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華夏の煌き~麗しき男装の乙女軍師~愛する人は実の父・皇帝陛下?  作者: はぎわら 歓


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14 都を後にして

 日の出を前にして薄暗い外から、住んでいた小屋を眺める。


「もうここに住むことはないのね」


 子供のころに故郷を離れる時よりも少し感傷的になった。


「隆明兄さま……」


 平坦な腹をさすり曹隆明を思う。彼に何も告げることなく都を出ていく自分をどう思うだろうか。彼はもっと孤独になってしまうのだろうか。今まで考えたこともないような心配がいっぺんに晶鈴の胸に押し寄せてきた。占ってみようかと思い立ったがやめた。心が騒めいたままで占ってもどうにもならないことを知っているからだ。


 現在の後宮は、正室に側室4人と人数が決まっていて、王と過ごす期間もほぼ決まっている。正室に子供ができれば、次々に側室と過ごし、5人まで子ができればまた正室と過ごす。

 太古の後宮のように数多くの女人たちが、寵愛を競うことはなく、王が寵愛をローテーションで与えていくことになるのだ。順番が確実にやってくるので、妃たちに不満は出ず、競い合うことも、蹴落とすこともなくなった。

 王のほうも、気に入った妃を贔屓することはできない。お気に入りの妃ができても、その者との蜜月は期間が決まっている。このシステムのおかげで王朝は長らく安定している。


 隆明も即位し王となり5人の妃がいれば、気の合うものも出てくるだろう。 腹の子の父親が明らかになっても、王族から認知してもらえることはないだろう。過去には嫉妬に狂った妃から毒殺される王子や王女がいたが、今は王朝そのものから、計算外の子として抹殺されるかもされない。

 王朝の安定は、計画と計算と予知の賜物でもある。太子の隆明には自由な恋愛、選ばれていない女人と子を成すことはあってはならないことだった。


 髪飾り一つつけず、丈夫で質素な着物と履物をそろえた。荷物は風呂敷包みに一つだけだ。とりあえず路銀と流雲石があればなんとかなるだろう。物思いにふけっていると少しずつ日が差してきた。


「朝ね。門が空くわ」


 日の光を背に、関所に向かった。


 まだまだ静かなくらい都の中を、目に焼き付けながら歩く。店の扉は硬く閉まっていて、人々はやっと床から身体を起こすだろう。関所に着くとちょうど兵士たちが交代するところだった。若い青年兵士たちは目をこすりながら、槍をもって門の前に立っている。


「もうじき開くかしら?」


 晶鈴が通行手形を見せながら尋ねる。


「もうじきです」


 しっかり通行手形を確認することなく、兵士は答える。平和な今は関所は形ばかりだった。危険な人物を排除するというより、安全な旅のために関所は機能している。民族が統一されてから国は大きく豊かになったので、外敵から大きな戦争を仕掛けられることはない。もっともっと遠くの国々も、同時期に戦国時代を抜けているのだろう。


 開き始めた大きな門に近づくと「晶鈴」と声をかけるものがあった。


「慶明……」

「見送るといっただろう」

「ああ、そうだったわね」


 慶明の後ろから、下女だった春衣がそっと出てくる。


「晶鈴さま……」

「来てくれたの、春衣。ごめんね」

「いえ、わたしのことなど。次の職場を紹介してもらっただけでも……」


 春衣は慶明のところで働かせてもらえるように頼んでおいた。


「春衣のこと、頼むわ。とても働き者で気が利くの」

「ああ、よく知ってる。それと、これを」


 大きな袖の中から慶明は青銅の厚みのある板を一つとりだした。『中央医局 薬師 陸慶明』と書かれている印章だ。


「何かあれば、これを使うといい。便宜が図りやすくなる」

「いいわよ。使うことないと思うから」

「持っておけ。何かにはなる。地方でも役に立つから」


 遠慮する晶鈴に、慶明は無理やりにでも持たせる。手の中の印章の文字を晶鈴はそっとなぞる。


「それと、春衣」

「はい」


 春衣はさっと縄を手に持ち、慶明に渡す。縄の先には荷台を引いたロバがいた。


「これも持っていけ」

「宿場町には昼過ぎには着くだろうから、のんびり歩こうかと思ったんだけど」

「その身体でか……」


 身重の身体を心配して慶明が用意したのだった。


「邪魔になったら売れ」

「ありがと……」


 慶明の心遣いを素直に受け取ることにした。気が付くともう周囲は明るく、門は完全に開き、外から、内から、行き来するものが数名いた。


「そろそろ、行くわ」

「ああ……。困ったらすぐ便りをよこせ」

「ええ。ありがとう。春衣さよなら」

「晶鈴さま……。お元気で」

「またね」


 明るい笑顔をみせ、手を振りながら晶鈴は門の外へと出ていった。


「新しい日が始まるって感覚は何年振りかしら?」


 都には、陳賢路に連れられてやってきた。今度は、一人で好きなところへ向かうのだ。


「あ、一人ではなかったわ」


 まだ見ぬ子と、供のロバに笑んで遠くの青い空を見つめた。



 見えなくなるまで見送ったあと、慶明はふうっと大きなため息をついた。そのため息の意味を春衣はよくわかっていた。


「慶明さま。顔色がよくないです……」

「ふふっ。薬師の私がそう言われてはしょうがないな」


 慶明は、ふと春衣は晶鈴の子供の父親を知っているのではないかと考え、遠回しに尋ねた。


「晶鈴のもとに、男が尋ねてくることはなかったか?」

「さあ……。慶明さまくらいしか……」

「ふむ。では晶鈴が誰かにこっそり会いに行くことはなかったか?」

「実は朝早く出かけられることがありまして……」

「どこの誰と会っていた?」

「それは、わかりませぬ。後をつけて顔を見に行くわけにもいかず……」

「そうか……。誰かわからぬか……」

「あ、そうだ。御髪をすいて差し上げると、時々、晶鈴様のものではない綺麗な絹糸がついてました」

「絹糸……。色は覚えているか?」

「えーっと、黄緑色のようだったかしら?」

「黄緑色……」


 身に着けられる衣装の色は身分によってほぼ決まっている。晶鈴の絶対父親の名を明かさないという態度と、糸の色で慶明はもしや相手は王族ではと怪しんだ。若い王族の男は太子、王子など数名いる。慶明はひそかに父親を探り当てようと心に決めていた。 

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