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「コインは武器となり得るか」

作者: 森宮 照

不意に目覚めた貴方は、見知らぬ異世界に居た。

学生服、学校、ゲームセンター、ここは、何処だ。

プロローグ


ふと目が醒めると、自分は布団の中に居た。


…布団?


布団。


ちょっと意味が解りません。


洞窟の中で、ホブゴブリンに遭遇し、傷を負って。意識を失ったのだ。ゲームじゃない、いやゲームってなんだ?ともかくここは…何処だ。


目の前に広がっているのは、奇妙な部屋の中、だった。自分は今…何処に居るのだ?



----------


「ステージ1:朝ごはんですよ」


食事をしている。

何だか、不思議な光景だ。


自分は、自分が「沢瀬誠司さわせ せいじ」だと知っている。今は、朝だ。朝食を取っているのだ。両親が居て、ここはその持ち家であり、自分は、彼らのその一人息子、だ。高校生であり、冬休みも終わり、今日から”学校”に行かねばならない。小奇麗な”台所”で、テーブルの前で、三人が簡単な食事をしている。少し、呆然としていたのかもしれない。”自分には居ない筈の”母親が、言う。


「何?何か心配事でもあるの?」

「あ?あ・・・いや、そういう訳じゃないんです」

「なによ、妙な言い方・・・」


怪訝そうな母親を前に、誠司は、再びうつむいた。


・・・どうなってるんだ、リア・ラバート、お前、こんな事をしてる場合か?俺は生きている、命があったのだ、吉事だ、一刻の猶予もない…何とか、あのホブゴブリンの洞窟に有ると言う「聖者の楯」を手に入れねばならないのだ、こんな場所で、呑気に飯を食っている場合か・・・?


-俺は誠司だ、誰だよリア・ラバートってのは!ここは何処だよ!?-


”自分”が、何か不意に、これは、憑りつかれたと言う奴か・・・?妙な事を言う。そして理解は出来る、リアには今、”その”誠司と言う存在が理解してた情報こそが、眼前の事実だと言う事が。どういう経緯かは解らない…これは、「転生」と言う奴か?自分は、違う存在として今、この”異世界に”居るのだ。


魔導士の策略にでも、はまったのか・・・?


「ちょっと、何ぼーっとしてんの、食べたのなら早く学校行きなさい遅れますよ?」


ふと我に返り、誠司は、いや、誠司は今、リアだ…彼は”記憶”を頼りに、比較的小さなその沢瀬家を、出た。

空は、残念ながら、快晴だった。



----------


「ステージ2:戦士は学校に行く」


「学校」では、理解はしていたが、戦闘訓練も薬物講習も無いのが、何だか違和感があった。”記憶”にも、殺し合い、ともかく野獣が襲ってくる…様な危険は、無い。巨大な、王宮と言うには不愛想な建造物が立ち並ぶ場所が遠方にはあり、ここはそこから少し外れた街であり…街路には地面も、野草も見える。それは牧歌的でさえある、そして。


「この地に魔獣が居ない」のが、今は奇妙だった。本来なら危険極まりない場所を、自分は、丸腰で歩いているのだ、魔獣が出て来たら、どうするんだ?


-いる訳ないだろ、なんで俺はこんな所に居るんだ?!-


内なる声と、そこはシンクロしている。”記憶”はハッキリしていた…だから、「誠司を」続ける事は、さほど問題は無かった。やがて定例の授業が終わり、掃除をし、学校が終わる。誠司は文芸部に所属していたが、今はどうすべきか、リアはふと立ち止まった。


「よ、誠司」


ふいに、後ろから声が掛かった。それは他のクラスだが同じく文芸部に所属する、塩崎孝也しおざき たかやだった。怪訝そうに、リアは孝也を見た。


「・・・え、なに?」

「あ、いや・・・何でもないんだ。貴方が何かしてる筈がない・・・」

「は”?」


記憶では、彼は単なる文芸部の友人である。自身を陥れる様なパワーの持ち主とは思えなかった。ともかく元の世界に一刻の猶予もなく戻らねばならない…不意に聞いてしまう。

「すまない、魔導士に心当たりはないか?」

「この前のセッションで倒したな、中々難敵だった」

「なん・・・だと・・・?」

「落ち着け、何があった」


流石に冗談とは受け取れない表情をしていた、らしい。ふいに我に返り、言い濁しつつ、共に部室へ向かう。部屋の中では他にも数名の部員が居て、何だか机の上にサイコロと紙を広げていた。・・・ここは、賭場だったのか?


