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魔法少年ボタニカル★フレンズ  作者: 九JACK
アマリリスの魔女編
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魔法使いの果て

 生徒たちは浮き足立っていた。それもそうだろう。幻と言われる魔法発症者に会えるのだから。ロストと話すことができる、なんてどんな人物なのか、想像がつかない。

 しかも、案内があの緋月柳兎である。女子はきゃいきゃいと特にはしゃいでいた。それを平坦な目で見る男子が数人。

 杉原はというと、緋月に関しては特に何も思っていなかった。家と外で人格が違うというのは病気ではないし、緋月が敢えてそうしているのだから、第三者がああだこうだ言うことではないだろう。ただ、家での緋月を見たとき、女子がどんな反応するかは気になる。

 緋月先輩、背は高いし、眼鏡似合ってるし、身なりも動きもぴしっとしていてかっこいいもんなあ、と杉原は思う。

 杉原は背丈が低いのがコンプレックスだ。病気で背が伸びづらいというのは仕方がないのだが、それでも背が高い人には憧れる。モテたいわけではない。背が高いと便利そうだよな、と思うのである。

 あと、女子が自分より背が高いことがあると、心の中で何かが傷つく。紫と並んで立ったとき、目線の高さが違って、すごくこう、悔しかった。

 美桜にもいつか追い越されるのだろうか、と思うと溜め息が出てしまう。美桜も病気の都合で背は伸びづらいらしいが……現時点で目線がほぼ同じなので危ない。

 まあ、周囲の人々の背が高いことには慣れつつあったのだが、集団で動くとき、自分だけ異物のように小さいと戸惑ってしまう。

「それ、魔法使えばよくね? 浮けるんだろ?」

 菅は簡単に言うが、魔法を使って浮いたとしても、それは背が伸びたことにはならない。確かに移動には便利だが。

「そーゆーの、考えすぎってんだぞ、杉原。便利なものはどんどん使っていかねえと」

「それであんたの字が上手くなるわけじゃないでしょ、アホンダラ」

 紫が菅を小突く。この二人は杉原を挟んでやりとりするようになってから仲良くなっているかもしれない。

「でも、まさか会場が植物園なんてね。アマリリスの魔女ってどんな人なんだろ」

「長生きの魔法使いなんだろ? 魔女魔女しいばあさんが出てきたらどうする?」

「魔女魔女しいって何よ……」

 杉原もアマリリスの魔女がどんな容姿の人物かは聞いていない。大還暦を二回迎えているとかいないとか。

 魔女と言われても、おとぎ話に出てくるような存在ではない。魔法は病気だ。花が体を蝕んでいく代わりに、不思議な力を使えるようになる。

 まあ、普通は魔法花に潰されて死ぬところを目撃しないと、あまり実感が湧くものではないよな、と思っていると、マイクのきぃん、という音が鳴り、「ただいま、マイクテストを行っております」という緋月の声がした。

「これから、特別課外授業を始めます。一年生の皆さん、こんにちは。生徒会副会長の緋月柳兎です。今回、この植物園に足を運んでいただいたのは、ここにアマリリスの魔女が住んでいるからです」

 住んでいる? と全員が疑問符を浮かべていると、緋月が植物園の土を踏み、赤く群れて咲く花の木に向かった。

 否、それは木ではなかった。赤い花たちをドレスのように纏う、アマリリスの魔法花に侵食を受けた女性だった。顔は四十代くらいだろうか。見た目は老いを感じさせないのに、その背後に壮大な年月を感じる。樹齢千年の樹木を目にしたような。

 一同がどよめく。ほとんどの者が初めて目にしたはずだ。全身をほとんど魔法花に覆われた人間、なんて。

 彼女はもう人間と呼んでいいのかわからない。それくらい神秘的で神聖な雰囲気を纏っていた。そんな雰囲気を纏いながら、口元に笑いじわを作ってこちらへ笑む姿には親しみを覚える。

 魔法という病気の極地を見せられている。

「紹介します。彼女こそがアマリリスの魔女、マリさんです。マリさんはロストが現れたときのみ、ここから動くことができます。普段は魔法花(アマリリス)がこの植物園の土に根を張っているので動けません。ですので、皆さんにここまで来てもらいました」

 誰かが質問する。

「ものすごい数の魔法花が咲いていますが、どうして生きているんですか?」

 その疑問は当然のものだ。実感はなくとも、授業で習い、医者に散々説明されて知っている。魔法花が体表に咲くと、魔法花は人間の体を土とし、その中に根を張り、栄養を奪い、やがてその体を押し潰す。それが魔法という病気による死だ。桜の魔法少女は桜の木になる。ある病院が管理する、桜の魔法少女たちの墓地は桜墓地と呼ばれ、どんな季節でも狂い咲く桜が見られるという。

 マリの体を覆う魔法花は百や二百では足りないだろう。どうして、マリは潰されないのだろうか。

 緋月は生真面目な顔で応じる。

「いい質問ですね。では、マリさんにお答えいただきましょう」

 緋月がマリを仰ぎ見ると、マリは頷いて、朗々と喋り出した。

「ろわからやてたかま、やざわさわな、やよのわさ。まわからゃはわなはやななま、やかわなはならはわら、やはや、さなはやな、されー、なはやわはわはたか、こたなとなとそやたさかほわかわさわたかざあわかさやかさなは、や、さら、なは、はなはよやよまこまかよ」

 マイクを持っていないのに、反響音を伴う声は、マイクの音よりもきぃん、と響いた。何人かが耳鳴りに頭や耳を押さえる。

「と、このように、マリさんは代償として、人間としての言語機能を失っているのです。体調不良のときは言ってくださいね。マリさんの力は大きすぎて、ロスト候補とも言える魔法発症者にも僅かながら効きます。けれど、魔法という病気を治す作用はありません」

 菅が振り向く。

「聞こえたか? 今の意味わかんないやつ。って弓田、大丈夫かよ」

「大丈夫、頭痛い……」

「先生呼ぶ?」

「大丈夫」

「つかお前は平気なのかよ、杉原」

 菅の言葉に杉原は苦笑いする。

 杉原が何も言わないのは、あの意味不明な言葉の羅列が、はっきり言葉に聞こえたからだ。

 曰く。

(マリさん)魔法花(アマリリス)はこの植物園の土にも根を張っています。そのことで、魔法花の栄養源が分散され、(マリさん)は魔法花で死なないのです。また、(マリさん)は長年魔法花(アマリリス)と共にあるため、魔法花(アマリリス)とは半ば共生関係にあります。故に、(マリさん)も死ぬと魔法花(アマリリス)も枯れるので、魔法花(アマリリス)(マリさん)を生かすのです」

 とのこと。緋月がそのまま翻訳した。

 あの大量のアマリリスは通常の魔法花と違い、土と肉体の二ヶ所から栄養を得て咲いている。土から得ている栄養の分、マリからは奪われない。それがマリを生かしている、ということだ。

 緋月が大胆に生徒を篩にかけた。

 平気そうにしている菅のような生徒は、マリの言葉を理解できない植物性の低い魔法発症者。

 紫のように頭痛や耳鳴りを感じる者は植物性の高い魔法発症者ということになる。

 杉原は植物性が高いが、頭痛など、体調不良を感じないのはおそらく、杉の魔法使いが特別だからだろう。

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