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由香子が喫茶店で口にした言葉はもちろん極端な意見だとしても、大人になるということは、確かに、少し、寂しいことなのかもしれないな、と感じる。少なくとも、それほど愉快なことではないな、と、思う。
社会にでて、現実を知ることで、そこにもここにも壁があるということを知ってしまう。かつてわたしたちは自分の努力次第でどこへだって行けると信じていた。でも、それが自分たちの無邪気な妄想に過ぎなかったことに、歳とともに嫌でも気がつかされる。多くの場合努力は報われないし、わたしたちはそれほど遠くへはいけない。
かつてまだ幼かった頃、大人になった自分にはもっと華やかな将来が持ちうけているはずだと信じていた。具体的にこうなりたいというような目標はなかったけれど、でも、それはアイドル歌手がスポットライトを浴びて輝いているような、キラキラと眩しい何かだった。
でも、大人になったわたしの身の回りにある現実は、目を覆いたくなるような悲惨なものでこそないものの、かつて信じていた鮮やかな未来にくらべれば、ずいぶん色あせた、地味なものでしかない。
そして、今のこの現実を維持することすら、結構大変だったりする。色んなことを我慢して、目を瞑って、犠牲して、それでやっとどうにかこうにか、自分だけの小さな世界を維持できているという感じだ。ちょっと気を抜けば、わたしが維持しているこの小さな世界なんて、あっという間に吹き飛んでしまいそうな気がする。
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このところ精神的に不安定になっているのか、よく同じ夢を見る。それはわたしが高校のときに好きだった男のひとがでてくる夢だ。
わたしには高校のときに好きなひとがいた。そのひとは高校のときにいつも一緒に遊んでいたグループの、ひとつ年上の先輩だった。わたしはその先輩のことが好きだった。とても。
でも、臆病なわたしは自分の気持ちを伝えることができなかった。ずっと片思いのままだった。何度か告白しようと思ったこともあるのだけれど、でも、どうしても行動に移すことができなかった。
そしてそのうちに先輩には彼女ができた。その彼女というのはわたしの友達だった。その友達は女のわたしからみてもとても綺麗な娘だった。友達から聞いた話によると、先輩の方からその娘に告白したらしい。
先輩に彼女ができたという話を聞いたとき、もし、わたしが友達みたいに綺麗だったら、先輩もわたしのことを好きになってくれたのかな、と、心が冷たい水に濡れていくように孤独な気持ちになったことを覚えている。
夢で見るのは、わたしが先輩に自分の気持ちを伝える(現実にはそんな機会はなかったのだけれど)場面だ。設定はそのときどきによって違うのだけれど、結末はいつも同じだ。わたしが先輩に振られるのだ。わたしがどんなに想っても、願っても、わたしの気持ちは届かない。決して。そういう夢。
その夢を見るたびに、わたしはあれからもう何年も経っているというのに、まるで先輩に憧れていたその当時のように、深い湖の底に沈んでいくような喪失感と伴に目覚めることになる。