「お前は何を言ってるんだ」


座っていた”部長”の大田先輩が、リアの、その呟きへ怪訝そうに答えた。



----------


「ステージ3:それは異世界の門」


「魔導士レイダーのその後って、どうなんの?」

「それをこれからやろうって言うんじゃないの」


 孝也の問いに、眼鏡の奥で大田先輩は不敵に笑いつつ。このセッションの”マスター”である彼は、用意してたノートを持ちだし、我々に見せていた。そして、文芸部の定例部会が始まる。リアも”記憶”を辿る。パーティは邪悪なる魔導士レイダーの野望を阻止せんが為、王女サーナの勅命を受けて討伐に来たのだ。苦闘の末に、パーティはレイダーを倒した、しかし。その際に、残念ながら誠司のキャラは死んでしまったのである。パーティは、彼を復活させねばならなかった。


「と言う訳で、すまないが君には暫く、こっちのキャラを演じて貰いたいのだ」


混乱と妙なリアリティの中、ぼんやりしていた時、マスターから問われて、ふと我に返る。邪悪なる魔導士に封印されていた…伝説の白魔導士、オーラ。救済措置と言う事らしい?リアは、ともかく流されるまま、その紙に描かれた”キャラクター”を演じて、数名のメンバーと、復活の呪文その材料を手に入れる為に、深い森へと挑む事に成ったのだ。


・・・放課後の、約一時間弱のそのセッションは、彼には何と言って良いか解らない感じで、彼は流されるまま、促されるままに呪文を唱え、バリアを張り、メンバーのヒットポイントを回復した。やがてパーティは、ともかくその場を護っていたゴーレムを倒して、その秘宝を手に入れる事には成功する。しかし、帰ろうとした、その行く手にはあの、レイダーの手下が待ち伏せて居たのだった。その秘宝を彼らが手にしたら、魔導士レイダーが復活してしまう?囲まれた、我々は窮地に陥ってしまった!


「・・・と言う感じで、後はまた明日な」


大田先輩が、プレイヤーらの表情を見回しつつ、何だか満足気に言う。


「どーなんの?」


部員の問いに、大田先輩としては苦笑する。


「まあ、向こうにも考えがある。また明日な」


そう、彼は妙に自信ありげに言い。やがて、お開きと言う事に成った。


「よし、ゲーセンいこーぜ?」


孝也が、何か思いつめた表情をしてたリアに、そう促した。

改めて表情をみて、少し驚かせてしまった、らしい。



----------


「ステージ4:コインは2枚」


「ゲームじゃん?」


ゲーセン、と言うのは略称だった、らしい。ゲームセンター、賭場の様な物だが、何だか闘技場の様な物だと言う。ともかく今はその辺、どうでも良かった。何かの希望の様なモノを感じたのだが、”秘宝”は今、窮地だ。それが無ければ自分のキャラは復活しない、にも拘わらず?!


「落ち着け、何があった」


流石に、そこで本気で心配させてしまった。言葉を濁しつつ、孝也も怪訝そうな顔で物色。けたたましい音楽?とも騒音とも言える、その中にたむろする人々を掻き分け、孝也の後ろを、ぼんやりと付いて行く。ともかく、自分は今、誠司であり、何かが理由でここに居る、どうすれば良い?自分は傭兵上がりだ・・・神を信仰した事など無い訳だが。


「ま、定番で行こうか」


そう、孝也が一台のテレビの前に腰を下ろした。”画面”には、別の世界が映っていた。理解はしていた、テレビとはそう言う物だ。不意に聞いた。


「これは、何処を映してるんだ?」

「は?ゲームの世界だろ?」

「誰が?」

「なんだよわかんねーよ」


 少し、落ち着く事にした。状況は理解しつつある。この”ゲーム”それは、あくまでも、さっきの会話劇、それを自動化した様な物、だ。細かい理屈は記憶には無かった、ともかく、コンピュータと言うのは万能、らしい。怪訝そうな顔の孝也は、ともかくそのままその「ダークネスソルジャー」とか読めるゲームに、コインを投入した。音がして、”ゲーム”が始まる。ふと、気付いた。


…ゴブリン?


それは、リアが駆除する事を生業としていた、そんなモンスターだった。孝也は操作盤を動かしていて、画面の中の”それ”は、その通りに動いているらしかった。ただ、その画面の光景は、だんだんと見覚えがある事に気付いた。


-”ここ”はあの、「デラクシャード」の洞窟だ-

-この先に、聖者の盾が有るのだ-


不意に、声が聞こえる。孝也の制御で、それはどんどん進んでいく…気づくのに時間は必要無かった。そして。


-ダメだ、体が上手く動かない・・・!-


声が聞こえた、やがて、孝也は奇妙な喜びか憤怒か解らない声と共に、残念そうな声を出した。リアには、多分これが誠司の声だ、悲痛な”悲鳴”も同時に聞こえた。そのキャラはモンスターに倒され、画面には「ゲームオーバー」その文字が映った。


ふと、リアは懐に手を入れた。そこに財布が有る事は一応解っていた。中を見るとしかし、コインは2枚しか、無かった。



----------


「ステージ5:ラストチャンス」


”遊び方”は、解っていた。

同時に、「遊び方」と言う言い方に、奇妙な否定感もあった。

それは、「ダークネスソルジャー」それは、自分が、リアが・・・元居た世界の光景だったのだ。そして操るキャラクタの素性も、それは、リアその物、だった。


魔獣デラクシャードを倒し!伝説の秘宝を手に入れろ!


