぐと進んだ。罠かもしれない、と心の片隅で警鐘が鳴ったけれど、それよりもナギへの信頼が勝った。どんなに人間たちが有能でも、魔法の管理はナギにしかできない。だから、ナギを信頼し、ナギにも信頼されているマリにとって、警戒など、必要なかった。

 道が開いてくれて、ほっとしている。ナギに拒絶されるかもしれない、という一抹の不安があったのだ。杞憂に終わって、うれしい。

 どんどんと奥に進む中、どこか遠くでアラートが聞こえた。さすがに、侵入を気づかれたのだろう。それでもマリは堂々と歩き、ナギの元へ向かう。

 そうしてアラートのサイレンがうわんうわんと脳内をかき乱すほどになる頃、マリは拓けた場所に辿り着いた。

 そこには、一人の少年が座していた。マリの知っている少年だ。植物化が進み、枝が身体中を這い、顔の半分が枝下柳と化している。もうその唇は見えない。彼はもう、喋ることができないのだろう。

「ナギ」

 その姿に胸がいっぱいになり、マリは泣きそうな声で名前を呼んだ。

 無論、答えは期待していない。それでも、あの頃から変わらない、静かな眼差しがマリをしっかり認めてくれて、目が合ったことに安堵する。

『マリ、やっと、会えた』

 ナギの声が脳内に谺する。このときほど、マリは自分の魔法がロストの声を聞き取れるものでよかったと思ったことはない。

 おかげで、ナギと言葉が交わせる。うわんうわんと耳鳴りを起こすサイレンなんて関係ない。二人の心は何物にも遮られないのだ。

『会いに来てくれて、うれしい』

「うん。わたし、ナギに会いたくて、ここまで来たの」

 うわんうわんうわん。

『マリ、もっと近くに来て』

「うん」

『ごめんね、マリ。ぼくの足はもう、床に根を張って、ここから動けないんだ』

 それは、ナギの完全な植物化が目前であることを意味した。──ナギはもうすぐ、人間として、死んでしまう。

 ただの一本の、柳の木になる。

 マリはほとんど植物化して、ごつごつとしたナギの体を抱きしめた。まだ人間の皮膚が残っている瞼に唇を落とす。

 うわんうわんうわんうわん。

「大丈夫。どんなナギでも、わたしは一生愛すよ」

 ──その告白を、一時の逢瀬を、数多の銃声が貫く。

「裏切り者の魔女め! 我らが教祖さまを誑かしに来たか! 死ね!!」

 アラートで人間たちが来るには、十分な時間だった。けれど、そんな信徒たちの声より、マリはナギを見た。

 マシンガンから放たれたであろう銃弾は、マリにもナギにも当たることなく、途中でぱらぱらと落ちていったのだ。この超常現象は、紛れもなく、ナギの緩和の魔法。

 めりめり、とナギの肌から、人間からしてはいけない音がして、マリの心臓が凍える。ナギはマリを守るために、無茶をしているのだ。

『ナギ、ナギ、やめて。わたしはもういいから』

 ロストの言葉で、マリはナギに訴える。けれどナギは静かに微笑むだけで、全ての銃弾を無力化した。

「……教祖さま?」

「──っ!!」

 ぼこぼこぼこ、とナギの体……植物部分が肥大化する。マリはぞっとした。それでも鳴り止まない銃声、途中で落ちる薬莢。人間の形でなくなっていく、ナギの体。

「魔女め! 教祖さまに何をした!?」

 ちがう、ちがう。

 やめて、やめて。

 わたしじゃない、あなたたちのせいよ。

 声が出ないマリに、抱きしめられたまま、


 ナギは一本の枝下柳の木となった。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 マリの叫び。魔法の混じったそれは、人間たちの耳をつんざいた。

 その悲鳴は、やがて怨嗟へと変わり、あまりにも大きな言葉を生み、何の比喩でもなく、世界を揺るがした。

 アマリリス魔法の真価。

 たった一言。

「かえしてえええええええええええええっ!!!!!」

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