34 星羅と京樹
双子同然に育ててきたので、彰浩と京湖は星羅の生い立ちについては何も触れずに来た。京樹が陳老師のもとに通うようになって突然「僕と晶鈴は顔が違うね」と言い始めた。
京樹は太極府で占星術を陳老師について学んでいる。自然と観察力と洞察力が幼いながらに身についてきているようだ。
星羅ももう陸慶明の妻、絹枝の学舎に通い勉学を始めているが、読み書きしている大勢の子弟の中のそばで落書きなどをしているだけだった。
彼の言う通り、兄妹のはずなのに星羅と京樹は明らかに容姿が違う。
朱京樹は両親の彰浩と京湖に良く似て、艶のある浅黒い肌と刻太い黒い髪、くっきりした彫の深い顔立ちをしている。鼻梁も高く唇も厚く大きい。
星羅の肌は白く、髪は艶やかな漆黒だが繊細な絹糸のようだ。丸く黒めがちな瞳は愛らしいが、額は広くりりしい眉をしている。小さな唇はふっくらとして淡い桃色だった。
都の気候は西国と違い、乾燥して寒い。京湖と彰浩も以前の衣装はすでにしまい込み、しっかりと織られた目の細かい漢服を着ている。随分とこの国になじんでいるが、やはり異国の民である。
隠すつもりはないが、もうそろそろ星羅の身の上について話さねばならないかと、京湖は決心し家族4人で話し合うことにする。
慎ましい夕食を終え、あたりを片付けたのち京湖は話があるとみんなに告げる。
「なあに? かあさま」
興味を持つ愛らしい瞳の星羅の頭を優しく撫でると、話すことがためらわれた。複雑な話は難しいかもしれないが、ある程度の事情は理解するだろう。
「星羅。実はあなたのお母さまは別の方なの……」
「え?」
唖然とする星羅と、なんとなくそんな気がしていたという表情をする京樹の顔を京湖は見比べ、真剣な表情の彰浩に視線を送った。
「とうさまは?」
星羅は、彰浩のほうを向いて尋ねる。
「とうさんも、ほかにいる……」
彰浩は残念そうに答えた。
「星羅のかあさまととうさま……」
迷子になったような心細い表情をする星羅を、京湖はすぐに抱き上げる。
「心配しないで。あなたのお母さまはちょっと遠くに御用時に行ってて、今私たちがあなたのとうさまとかあさまには違いないのよ」
「そうだ。星羅は私たちの大事な家族だよ」
彰浩も優しく言葉を続ける。
強い力で星羅は、京湖の身体を抱きしめ「ほんとね。かあさまととうさまと星羅と京樹は家族ね」と尋ねるようにつぶやいた。
「そうよ、ずっとそうよ。でもお顔が少し京樹と違うのは、星羅を産んだのは他のお母さまなの」
傷つけてはいないだろうかと京湖は心配しながら説明をする。しばらく黙って考えていた京樹が口を開く。
「そうか。星羅には父さまと母さまが2人ずついるんだ。僕と兄妹で、星羅は6人家族になるね」
「とうさまとかあさまが2人ずつ? 」
「そうさ。星羅、いいことだよ」
「うん! いいことね!」
京樹の言葉を聞いて、明るく答える星羅に、京湖と彰浩は少しホッとする。京湖たちの身の上は、また二人が成長してから話さねばならないと、とりあえず今を乗り切れたと胸をなでおろす。
わずか1刻ほど先に生まれただけなのに、京樹は母がいない星羅を兄として守らねばと幼い心で決意する。その決意はいつか、家族の情を越え一人の女性として星羅を見つめることとになるとは、まだ誰も気づいていなかった。




