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華夏の煌き~麗しき男装の乙女軍師~愛する人は実の父・皇帝陛下?  作者: はぎわら 歓


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20 最後の町

 大きくなった腹をさすってロバの明々の引く荷台で横たわった晶鈴は、そろそろ本格的に落ち着き先を探そうと考えた。当面何もしなくても生活ができる資金はあるので、住まいをとりあえず求めることにした。


「随分と遠くまで来たわ」


 結局、最後の関所までやってきてしまった。ここを抜けてしまうと外国になってしまう。


「国の端までやってきたのねえ」


 狭く、俗世と隔たれてきた環境から、一気に広い世界へとやってきた爽快感があった。


「だけど、ここから先はもう無理ね」


 さすがに関所を越え、外国に行くには国からの許可が必要だった。行き来するのは国家間の主要人や外交官、許可された商人の身だった。まだまだ気軽に外国旅行はできない。もし無断で国外に出てしまえば、帰ることも叶わなくなる。晶鈴はそこまで冒険したい気持ちではない。


 毎度のことながら、身分証を見せると「ほうっ」と目を見張る兵士に笑みながら街に入った。国境の町は、人種も、飛び交う言葉も、衣装も、食べ物の何もかも雑多だった。混雑した状況に晶鈴は逆に安堵を覚える。


「みんなバラバラなのねえ」


 誰も自分を詮索しないし、する必要もない。訳アリの人物も多い町だろう。埃っぽい町をうろうろしてとりあえず宿を探すことにした。これだけ雑多で人の行き来があれば、宿屋に借りぐらしをしながら住まいを見つけることができるだろう。



 占い師の勘というべきか、これまでの経験というか、この町にいる占い師をすぐに探し当てることができた。今までは町に一人だった占い師がここでは3人もいる。皆、人種が違うようだ。

 晶鈴は初めて目の色が青く髪が金色の人を見た。占い師の一人にもそういう金髪碧眼の女性がいたので思わず席に座った。大柄でガタイの良い中年の女性は迫力がある。晶鈴は恐る恐る尋ねてみた。


「あの、言葉は通じるかしら」

「もちろん。ここは長いのよ」

「どうやって占っているの?」

「え? 占い方? そんなこと聞かれたのは初めてよ」


 豪快に明るい声でハハハッと笑う彼女に晶鈴は少し安心する。


「実は、私も占い師で」

「へえ! お仲間ね! 」

「この町は占い師が多いようだけどやっていける?」

「平気よ。客はかぶらないし。あんたもここでやっていきたいの?」

「ええ。面倒なことにならなければ……」

「ああ、ほかの占い師に遠慮してるのね。気にすることはないわ。役所にだけ商売の届けを出しておけば別にいいでしょう。ちょうど、前にいた占い師がいたところに席を構えるといいわよ」

「あら、そんなところがあるの?」

「出入りの多い町だからね。占い師だって入れ代わり立ち代わりよ」


 気さくなこの金髪の占い師は晶鈴に色々と情報をもらった。勿論、晶鈴は彼女の客として占ってもらい料金を払う。


「何観ようか?」

「まあ、一応、今後のこと」

「インテリーゴ(わかったわ)」


 黒い布の上に美しい絵が描かれた手のひら大の紙片が置かれる。


「この紙をつかって占うの?」

「そうよ」


 初めて見るカードというものに晶鈴は目を奪われる。カードを混ぜる彼女は爪が長く伸びていて、その爪は赤く染められていた。太極府では見ることができなかった、占術を目の当たりにし晶鈴は興奮する。陳賢路老師に見せてあげたい、と久しぶりに太極府を思い出した。


「いい出会いがあるけど、あなたの運命も変わるわ」

「いい出会い……。運命」

「その運命はあなたにとっては不運でもあるし幸運でもある」

「そう……」


 晶鈴の表情を見て、女は笑んだ。


「何にでも当てはまることを言われてると思ってるでしょう」

「えっ、あ、いえ……」

「いいのいいの。たいていの占い師はそうだから。でも聞いてカードの言葉を」


 女の目がうつろになり、視点が定まらない。空気が変わった雰囲気に晶鈴は緊張して次の言葉を待った。


「あなたは不運でも幸運でもあるけど、あなたのおかげで助かる人がいる。そしてあなたの子供は父親のもとへ行くでしょう」


 ふうーっと息を吐いて女は肩を上げ下げする。


「と、こういう結果ね」

「父親のもとへ……」


 子供が隆明のもとへとは考えにくかった。


「まあまあ。未来は変わることもあるんだからね」

「ありがとう、いろいろと」

「じゃあね」


 銀貨を2枚支払って、晶鈴はまた町の中へと戻っていった。さっき教えられたとおりに役所に商売の届けを出すとあっさり受理された。さらにその去った占い師がいたところには都合よく、ぽっかりと場所が空き晶鈴を待っているようだった。日差しをよけるための天幕と机と椅子を用意すればすぐさま商売ができるようだった。


「まるでここに導かれたようねえ」


 落ち着くときはすんなり落ち着くものだと、晶鈴は新しい日が始まると新鮮な気持ちを持った。 



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