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魔法少年ボタニカル★フレンズ  作者: 九JACK
アマリリスの魔女編
33/72

向日葵の魔法少女

 朝。校門をくぐると、なんだかげっそりとした様子で舞桜が歩いているのを見かけた。

「舞桜さん?」

「おはよ、健」

 杉原が声をかけると、舞桜はいつものように挨拶を返してくれたが、目の下に隈ができていた。

「顔色悪いですよ。夜更かしですか?」

「うーん、ちょっと、まあ……」

 歯切れが悪いな、と思っていると、舞桜の背中にどーん、と何かがぶつかってきた。何かというか、人だ。

 振り向くと高等部の制服を着た少女だった。美桜を綺麗系と表現するなら、この子はかわいい系だろう。目がくりっとしていて、大きく、天真爛漫さが漂う。オレンジに近い金髪は陽光を返して煌めく。飾り編みされた部分がティアラのようだ。

 魔法科高等学校に通う魔法使いはみんな個性的な魔法を使えるが故に、大体個性的なメンツが揃っている。ここが普通の学校だったら、この少女も周囲から浮いて見えただろう。が、悲しきかな、杉原はそういうテンションの人物には慣れていた。何ならついさっき家でいってらっしゃいのぎゅーとやらをされそうになったくらいである。

 舞桜に飛びつく女子がいることも、何にも不思議に思うところはない。制服がズボンなだけで、舞桜の見た目は流麗なお姉さんである。

「夜長センパイは昨夜アタシとランデブーだったんですよ、ねーっ」

「ぶっ」

 ランデブー。宇宙船、人工衛星がドッキングするために出会うこと。男女が待ち合わせをすること。男女の待ち合わせを意味する場合は恋愛的な意味を含む場合が多い。

 などと、辞書にでも載っていそうなことを脳内で唱えることで、杉原は現実逃避を測っていた。

 その間に舞桜が振り向いて少女の頭をぽかんと叩く。

「おっまえなー! ピュアな健がフリーズしちまっただろうが!!」

「うふふ、やっぱり桜の魔法少女さんのお眼鏡に敵うだけあって、純朴でらっしゃるのですね」

「いいんですよ舞桜さん……舞桜さんにだって恋人を作る権利くらいありますし……おすし……」

「健! 戻ってこい!! 違うから! 話すから!!」

 花の高校生である。惚れた腫れたの一つや二つはあってもおかしくないのだ、と現実逃避を続ける杉原に舞桜が告げる。

「こいつは日下(くさか)陽葵(ひまり)。向日葵の魔法少女だ。昨日お前が緋月に提案したことで協力してもらってんだよ」

「僕が提案した?」

 はっと正気に戻る杉原。

 何を提案したか、と思って、首を傾げると、舞桜は声をひそめて告げた。

「橘の魔法使いの件だよ。禊と滅茶苦茶喧嘩になってさ……」

「えっどうして」

 あの警戒心の強い禊が連絡先を教える程度には仲がいいのであろうに喧嘩とは……

「魔法花の侵食のお話で大変盛り上がってましたよね」

「あれを盛り上がったっていうなよ……」

「もしかして、舞桜さんが禊さんのこと怒っちゃったんですか?」

 杉原の予想は当たりだったらしく、舞桜は罰が悪そうに顔を背けた。

「……俺にくらい、ちゃんと体の調子とか教えてくれたっていいじゃんかよ……」

 ふてくされたような光がすみれ色に宿っていた。そこには友人を心配する心と、ちょっと疎外感を抱いた寂しさが渦巻いている。

 そんなしんみりした空気をぶち壊すからかい声。

「つまり夜長センパイは橘さんにお熱なのですね」

「えっそういうことなの!?」

「健! 光速で騙されるな!!」

 禊の年齢は詳しく聞かなかったが、舞桜の様子を見るにタメだろう。まあ、年齢が近い者同士の恋愛だ。普通だろう。

「舞桜さんのタイプってあんな感じなんだ」

「あの方は清楚系に分類されそうですよね……夜長センパイと二人並んだらきっと雅ですね。溜め息が出ちゃうくらい美男美女カップルですね」

「本当だ……」

「だから! そういうんじゃないから!!」

 話進めんぞ、と半ばやけくそな舞桜の頬が赤いのは果たして何のせいなんだろうか。

「俺も学校あるし、紅葉寺に目ぇつけられてるから、直接会うのは危険だからな。口頭で言い合いしたんだ。で、俺が会えない代わりの繋ぎ役がこいつな」

 ぽんぽん、と舞桜は陽葵の頭を軽く叩く。陽葵は何故かダブルピースをした。

「えっと……日下さんは……」

「陽葵でいいよ! 杉原クン」

「……陽葵さんは、舞桜さんとどういう繋がりなんですか?」

 陽葵のパーソナルスペースが狭そうなのはわかった。舞桜とどういう繋がりなのか。陽葵が「センパイ」と呼んでいることから察するに、先輩後輩関係なのはわかるが、一体何の?

 そういえば、舞桜と美桜がいなくなってから再会するまでの間の空白の期間のことを杉原は知らない。舞桜がこの距離感を許しているからには、陽葵とは一日や二日の仲ではないだろう。それに、あの禊の元に遣わすのだから、相当信頼している相手じゃないといけない。

「んー、陽葵について、今ここで話すとそこそこ長くなるんだが、そうだな。陽葵は元々魔法科学校の生徒なんだ。初等部に転校してきたときからの知り合いだな」

「知り合い……」

「ちょっとセンパイ~、そこは友達って紹介してくださいよねー」

 友達……舞桜は緋月とも親しげに話していたし、この魔法科学校で、長い時間をかけて人脈を作っていたのかもしれない。

 妹の美桜を守るために。

(でも、舞桜さん、複雑じゃないのかな)

 舞桜は生まれる前から桜の魔法少女として期待された存在だった。生まれる前から魔法使いとして生まれる兆しがあったから。だから「舞桜」なんて華やかな名前をしている。

 男として生まれたけれど、美桜が覚醒するまでは桜の魔法使いとして優遇されてきた。それが重荷だったり、嬉しかったりして、暗い顔をする舞桜を杉原は過去に何度も見てきた。

 美桜が覚醒したとき、あの絶望の滲んだ虚無の表情を浮かべた舞桜を杉原は未だに忘れられない。

 舞桜があのとき抱いた感情が何だったのか、聞けずにいる。怖くて。

 舞桜にとって、美桜は愛すべき妹であると同時、自分から栄誉を奪った憎たらしい存在かもしれないのだ。そんな可能性、考えたくはないけれど。

「ま、夜長センパイとアタシの深ーい絆については放課後にでも話すとして……」

「そんなに深くないだろ」

「センパイひどいですね!」

 もう、扱いが雑ですよね、とむくれる陽葵をからからと笑って誤魔化す舞桜。

 まあ、舞桜が笑っているのならいいか、と杉原も微笑ましく二人を見つめた。

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