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魔法少年ボタニカル★フレンズ  作者: 九JACK
アマリリスの魔女編
34/72

元気をくれる子

 舞桜と別れて、教室に向かうと、杉原が入った途端にクラス中がざわざわと言い出した。

 なんだろう、と思いつつ、席に着くと、前の席の男子がばっと振り向き、話しかけてきた。

「杉原、昨日姫川さんとのデートどうだったんだよ?」

「デート?」

 きょとんとする杉原をおいおい、と小突きながら男子は続ける。

「放課後に二人で会う約束してたろ。あれがデートじゃなくて何がデートなんだよ」

 あーね、と杉原は思った。俗っぽい話である。姫川は美人で真面目で背も高い。魔法を発症しているといっても、この学校の生徒は皆、高校生なのである。青春の酸いも甘いも好き好きするお年頃だ。

 杉原はロスト討伐に必死なので、そちらの方面に疎いというか、鈍い感じになってしまっているが。

 それに、昨日は結局終始姫川と二人だったわけじゃないのだ。

「デートでもなんでもないって。ロスト討伐に関わる相談事されてただけ。っていうか放課後、ロスト出て、二年の先輩たちと合流してああだこうだやってたから結局ごたごたした感じだし……」

「そういやお前、二年のどえらい別嬪さんと知り合いだったよな。そっちはどうなのよ?」

「舞桜さんは男だよ」

 ここでするりと舞桜の名前が出てくるくらいには、杉原は舞桜のことを美人だと思っているし、美的感覚は正常である。

 男子が絶句した。ジェンダーショックというか。まあ、舞桜はそういう意味では男泣かせであろう。見た目はちょっと目付きが悪いだけのお姉さんなのだ。何人の男の子がこれまで敗北を喫してきたか……その中には初恋も含まれていたはずだ。その方面では初恋キラー夜長舞桜と呼ばれていたり……するかもしれない。

 そういう夢破れた男子をこれまで見すぎていたため、杉原は舞桜のことで落ち込む男子の肩を優しく叩いた。舞桜と離れ離れになる前から舞桜の容姿の良さは常軌を逸していたのだ。ちょっと懐かしい気分にすらなる。

「そんな憐れむような目で見るなよ……」

「大丈夫大丈夫、よくあることよくあること」

「こんな性別錯誤がよくあってたまるか!?」

 それはそうである。

「お前はいいよなあ!! 何もしなくてもあんな美人が傍にいるんだぜ!?」

「いや、こないだ再会するまでしばらく会ってなかったからね?」

「それに姫川だろ、紅葉寺会長だろ、あと中等部の桜の子……よりどりみどりじゃねえかよ」

 そこで杉原が一瞬目を据わらせたのを隣の席の女子は見逃さなかった。会話に割って入る。

「昨日ロスト討伐って、緋月先輩も一緒だったんでしょ!? どうだった? 生の緋月先輩」

「生じゃない緋月先輩って何なの?」

 緋月柳兎。昨日以外にも世話になってはいるが、昨日会った感想を言うとするなら……

「思ったほどお堅い人じゃなかったって感じかな」

 まあでも、よくよく考えてみれば、緋月がお堅い人間じゃないのはわかっていたことなのだ。お堅い人間が廃課金ゲーマーの儚と渡り合えるはずもないのである。お堅い人じゃなかったというより、皆の想像の数段上で奔放な人と称するのが正解だろう。

