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影山英一の事件簿  作者: タツヒロ
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彷徨う少年 ④

「まあ、これは後に考えるとしよう。俺らがやることは証拠をかき集めホシを見つけることなのだからな。ダイイングメッセージを読み取るのは俺らの仕事ではない。探偵の仕事さ」


そうして熊谷は被害者の所持品を確認した。


 「物取りの線はなさそうだな」


 「はい。財布もスマホも被害者が所持していました。そしてこの店の2階は被害者の生活用の部屋が1部屋ありますがそこも荒らされた形跡はありませんでした」


 「店に鍵はかかっていたのか?」


 「いえ、それが店の入口のドアだけが鍵はかかっていませんでした」


 「つまり店内には誰でも出入りは自由だったてことか。店の監視カメラの映像はどうなんだ?」


 「それが唯一店内にあるカメラはダミーでして映像は入手できませんでした。」


ちっと熊谷は舌打ちを鳴らす。


 「映像さえあれば早急に片が付いたんだがな。面倒なことになったな。物取りの犯行でないとなると怨恨の可能性が高いな。とりあえず第一発見者のところに行か」


 神田は熊谷警部補に同行し別室で婦警と待機している井上の事情聴取を行った。話の主導権を握ったのは熊谷だ。


 「あなたが井上百合香さんですね?」


 「はい」


殺人現場を目撃したのだから当然だが、井上の表情は疲弊しきっていた。


 「お疲れのところ申し訳ないのですが、現場を目撃し何か不可解なことはありませんでしたか?」


 「なぜ有田さんがあんな格好でなくなっていたのか以外は特にありません。店内も昨日と同じままでした。」


予想通りの返答だった。


 「あのポーズに何か見覚えは?」


 「ありません」


井上は淡々と話してくれる。


 「そうですか。では昨晩の22時から24時まであなたは何をしていましたか?」


 「アリバイですか...その時間でしたら21時半には家に帰り一人で夕飯をとっていいました。なのでアリバイはありません」


 「そして今朝の8時半に出勤し有田さんを目撃した。他の従業員はいつ頃退勤したかわかりますか?」


 井上は弱弱しく首を横に振る。


 「この店に他の従業員はいません。この店の従業員は私と有田さんの2人だけです」


となるとカメラがダミーだったということを知っているのは被害者と井上だけになる。


 「なるほど。それでは有田さんが誰かに恨まれていたという事実はありますか?」


 「あります。しかし殺されるほど恨まれていたかはわからないんですけど」


これは重要な情報だ。神田はメモ取りに神経をとがらせる。


 「それは誰に?」


 「兄の大貴さんです。これは有田さん。マスター本人から聞いたんです」


 井上の話を要約するとこうだ。


 有田佑平は3年前に両親の遺産を元手にこの店を始めたが、なかなか経営がうまくいけず兄に助けを求めて300万円の借金をした。被害者は毎月一定の額を兄に返済しており順調に支払い義務を果たしていたのだが、雲行きが怪しくなったのは1年前のことだった。

 1年前「クイーン」という大型チェーン店のカフェがこの店の大通りに進出し、その店にお客さんが徐々に流れしまったという。そのため経営が右下がりとなってしまい借金の返済が滞ってしまった。


 「不運はそれだけではありませんでした。3カ月前に大貴さんが投資で大損失してしまい、生活に困窮するようになってしまったんです。それまでは借金が滞っていたことには目をつむっていたんですが、自分の生活がかかっているとなるとそうはいかなくなったんでしょう。まるで人が変わったかのようにマスターに執拗に返済を迫っていくようになりました。

 3日前も『いつになったら金を返してくれるんだ!この泥棒め!こんな古臭い店なんかとっとと壊してしまえ!』と営業中にも関わらず店に押しかけてマスターに罵詈雑言を浴びせていました。大貴さんはあまりにも自分勝手なんです。急にお金を返せって無理なのは承知のはずなのに。それにあんな営業妨害をして、本気で店を潰す気だったんです」


 といっても亡くなった被害者を悪く言うのは本意ではないが、借金の滞納は被害者本人の責任ではないか。大貴をあまりにも扱き下ろしすぎなのではないかと神田はメモを取りながら疑念を抱いた。


 そんな神田の思考を読み取ったかのように井上は語気を強めて反発した。今度は話の主導権が井上に移る。


 「確かに借金についてはマスターに多少は非があります。でも命まで奪われることはあってはならないことです。佑平さんは必死にお金を返そうと刻苦していました」


呼称が『マスター』から『佑平さん』に変わった。


「何とかお客さんを取り戻せないかと寝ずに考え込んでもいました。それに店をたたもうとしなかったのも私のことを気遣ってくれてのことなんです。あんな心優しい人が殺されていいはずがありません!」


井上の目にうっすらと雫がうかんでいる。 


 熊谷は井上をなだめようと、なるべくゆっくりとした口調で話す。


 「あなたの気持ちがよくわかりました。あなたは随分と佑平さんを慕っていたんですね。あなたと佑平さんは男女の関係だったんですか?」


きっぱりと否定する。


 「そんな関係には一度もなっていません」


 「そうですか。では最後の質問です。なぜあなたのために佑平さんは店をたたまなかったのでしょうか?」


 この時初めて井上の表情に困惑の2文字が浮かびあがった。


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