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華夏の煌き~麗しき男装の乙女軍師~愛する人は実の父・皇帝陛下?  作者: はぎわら 歓


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22 穏やかな日々

 晶鈴は身支度をすると町へ行き占いをする。客は2,3日に一人くらいだった。それでも十分な稼ぎとなった。辺境の町の占い師は、来た時に観てもらった金髪碧眼のカード使いと、小麦色の肌と灰色の髪をもちサイコロを振るもの、赤茶けた波打つ髪を持つ青白い顔色の振り子占い師と、流雲石をつかう晶鈴の4人だ。

4人は東西南北にそれぞれ分かれて商売をし、客層がかぶることもなく、奪い合うこともないので競争心はわかなかった。むしろ気の合う仲間として、時々食堂で一緒に集まる仲間になっていた。太極府と違う占い師たちに晶鈴は刺激されていた。


「みんな卜術なのね。命術の占い師がいないって面白いものね」


 太極府では晶鈴のように偶然性を必然として使う占い師のようなタイプよりも、星の動きや生まれた日時で占う方法のほうが圧倒的に多かった。


「あら、あたしは手相も観るわよ」


 赤毛の振り子占い師は大きな手のひらを見せる。晶鈴も自分の手のひらを思わず見ると、微妙に手のひらの線が違うことに気づいた。


「ほんと。この筋ってみんな違うのねえ」


 感心している晶鈴に金髪のカード使いが「手相も卜術とかわらないでしょ」と大げさな笑顔を見せる。灰色の髪を持つサイコロ振りが静かだがよく通る声で発言する。


「近未来を観るのに卜術のほうが的中率が高いから。宿命がある人間はそうざらにない。運命は心がけ次第で変わるから」

「そうそう。考え方ひとつで天国にも地獄にも変わるものよ」

「へえ」


 天国や地獄、神や仏、いろいろな話を聞けるこの占い師の集まりは晶鈴にとって刺激的だった。


「そうだ。そろそろ産休に入ることにするの。また復帰するときはよろしくね」


 晶鈴はそろそろ来月、産み月に入る。


「そうかい。元気な子を産みな」

「がんばって」

「仕事がなくなることはないからいつでも帰ってくるといい」


 流れ者の多い町では、だれも事情を聞かないし、詮索もしない。それでも付き合いやすく、親切で明るかった。情報通である彼女たちは一番赤ん坊を取り上げるのが上手な産婆も教えてくれた。


 ロバの明々を伴って夕方、関所が閉まってしまう前に町を出た。顔見知りになった兵士は「気を付けてな」と声をかけてくる。


「またね」


 宵の明星を眺めながら家路につく晶鈴は、生まれてくる子どもに『星』の字を使おうと考えていた。


 馬のいない馬小屋にロバの明々を入れ、水を汲みに井戸へ向かった。ちょうど朱彰浩が手を洗いにやってきていた。


「ただいま」

「おかえり。水は俺が運ぶ」

「ううん。いいわよ」

「いや、もう臨月だろ。無理しなくていい」

「ありがと。じゃあお願いするわ」


 ぶっきら棒だが親切な朱彰浩の厚意に甘えることにした。自分の小屋に行く前に、京湖の顔を見に行く。


「京湖さん、ただいま」

「おかえりなさい。今日はどうだった?」

「まあまあかしら。みんなには明日から休むって言ってきたの」

「そろそろ身動きが取れにくくなってきたわよねえ」

「ね」


 わずかに京湖の腹のほうが大きく、予定日は彼女のほうが早そうだ。


「ご主人に色々お世話になって申し訳ないわ」

「あら、こちらこそ。お互い様よ」


 世間話をすこしして晶鈴は帰った。寝台に腰掛け腹を撫でると、内側からぽこぽこと蹴られた。


「アタタ。なかなか強くけるのねえ。男の子かしら? 京湖さんは女の子かもしれないわ」


 楽しみのような不安のような怖いような複雑な気持ちが駆け巡る。いろんな思いをすることに晶鈴は不思議な心持だ。占い師たちの言葉を思い出す。


『運命は心がけ次第で変わる』『考え方ひとつで天国にも地獄にも変わる』


 自分の人生は自分で切り開いていくものなのかと肝に銘じて晶鈴は目を閉じた。


 しばらくのんびりとした日々を送る。京湖と一緒に赤ん坊の産着を縫い、寝かせる籠も編んだ。朱彰浩は朝から晩まで忙しく窯を作り、やっと完成したところだった。今はその窯で焼く器を制作している。

 京湖と二人で彰浩が稼働する円盤を蹴って回す、ロクロの作業を眺める。粘土の塊がぬるぬると伸び縮みし、収まり、鉢や壺になった。


「面白いわねえ」

「今度やってみたら?」

「ううん。見てるだけでいいわ」


 朴訥とした彼から、優しい陶器が生み出されるのを見ていると晶鈴は心から和む。作品が窯に一杯になったら三日三晩不眠不休で焚くそうだ。


「不眠不休なの?」

「ええ。火を絶やせないから」

「焚くのって難しいのかしら。難しくないならお手伝いするけど」

「難しくはないのだけれど、温度がすごいのよ」

「そんなに?」


 詳しく聞いていると、鉄さえも溶けるという相当の高温らしく晶鈴には想像のつかない温度だった。


「ちょっと怖いわね」

「せめて子供が落ち着くまではやめておいたほうがいいと思うわ」


 安穏とした日々はそろそろ終わりを迎える。とうとう二人が母になる日が近づいてきた。


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