ギンギラギンにさりげない少女
ギンギラギンにさりげなく、そんな状況は成立するのだろうか? ギンギラギン、という、いかにも装飾華美な前置きをしておいて、そこからさりげなさを演出するのはもはや、無理難題に思える。
だがしかし、僕の隣を歩く少女こそまさに、ギンギラギンにさりげなく、を体現した存在だ。
攻撃的な思考、インパクトのある極論、研ぎ澄まされた敵意。それらのギンギラ成分を多分に含んでいるにも関わらず、華奢で線の細い身体。およそ自己主張など出来そうに無い小さな声。学校の教室では隅の方で大人しくしている、人見知りぶり。そう、彼女こそがまさに、二つの相反する性質を兼ね備えた、ギンギラギンにさりげない少女と言えた。
「ねぇ、タバコ休憩ってどう思う?」
僕の長ったらしい思考を遮ったのは、とても小さく控えめな少女の声だった。
「え? 別に特別意識したことはないよ、僕は吸わないし」
僕はひとまず、当たり障りのない返球をする。
「は? なんでよ、タバコを吸わないからこそ、ムカつくんじゃない」
まずいな、どうやら先ほどの返球は完全にデットボールのようだった。
「えっと、どうして?」
「これはバイト先での話なのだけれど、そこの社員が指定された休憩時間以外にも、何度もタバコを吸いに行きやがるのよ」
「う、うん」
彼女はスーパーでアルバイトをこなす勤労女子高生である。おそらく、そこで溜まったストレスを僕にお裾分けする算段なのだろう。
「おかしくない? その間にも他の人達はまじめに品出しやらなんやらをこなしているわけ。ちょっと、ヤニが切れたからチャージしてくるわ、じゃねーよ!! じゃあ私も、糖分切れたからポッキー吸ってくるわって、いいわけねーだろ!」
彼女は小さな声で怒鳴るという、とても器用な技を扱える。
「まず、ポッキーは吸うものじゃないよ」
「わかってるわよ、でも私の言いたい事、わかるでしょ?」
「まぁ、わかるけれど、でも集中力の持続や気分転換にもなってはいるんじゃない?」
「は? もとからタバコの所為で低下してる部分を補おうとして時間を浪費している行為に、価値を見出さないでよ!! あんたひょっとして、昔はヤンチャしてた系教員を良い先生とかぬかすタイプなの? なんでよ!? どう考えたって真面目にルールを守って生きてきた人の言葉を聞くべきだわ。何故なら、ルールを守れなかった人間にルールを強要する資格はないからよ!!」
よくもこの長台詞を噛まないものだと感心したいが、この攻撃性はいかがなものかとも思う……。
「まぁ、人生経験のバリエーションというか、指導者の多様性を増やすという意味では……」
「多様性という言葉を持ち出せば犯罪も許されるわけ?」
彼女の飛躍は留まるところを知らない……。
「えっと、その、教員の件はともかく、さっきの休憩については少し不平等かも知れないね」
「知れなくないわ、もう決まっているもの!!」
小さな声で怒号をあげるという矛盾しそうな表現が頭をよぎるのは、この子の持ち味ともいえる。
「名は体を表すって言葉は嘘みたいだね」
「どういう意味よ」
「凪って意味わかるかい?」
「わかるわよ、その位、自分の名前だもの……」
「風が止んで、波がなくなり、海が穏やかになること。あぁ、実に君に合った名前だね」
「う、うるさいわね」
真っ白な頬に赤みがさす。それが夕陽の朱色と混ざり合い、実に美しく、絵になる。
風になびく、真っ黒な長い髪を見て、ふと思う。
「黙っていれば、凪だな」
「私は、いついかなる時も、凪よ」
彼女は自分の名前を自信無さげに口にした。
「まぁ、僕も、人のことは言えないか」
「そうね、運命君?」
「その名で呼ぶな」
「だって貴方は、いついかなる時も運命でしょ?」
彼女はさっきの仕返しとばかりに、僕につけられた呪縛を呼ぶ。
「はぁ、名は体を表すとは言うが、こんなもん、生まれた時から八方塞がりだ」
「そう? 私は良い名前だと思うけれど」
そこには、先程までの怒気が嘘のように穏やかな、まるで凪のような笑顔が咲いていた。
「おいおい、騙されないぞ?」
「そっか、それは残念」
悪戯っ子の少年のような笑顔を浮かべる凪。
きっと僕は、この笑顔に、すでに騙されているのだろう。




