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魔法少年ボタニカル★フレンズ  作者: 九JACK
アマリリスの魔女編
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ボタニカルブルーム

 縦横無尽に風が飛んでくる。それを杉の魔法使いはマリとナギの二人を抱えて避けた。

 風の魔法使いだから、風が読めるのだろうか。目に見えないものをひょいひょいと避けていく様は本当に絵本の魔法使いのようだった。

「二人に結界を張るからね。少し時間がかかるかもだけど」

「て、手伝います」

「だーめ」

 意気込むナギの唇に人差し指を当てる杉の魔法使い。

「僕が見た目よりは長く生きて、魔法の効果でできたことを二人に教えていくよ。鎌鼬は強いロストだけど、風は僕の領分だからね」

 マリはなんとなく、魔法使いがナギを止めた理由がわかった。

 魔法にかかった自分たちは、やがて植物になって死ぬ。魔法を使えば使うほど、体が植物に侵食されていく。ナギは既に左目が開かないようになっている上に、他の部分も根が露出し始めている。ナギが魔法を使えば、植物の侵食が進み、やがてナギは一本の木になるだろう。それが人間としての死だ。

 何も死に急ぐ必要はない。それにマリは、ナギが木になってしまうのを見たくなかった。ナギのことを理解するでもない人々のために献身して木になるなんて、馬鹿みたいじゃないか。

 それでも、人のためになるから、ロストを魔法で抑えようとマリたちはもがくのだ。

 杉の魔法使いがナギとマリを風で包み、離れていく。風の結界はマリたちを襲おうとした鎌鼬の勢いを凪いで、鎌鼬を無害化していく。

 杉の魔法使いは、鎌鼬を避けて何かを唱えていた。その姿は神聖で、昔に人々が神様に捧げたという舞に似ていた。鎌鼬の動きを阻害するのではなく、そのままにいなして、ロストの持つ怒りを発散させているのだ。

 けれど、それだけでは鎌鼬は地上に届いてしまう。そこで杉魔法だ。鋭い刃のような風の名残を丸めて、鞠遊びのように手慰み、唄って、あやしていく。

「お嬢さん、遊びましょ。手鞠遊びはいかがかな? それとも蹴鞠? 花いちもんめ?」

 子ども扱いされたのが気に食わないのか、風が鋭さを増す。魔法使いは次の言葉を唱えた。

「あなたは寂しいでしょう、私も寂しいでしょう。きっとずっと一人でしょう。大丈夫、みんなひとりぼっちだから」

 慰めるような言葉だ。優しい声音で放たれる言葉の鋭さに、マリの心がつきんと痛む。どんな気持ちで杉の魔法使いはこれを唱えているのだろう。

 魔法という病気は人から理解されない。新しい病気だから、一般に広まっていないのもあるが、魔法を病気というのが何か間違っているのだ。

 それでも、魔法にかかった者たちが使う不思議な能力のことを「魔法」以外の言葉に形容できない。だから魔法と呼ぶしかない。

 ナギでさえそうだったのに、それより長く魔法使いとして生きている杉の魔法使いはどんなに孤独だっただろうか。自在に風を起こせる子どもは人々にどう思われたのだろうか。どうして彼は屋久杉で、一人で生活しているのだろうか。

『ヤメテ、ヤメテ』

 マリの耳に知らない女の子の声がする。泣きそうな声がマリの頭に響く。

『ヤメテ、ヤメテ。カナシイ、イヤ。サミシイ、イヤ。ソンナウタ、ウタワナイデ』

 ああ、とマリは察する。ロストも悲しくて、寂しくて、ひとりぼっちが嫌で、でもどうすればいいのかわからなくて、人を傷つける手段しか選べなかったのだ。自分の心が傷ついているとき、人は目の前にたった一つしか選択肢がないように見える。最低最悪の選択肢でも、それしかないのなら、最低最悪の道を歩むしかないのだ。

 実際は無数に選択肢があるのに、他の選択肢が見えないから。見えない道は歩けない。

 けれど、共感を得られたからか、風が少し凪ぐ。それでも杉の魔法使いは舞っていた。何か警戒するように、祈るように。

 瞬間。

『ウアアアアアアアアッ』

 マリの耳に少女の悲鳴が谺すると共に、風が今までより鋭く、固く、細々と空間を切り裂くように吹き荒れる。無色透明の結界が丸いのだ、とわかるくらいに、鎌鼬は勢いづいて、周囲を傷つけていく。

 それでも風を扱う魔法は舞っていた。傷つきながら、血を撒き散らしながら。

 マリは魔法使いの名前を呼ぼうとして、名前を知らないのを思い出した。

 どうして、今まで気づかなかったのだろう。魔法使いが名前を教えてくれていないことに。

 その人の名前を知っていると、その人が死んだときにより悲しくなってしまうから。それでもその悲しみごと生きていくために、杉の魔法使いはマリとナギの名前は知っているのだ。

 ナギと違って、魔法花という植物の侵食を受けないのだという。だから魔法使いは普通の魔法使いと違って長生きになるのだ。

 長生きだと、たくさんお別れがある。日本大震災を生き延びたなら、夥しい数のお別れがあったはずだ。その一つ一つのお別れした相手の名前を覚えるのは、なんと悲しく、寂しいことだろう。

 魔法使いは風に歌う。

「ごめんね。でも、まだ君のところには行けないし、誰も行かせたくないんだ」

『イヤダ、イヤダ、イヤダアアァァァッ!!』

 風が弱まっていく。ロストの鎌鼬に杉魔法の風が絡んで寄り添っているのがわかった。

 風がしゅるしゅると音を立て、魔法の力が魔法使いの方にまとまっていくのがわかる。魔法の力を吸い込んだ魔法使いは、短く唱えた。

「ボタニカルブルーム」

 すると、鎌鼬とは違う風がごうっと渦巻いて、質素な格好をしていたはずの魔法使いの格好が変わる。

 風にふわりと靡くローブ、淡い緑のシャツにタイ。ショートパンツにレースのレギンス。髪留めと一体になった帽子。それは魔法使いのような、昔にアニメでやっていたという魔法少女もののような装いだった。

 手袋のついた手を翳し、魔法使いはたった一言。

「鎮まれ」

 そう命じる。

 その言葉にロストの力が散り散りになっていくのをマリはどこか現実味のない感覚で眺めていた。

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