彷徨う少年 ⑪~エピローグ~
何故だろうか?俺はずっと自分の推理に猜疑心を抱いていた。もちろん、この事件の犯人は、井上さんであり、証拠はないが流人も犯行に加担した1人だったのだろう。
でも、この推理は何か根底から間違えているような。例えるならば、パズルは完成したのだが、そのパズルは目指していた完成品とはまるで違う。すべてのピースを取り違えて、もう1つ別のパズルを組み立ててしまったような。
どうして、佑平さんはダイイングメッセージを遺したのだろう?あれ程までに寵愛していた井上さんに警察に捕まる危険が及ぶとわかりきっていたはずなのに。たとえ自分を殺めたのが、井上さんだったとしても、佑平さんにとって井上さんが逮捕されることは望ましいことではないのではないか?
考えたくもなかったが、もう1つの真相が俺の頭をよぎった。
あれは、ダイイングメッセージではなかったのではないか?
俺たちはあのポーズを犯人を指すダイイングメッセージだと信じて疑わなかった。それが根底にあり、あの推理は成り立っていた。
だが、あれが『犯人』ではなく、もっと別の意味を持っているとしたら?
『祈り』
そうではないか。本当の意味はすぐ目の前にあったではないか。
佑平さんは、別に俺たちにメッセージなんか遺すつもりはなかったのだ。『俺たち』ではない、『神様』に祈りを捧げていたのだとしたら?
佑平さんは自分の命の終焉を感じた時、何を思い立ったのだろう?
如何にして、井上さんが犯人だということを警察に伝えるか?
違うだろう。もっとシンプルだ。
また独りにさせてしまった井上さんの将来を案じて、自分がもうすぐ逝く向こうの世界にいる『神様』に祈っていただけではないか。「井上さんが、幸福な人生を歩めるように」と
死人に口無しなのだから、それが本当のパズルだったとしても、真偽はわからない。このパズルは、自らの意志で真相を闇に葬り去った戒めとして、自分の中に蓋をして鍵をかけるとしよう。
不意にインターンが鳴り響き、ドアが開いた。
「おはようございます!影山さん」
もちろん、この少年には口が裂けても言えるはずないな。
「何笑っているんですか?気持ちが悪いですよ」
「なんでもないよ。ただ、少し物思いに耽ていただけさ。さあ、行こうか」
そうして、俺らは『detectivs'café』に弔問し、多く供花の中に一束の純白の百合の花を添えて手を合わせた。