「あ、そうそう、緋月先輩、焼き八つ橋が好物らしくてね、取り寄せてるっていうの昨日食べさせてもらったけど美味しかったな」

「待って待って待って」

 杉原としては自然な情報提供のつもりだったのだが、女子がこんな発言のおかしさに気づかないわけもない。

「杉原くん、緋月先輩とはどういう付き合いなの? 夜長先輩と違って入学してから会ったんだよね?」

「うん。なんか昨日の討伐の後にお礼って」

 昨日のことはいくらかぼやかして話した方がいいだろう、と杉原は家に招かれたことは話さなかった。

「焼き八つ橋が好物って、マニアックだな」

「僕は堅煎餅が好き!」

「お前の好物は聞いてねえよ」

 あはは、と杉原は笑う。いい感じに話を流せただろうか。うっかり喋ってしまいそうで怖い。

 紅葉寺の手先が玲奈だけとは限らないのだ。疑心暗鬼になるのも嫌だが、クラスの中に紅葉寺側の人間がいてもおかしくない。

「そういえばさ、向日葵の魔法少女って子知ってる?」

「お前今度は陽葵ちゃんを狙うのか!?」

 思ったより激しい反応が返ってきてびっくりする。陽葵は確かにかわいい系の女の子だったから、男子に人気はあるのだろう。

「いや、狙うとかそういうんじゃなくて……舞桜さんと随分親しいみたいだから、どんな子なのかなぁ、と」

 ちょっと声のトーンが下がった杉原に、女子も男子もおっという顔をする。

 このクラスにとって、杉原は有名な珍獣のような存在だ。入学式での挨拶をほっぽって、ロスト討伐に行くような魔法少年で、気がつくとロスト討伐に出ていていない。杉原健という生徒が在籍しているのは確かだが、姿をあまり見ない。そんなところが好奇心をより引き立てているのである。

 男子はわしゃわしゃと杉原の頭を撫でた。

「そうかそうか、幼馴染みのお姉ちゃん取られて寂しいんだな」

「ち、違うって!」

 舞桜さんは男だし! と思ったが、論点がずれそうだ。

 女子にも憐れみの目を向けられ、杉原はなんだか恥ずかしくなってくる。

「わかるわぁー。夜長先輩、恋愛対象にはならないけど、頼れるお姉さん感あるものねえ。ロスト討伐実績もかなりあるらしいし」

「陽葵ちゃんタイプが好きだとは思わなかったなあ。妹さんは守ってあげたくなるタイプの綺麗系だし」

「舞桜さんがシスコンみたいな前提で話すのやめて」

 舞桜は確かに妹思いではあるが、妹の美桜を恋愛対象として見ているわけではない。あくまで庇護対象だ。

 男子の意見に女子は首を傾げる。

「うーん、でもかわいい系が好きなのはわかるなあ。だって杉原くんはかわいい系でしょ?」

「確かに」

「ちょっと僕を勝手に女子の括りで分類しないで!?」

「お姉ちゃんが知らない女の子と仲良くしてて妬いちゃうなんてかわいい女の子よね」

「妬いてるわけじゃ」

 ただ、舞桜にとって危険な存在にならないか確認したいだけで……

「べ、別に僕は舞桜さんが恋愛で誰を好きになっても受け入れるよ! 変な人じゃなければ!」

「やーっぱりかわいい妹ちゃんじゃない」

「要するに、夜長先輩が変な女に引っかかっているわけじゃないか確かめたいわけだ。健気な妹ちゃんでちゅねー」

「妹いじりやめて」

 めんこめんこ、と頭を撫でてくる二人。距離が近いことより、杉原より体格がいいことが気になる。杉原はちっちゃいので、妹扱いが本格的にそう見えてしまう。

「それで、陽葵さんってどんな子なの?」

 無理矢理話題を進める。すると意外にも普通に教えてくれた。

「陽葵ちゃんは普通にかわいい女の子だよ。魔法使いっていう実感は一緒にいてもあんま湧かないかね」

「そうね。向日葵の魔法はなんかこう、ゲームのバフ? みたいな感じらしくて……陽葵ちゃんは不思議ちゃんだから取っ付きにくかったけど、一緒にいると元気が出るってイメージ」

 向日葵の魔法。改まって調べたことがなかったのだが、そんな感じらしい。

「というか二人はいつから魔法科学校に?」

「オレは初等部一年からずっとエスカレーターだぜ」

「アタシは中等部の途中からかなぁ。後天性で発症したから」

 雑談も交えつつ、杉原は朝のホームルームを迎えた。

 姫川に指摘された通り、クラスメイトとの交流も疎かにすべきではない。なんだかんだ、人と話すのは楽しいのだから。

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