利用されて
特に女の人にはつらい、ぐろ描写があります。ご了承ください。苦手な方は逃げて。(ちなみに私は妊娠未経験です)(妊娠ネタが苦手です)
本当に屋久杉が平和な場所だった、とマリは街に戻って思い知る。
大陸と列島がくっついた境で、国境戦争が起こった。久しぶりに戻った家だった場所は荒れ果てており、人がたくさん死んでいた。
だからなのか、異形だろうと、マリたちは受け入れられた。植物化の影響なのか、マリたちの姿は少年少女で止まっていたから。
まあ、マリの言葉がわからない人間たちと通訳をするナギが、迫り来る銃弾の速度を緩めたとき、人々はその能力に感動した。
それはもう新しい神を奉るような勢いだった。ナギが神様にされ、マリはその嫁だというと、いよいよ大騒ぎで、物資も少ないだろうに、酒盛りを始めた。
マリは複雑な気持ちだったが、ナギはそれを受け入れ、子どもを産むつもりなんです、と大人たちに話した。
「ぼくたちはこのような異形ですが、体の仕組みは人間と変わりありません。彼女が身籠ったら、手助けをしてほしいのです」
……ナギの考えがわかった。この状況を利用するのだ。子どもを無事に産むまでは大人の助けが必要だ。神様だなんだ、理由はなんでもいい。大切に扱われて、人間を味方につける。そうして自分たちの身の安全を確保するのだ。
利用し、利用される。生き抜くためには必要なスキルかもしれない。けれどマリは悲しくも思う。どうして人は打算なしに人を助けられないのだろうか。
人間のそういう人間性が人間を生きづらくさせている。そのことがどうしたって、悲しくなる。
そうして「緩和」の魔法を使うナギを神様として祭り上げ、戦争のために利用することにした大人たちは至れり尽くせりだった。食べ物に困らなかったし、体調を気にして、暖かい毛布をくれた。時には医者がマリのことを診てくれて、悪くない生活だったかもしれない。
マリのお腹の中にナギとの子どもが宿って、数ヶ月経った頃だ、雲行きが怪しくなってきたのは。
敵がこちらに能力者がいることに勘づいたのだ。それもそうだろう。いくら爆撃をしても、拠点は潰れない。不死の砦、というには粗末な造りなのに。
魔法という非現実を敵は信じていなかったが、生還した一人が、ナギが緩和の力を使うところを目撃したらしく、ナギが狙われるようになった。
ナギが異形であるため、生物兵器か何かだと思ったらしい相手は、鹵獲を目論む。だが、それを察知したこちら側の対処は早かった。ナギを砦の最奥に閉じ込め、何人たりとも潜入させなかった。マリさえも、ナギに会えなくなった。
マリは腹が膨れて、上手く動けなくなっていき、次第に皆から「足手纏い」として扱われるようになった。ナギはマリもナギと同じ存在だと語るけれど、マリは人々のために力を使ったことがなかった。それはあくまでマリの能力がロストと戦うためだけにあるからであって、マリだってできるのなら、親切にしてくれる人たちに恩返しをしたかった。ありがとうも言えなかった。言葉が通じないばかりに。
人々が共通言語を使えなくなったのは、かつて神のおわす地まで届くほどの塔を人々が作ったからだという。神を見下ろそうとした、不敬である、と。
それなら、ロストと話すために、人間と話せなくなってしまったマリの罪はなんだろうか。マリは何か間違えただろうか。食事として出された堅いパンを懸命にかじりながら、マリは考えた。
どうしてナギは人間なんて守っているのだろう。どうして何も関係のない自分たちが、こんな下らない戦争に巻き込まれなければならないのだろう。私たちはただ、人並みの生活を求めていただけだった。
ナギが生きているから、マリも生きていた。自分の中に息づくナギの半分の命のために、自分は生きなければならなかった。
けれど、魔法という病気を患った弊害がここで生じる。
「この女、全然産気付かないぞ」
「もう一年以上経つのに」
そう、マリは通常の妊婦のように産気付くことがなかった。自然分娩をするにも、マリの体は幼すぎた。
「ナギ様の子を身籠ったという話自体が出鱈目なのでは?」
「さすがにそれはないだろう。ちゃんとした医者が診てるんだぞ」
「……確かめればよかろう」
それが鶴の一声だった。
本当にマリが身籠っているのか、それがナギの子なのか、確かめればいい。産めないのなら、腹を裂いて、取り出して、この目で確かめればいい。
それからマリは麻酔もされずに腹を裂かれた。人間の人間とは思えない行動に、マリは泣き叫んだし、子どもが死んだらどうするの、とも嘆いた。人間たちはマリの言葉を聞き取れない。だからマリの決死の叫びも「五月蝿い女め」と片付けられてしまう。
裂かれた腹から出てきたのは、二人の赤ん坊。人間の赤ん坊だ。マリは意識が薄れながらも、自分の子どもが産まれて、おぎゃあ、と泣く瞬間を見て、涙した。
「これでこいつは用なしだ。捨て置け」
裂いた腹も縫われないまま、マリは砦の外に打ち捨てられた。
マリはそれでも生きようとした。ナギに会いたかったから。血塗れの自分の腹をどうにかせねば、と思っているうち、脳内で赤い花が次々綻ぶイメージが浮かんだ。そして気づく。植物化を欠損部に集中させれば、一旦は死なずに済む、と。本能で理解した。
理解してから、マリの腹がアマリリスの花で埋め尽くされるまで、そう時間はかからなかった。けれど、皮肉なるかな。ナギの体を取り込んで魔法の症状を緩和していたのをわざと悪化させたために、マリの体力はそこで尽きた。
人の体から、花が咲く。その奇跡を目撃した一人の兵士がいたことに、マリは気づけることもなく、意識を失った。