ともかくその願いは、最初のコインでは割とあっけなく潰えた。同時にゲームセンターの喧噪も聞こえて、その中で愕然とするリアに、孝也が笑った。笑っている場合ではない・・・本人には向こうの、或いは誠司の声だ、その悲鳴が聞こえるのだ。本来ならそこに居るのは自分だったのかもしれない?一体どういう事だ?それはゲームオーバー画面を眺めていても解らなかった。ともかく解っている事は、あのデラクシャードとか言うホブゴブリンを倒さねば成らない、と言う事だった。


”この状態から”だ。

今日、コインは後一枚しか無かった。


「それでも凄いな、昨日より2面も進んだじゃん、次でラスボスだろ?もうちょい」


孝也がそう言った、そして同時に声も聞こえた。「何回やりゃいいんだよ・・・!」向こうでは、何故か、誠司が、悲痛な呟きを上げていた。彼を助ける事が出来れば、それは、自分を助けられた、訳だ。入れ替わっている?どういう意味だ・・・それを考える前に、孝也が言った。


「軍資金もないしな、帰るか」

「・・・いや、もう一回」


リアは、呼吸を整えつつ、コインを投入した。解ってる、ともかく、あの敵を倒せば良い。”体”は馴染んできた、感覚はある。”あの時”は、倒れ込んだホブゴブリンに油断した。それさえ避ければ良い。”ゲーム”が始まる・・・最早混乱する必要は無い、敵を倒し続け、あのホブゴブリンを殺せばそれで終わる。リアはコントローラーを操り続けた、そして同時に、誠司の声も聞こえた。


-リアって人も大変なんだな-


そうだな、だから、早めに終わらせよう。リアは苦笑しつつ、コントロールスティックを操る・・・指先が同期する感覚に笑みがこぼれた。向こうで握っている剣は間違いなく、”自分の愛刀”だ。慣れた装備、慣れた状況。油断は禁物だ、確かにこの位、意識は広く向けていた方が良い。


「おおー・・・?!」


ギャラリーをしていた孝也も、ふと感嘆の声を漏らす。さっきとは人が変わったかのように、リアの操るその戦士は、ステージを次々と、ほぼノーミスで進んでいった。それは良いか悪いか解らない、誠司の声も高揚していた、冷静になれ、と意識で告げると、向こうも奇妙に、同意する。笑みがこぼれた、白魔導士オーラの導きか?何でも良い、今は。


やがて、あのホブゴブリンが現れる。

そして、今の彼にとってそれは、単にホブゴブリンでしか無かった。


最後の攻撃をジャンプで交わすと、それは、そのまま死んでいった。

その先に、これだ、聖者の盾が、有った。



----------


「ステージ6:誠司、家に帰る」


誠司は、何だかぼんやりとしていた。

自分がふと、ゲームセンターで、200円を使っただけで、あの「ダークネスソルジャー」をクリアしていた、のだ。

・・・それまでは、何処か違う世界に居て、”あの”恰好をした戦士で、そして、何度も殺され続けていた・・・のだけど。


「・・・え?俺、クリアしたの?」

「何言ってんの?」


苦笑する孝也が何時そこに居たのか、不意に聞いてしまい、怪訝な顔をされた。



誠司は、混乱する記憶を何とか補正しながら、孝也と別れ、家に帰った。記憶は有る様な、無い様な。今は部活で、白魔導士オーラ、それを演じねばならない訳だが。ともかく自分のキャラを復活させる為には、あの包囲網を抜けねばならない?部長の意地悪と言うか、そう言うシナリオがどうなっていくのか、それはちょっと解らなかった。


部屋の中で1人、記憶が抜けている様な違う様な、彼は奇妙に混乱した中に居た。自分にとっても、”それ”は吉事だった。余計な事は考えた、難しいので止めようと思っていた、しかし。自分のキャラはあの「ダークネスソルジャー」の、プレイヤーキャラを摸したキャラだったのも、また事実だった。


普段通りに、特段なんの変りもないまま、夕飯を食べ、テレビを見つつ、部屋に戻る。スマホを弄りながら、「ダークネスソルジャー」の実況動画を見る。自分で、クリアしたのだろうか?そこはちょっと不安には成った。


リア・ラバートはその後、どうなったのだろう?


ともかく自分の、テーブルトークRPGのキャラは死んでいる、それを復活させねばならないが。リアは、手に入れた聖者の楯で、魔導士レイダーの野望を打開し得るのだろうか。


「ダークネスソルジャー」には、そろそろ続編の噂があった。



ちょっと、自分の作法、みたいな物の再確認として、少し。


導入を考え、全体テーマを取り、プロット(あらすじ)を書いてから、全文を書く。


果たして今、「面白い」は適当か否か。

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