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魔法少年ボタニカル★フレンズ  作者: 九JACK
アマリリスの魔女編
53/72

旅と再会

 二人は南へ向かった。

 これからやってくる異常気象。その元となる雲は大抵が南西からやってくる。

 通常の梅雨や台風に重ね合わせることで、ロストは何倍もの力を発揮し、人に害を成す災害となる。

 ただでさえ日本は震災があったばかりで、人々は災害を恐れている。震災で多くの命が失われ、まだ心が再起していない人々に更なる厄災の対処は難しい。

 それを守るために魔法はあるのだと、マリは信じていた。

 けれどマリとナギを待っていたのは偏見の目だった。

「うわ、目になんか生えてる」

「体に赤いタトゥー? 不良じゃん」

「たさのわなさ!」

「何言ってんの? 気持ち悪」

「葉っぱ生えてる。抜けるかな」

「やめて!」

 マリとナギの姿は奇天烈で、子どもの好奇心と嗜虐心を煽り、ナギは生えていた枝葉を抜こうとされて痛い思いをしたり、マリは肌を焼かれそうになった。

 人間が自分と異なる特徴を持つ者を嫌うのは防衛本能だ。悪影響を受けて、死んでしまわないため。だから病気の人間は昔は隔離されたりした。異人を嫌うのもその延長だ。悪いものに変化してしまわないようにという偏見と恐怖から来る。偏見が一般論になってしまい、異物とされる人々が苦しむことになるのだ。

 魔法という病気があまり有名でないのが災いしたと言えるだろう。一般に受け入れられるのも難しい話だ。地球のためにやがて全身が植物になる病気だなんて。

 雨がぽつぽつと降ってきた。二人には宿もない。震災で残った廃墟の中に入った。

『これからどうしようか』

「ぼくの能力で雨は和らげられるけど、ロストの気配はする?」

 マリは首を横に振った。気配というか、ロストが引き起こした災害なら、マリの耳にロストの声が入るはずだからだ。

「梅雨の時期はもう終わるから、そろそろ台風が来るね。ロストの力がかかるとしたら、そこかな」

『だいぶ南に来たし、屋久杉様にお会いできないかしら』

 屋久杉様、とマリが呼ぶのは杉の魔法使いだ。二人より年嵩のある少年の姿をしている。マリが魔法にかかることも予知していたため、魔法について、頼れるのなら、今のところその人物しかいない。

「そうだね……街に出るよりはずっといいかも」

 行こう、と二人は手を繋いだ。


 屋久杉に辿り着くまで、以前ほど苦労はしなかった。屋久杉に近づくほど、息がしやすくなって、ここが神聖な場所であることと、自分が植物に近い存在になったことが実感できた。

 マリの中で、魔法を発症したことは案外すんなりと受け入れられている。いつかナギのように体に植物が生えるかもしれないというのもちっとも怖くない。以前、ナギが言っていた大いなる意思か何かの影響だろうか。マリは魔法にかかって、魔法を使えるようになったことが嬉しくすらあった。

 人々から心ない言葉をかけられ、偏見の目を向けられることがあるのは悲しいけれど、ナギ一人に背負わせなくて済むことがとても嬉しかったのだ。

 いつか、木か花になって、ナギの側に佇んでいられるなんて、なんて素敵なことだろう、とマリは胸をときめかせていた。言葉が通じなくても、そこにぬくもりはあるし、傍にいられるだけで嬉しいのだ。

「杉の魔法使い様、いらっしゃいますか?」

「おや」

 大きな杉の奥からさわりと風が吹いてきた、と思うと、二人の前には以前会ったままの姿の杉の魔法使いが現れた。

 杉の魔法使いはマリを見て、目を丸くした後、マリの頭を撫でた。

「お久しぶり。ロストのゲリラ豪雨は大変だったんじゃない? 僕もできるだけのことはしたけど、僕がいくら風で雲が行かないようにしたって、雲がある限り雨は降るし、雲を散らすには雲が分厚いんだよなあ。ごめんね、役に立たなくて」

「わはな、またこらやはさわな!」

 そんな、とんでもない、とマリは思わず声を上げる。ナギが少し頭を痛そうに押さえた。マリも慌てて口を塞ぐ。

 どうやらマリの声は魔法使いの体調に影響を及ぼすようなのだ。だから、安易に喋ってはいけない。普通の人にも不愉快な音に聞こえていることも知っている。

 が、杉の魔法使いは顔色一つ変えない。

「いいよいいよ、気にしないで。元々僕たち魔法発症者が解決すべき問題っていうのは一人の力じゃどうしようもないからね」

「え、魔法使い様、マリの言葉がわかるんですか?」

「んえ? ああ、それはね」

 まあ座りなよ、と二人に促しつつ、杉の魔法使いは説明する。

「たぶんナギくんが苦しいのは、成長期だからだと思うよ。心の成長と共に魔法がより深く体に根を張ろうとして、体の側がそれに抵抗している真っ最中なんだ。魔法が体に定着して安定すれば、ナギくんもマリちゃんが何を言っているのか、わかるようになるよ」

「本当ですか? よかった……」

 胸を撫で下ろすナギを見て、マリはふと胸が痛んだ。

 これまで、自分も魔法を発症して、ナギの力になれることを喜んでばかりいたけれど、ナギはそうじゃなかったんだ、とわかったのだ。急にマリと言葉が通じなくなって、戸惑い、不安を感じていた。そんなナギの心情に、今気づくなんて、とマリは自分の鈍さを戒めた。

 ただ、ナギがマリと言葉が通じないことを不安に思ってくれていたことが、ほんのちょっぴり嬉しかった。ちょっと複雑だけど、なんだか味わい深いもののような気がする。

 それからナギが杉の魔法使いにマリが魔法を発症した経緯や、街での自分たちの扱いなどを話して聞かせた。もちろん本題である台風を鎮めることも。

「よかったよ、無事に開花したようで。でも、代わりに失ったものが大きかったね、大変だったでしょう、つらかったでしょう。僕のことを思い出してくれてありがとうね」

 杉の魔法使いは二人を抱き寄せて、頭を撫でた。木の香りがして安心する。

「魔法使いが、普通の人間の世の中で病気だって言って過ごしていくのは難しいからね、しばらく僕のところにおいで。忙しくなるだろうけど、僕のことを手伝ってくれると嬉しい」

「もちろんです」

 マリもぶんぶんと頭を縦に振った。

「君たちの言う通り、台風のやってくる季節だし、夏は夕立が多い。そこにロストが乗っかることも多い。だからやることはたくさんあるんだ。誰かに褒めてもらえることはないけれど、できることをしよう」

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