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魔法少年ボタニカル★フレンズ  作者: 九JACK
アマリリスの魔女編
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空を飛ぶ、風が吹く

「今日のお天気ニュースです」

 ラジオが鳴っていた。

 屋久杉という電気も通っていないような場所で、何故ラジオが聴けるかというと、杉の魔法使いが風で発電させて、電力を回しているからだ。

 いつからか、テレビもラジオも天気のことしかやらなくなった。それも仕方のないことだろう。異常気象についていち早く国民に認知させるのが最優先。昔のようにアニメやドラマなどをやっている場合ではないのだ。異常気象は待ってくれないし、時間は止まってくれない。

 台風の情報を得るために、杉の魔法使いが古いものを直したのだそうだ。日本大震災でどうなることかと思われたが、ありとあらゆる震災で情報源として活躍したのがラジオである。エネルギーさえ発生させられれば、いつでも聞くことができる。

 とは言っても、もう台風かそうでないかの区別が難しいくらいには天候は荒れているのが常だ。

「そろそろ台風の季節がやってきます。皆さま、外出などは最低限にするよう、心がけてください」

 今のところ、こういった注意喚起のみである。台風は災害の一つ。天災に太刀打つ方法は今のところ確立されていない。一般常識の範囲では。

 杉の魔法使いがマリとナギに告げる。

「ロストの発生を未然に防ぐことはできない。だから、僕たちは災害が発生してからしか動くことができない。だけど、日本は災害大国だったから、対策は万全だ。みんなが家の中にいるうちにロストを鎮め、被害を最小限にするのが僕たちの役割だよ」

 杉の魔法使いの説明に、マリもナギも頷く。

 天気がどう変わるかなど、お天道様にしかわからない、と昔からよく言われている。天災を未然に防げたとして、防げたかどうかは誰にもわからない。天災を防ぐということは天災が起こらないということだ。起こらなかった現象の観測は不可能である。

 魔法使いである三人は上手く立ち回らなければならなかった。人に見つかったら、どうなるかわからないのだ。

 震災によって、天災へ抱く人々の恐怖は計り知れないものとなっている。注意喚起がされているのに野外で活動している姿を見られたら、どう思われるだろうか。

 自分たちは魔法使いで天候をいくらか和らげることができる、と話したところで、人々は簡単には信じない。それはマリもナギも実感してきたことだった。おそらくこの杉の魔法使いも同じだろう。

「台風が発生するのはここから南東に行ったところ。僕ができるのは風を操ることだから、台風の進行をいくらか遅くすることができる。

 ナギくんの柳魔法は被害の緩和だから、雨を和らげたり、風を和らげたりできる。でもナギくんの力は有限だから温存しておきたい。

 そこでマリちゃんだ」

 マリの魔法はロストとの対話だ。ロストを上手く説得できれば、被害を普通の台風のままにできる。台風のままならば、日本の常日頃の対策でどうにかなるだろう。

「台風が発生したら、マリちゃんを連れて飛ぶ。というわけで、今日は三人で空を飛ぶ訓練だ」

 杉の魔法使いがウインクをするのに対し、マリは目を輝かせていた。空を飛ぶなんて、絵本の魔法使いみたいだ。

「絵本の魔法使いみたいに箒は使わないけどね。今はホウキグサからあの形の箒作るのも大変だし」

「え、魔法使いの箒も植物からできているんですか?」

「うん。竹箒は竹からだし、ホウキグサ、またはコキアっていう植物からあの形に作るんだよ。コキアは秋になると紅葉するんだ」

 綺麗なんだよ、と話しながら、杉の魔法使いはラジオを切り、マリとナギに手を差し出す。二人は迷いなく手を取った。

 同じ魔法という病気を持つから、杉の魔法使いのことは信頼できたのだ。

 屋久杉から出ていくと、杉の魔法使いは階段を駆け上がるように、空へと飛んでいった。鳥のように翼があるわけでもないのに、人が空を飛んでいるのはとても奇妙でいて、心の弾む光景だ。

 手を引かれたマリとナギも、風にさらさらと引かれて、空へと浮かび上がる。

「あんまり離れないようにね」

 杉の魔法使いは二人にそう注意して、南に向かって飛んでいく。二人も風に巻かれながら後を追った。

 空の上は静かだった。杉の魔法使いが魔法をかけているのだろうか。風の揺らぎが少なく、屋久杉の側とは別の意味で心地よい。

「どうかな、空を飛んでみた気分は」

「わは、はなわさかたわな!」

 魔法使いになったみたい、と喜ぶマリに青年は笑う。僕たちは魔法使いだよ、と。

 言われてからそうだった、と気づいてマリは赤面する。それを誤魔化すのに、ナギの方を見た。

 ナギの顔を見て、マリは心臓が凍ったような気がした。

「ぼくは、なんだか自由になれたみたいで嬉しいです」

 ナギの顔面をめりめりと皮膚の下で木が根を張っていくのが見えたからだ。魔法がどういうメカニズムで成り立っているのかわからないけれど、ナギに取りついた柳の木がナギの体に根を張り巡らせ、ナギの存在そのものを乗っ取るような気配にマリは怖くなった。

 ナギは気づいていないのだろうか。マリの蒼白な顔を見て、ナギはきょとんとする。

「マリ、どうしたの? 顔色悪いよ」

「な、なんでもない! ……あれ?」

 自分の発する言葉が普通のものに聞こえた。それにはナギも気づいたようだ。

「マリの言葉がわかるようになってる」

「マリちゃんの言葉を理解できるくらい、成長したんだね」

 杉の魔法使いがよしよし、とナギの頭を撫でるのを眺めながら、マリは空寒いものを覚えていた。

 成長したって、何が? それは気づいてはいけないことのような気がした。ナギという人間が成長したの? それとも……

 考えていると、マリは急に顔を伏せさせられた。頭上をひゅんと鋭い風が通り抜けていったのがわかる。

「気をつけて。ロストが出た」

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