Unknown
- Unknown -
風が止んだ。鳥は羽を休めた。雲の隙間から光が差して、誰かが時を止めたから。
そのまま宝箱の中に仕舞っておきたい、そんな光だった。
木の葉が掬い損ねた光を覚えていた。美術の教室に揺蕩う夕方の光が好きだった。
光というものは不思議なもので、全てを包むような光よりも、愛おしむように弱くなったり、過去の一点を照らしたりする光の方が、金色に見える。時間も同じだ。
時間はいつも今を過去に変えてしまう。鳥は目を細めた。いつの日か、遠く高く滑空する大きな鳥を見上げていた。今はもう、本当はあの翼に届いていた。他の雛が酷く小さく見えた。時間と物語の輪廻が速いので、風を生んで、どうしようも無く羽を浮かせる。
金色の糸で編んできた物語が少しずつ解けてしまうのは、これからの物語を編むためだと思う。
過去のあの子に終わりの物語を。
膨大な今を生きていた。だからこんなにも恋しい。
鳥は最後の羽根を落としていった。羽根の先端が金色に光った。
鮮やかな世界が息をして、
風がまた走り出した。