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……。
魔法?
潜入専門の術かよ!?
なんて事だ!
今まで仲間だと思ってたのって、敵だったのか!
確かに、この2人の事を思い出せない。
なんか親しかった気はするけど。
「……えーと、イヤです」
「リータ様、その命令はきけません」
マギーとクララでいいのか?
2人は魔王の命令に従わなかった。
「は?」
魔王は目が点になっている。
「何を言ってる! ここ形勢逆転って所だろ! その冗談ツマンネ!」
「いやだって、リータ様って愛人作りすぎですよね?」
「ねえ」
マギーとクララは顔を見合わせている。
「いいから、やれって!」
魔王は顔を赤くして命令している。
「私、潜入してた時の記憶あるんですよ」
マギーは淡々として言った。
そういう性格なのだろうか、ジトーッとした感じのしゃべり方である。
「そうそう、どう見てもカイ殿の方が待遇良かったんですよねぇー」
クララも同意している。
「は、はぁー!?」
魔王は叫んだ。
ここでゴネられるとは思っていなかったのだろう。
かなり取り乱している。
「何言ってるんだよ、ここは敵を倒して…」
「イヤです」
「イヤなものはイヤです」
マギーとクララは再度拒否した。
周囲にいたオレらは何が起きたのか分からず、唖然とした感じで魔王と2人を見ている。
「リータ様」
アクールが言った。
「あなたは愛人を作りすぎている、私たちはいつも不満に思っていた」
「そうねぇ」
シェリルが同調した。
「リータ様よりカイ様の方が私を大事にしてくれましたよ」
「シェリル、お前もかー!」
魔王はどっかで聞いた台詞を言った。
「私は研究さえ出来ればどちらでも」
デュランデュランは言った。
「でも、カイ殿の方が色んな知識を持ってて良いですね」
ニヤリと笑っている。
さすが悪魔の末裔、冷たく不気味な笑いである。
「パトラ! パトラは私を選ぶよな?!」
パッとパトラの方を見る魔王。
「……」
だが、パトラは思案しているようだった。
おや、何だか形成がまたひっくり返ったようだぞ?
「リータ様、実は私も不満でした」
パトラもどうやら他の愛人さんと同じだったようです。
「ぐ…」
魔王は言葉に詰まった。
『はあ、やっぱりみんな不満持ってたのね』
ヒルデが肩をすくめる。
だが、ヒルデの声は魔王には聞こえてないようだった。
あ、やっぱ、見えてないのな。
「ちょっと、皆、あっちの戦闘止めさせてきて」
マギーが言うと、
「承知」
「はいな」
デュランデュランとパトラが正門の方へ行った。
まだあちらでは戦闘が繰り広げられている。
*
休戦。
幹部連中の都合で戦ったり止めたり、両軍とも不満タラタラだったが、一応戦闘は停止した。
「なんだ、戦ったり止めたり!?」
エリザベスが怒鳴っている。
「魔王様のご命令とあらば」
魔王軍の方が統率が取れているようだった。
「まあ、そう言わないでくれたまえ」
デュランデュランがエリザベスをなだめている。
「まずは生徒たちを帰そう」
デュランデュランはそう言って、次元の裂け目を開く魔法を使った。
天の御使いを帰すのは魔王軍に取ってもメリットがある。
戦って撃破するばかりが能ではない。
そう言って、魔王軍を説得したデュランデュランは抜け目がなかった。
幹部連中がグダグダになった今、そう言って物事を片付けてゆくのが合理的なのかもしれなかった。
シュミミン
と直径3メートルほどの黒い裂け目のようなものがグラウンドに出現する。
「お別れだな…」
オレは生徒たちに向かって言った。
「元気でな、男女」
始は少し涙ぐんでいた。
「カイ君、健壮で」
マサオはさみしそうだった。
途中からオレの代わりに生徒たちの面倒を見ていたから、オレの苦労が分かっていた唯一の生徒だった。
「お前もな」
オレはマサオの肩を叩く。
藤田「カイ君、さよなら」
谷「じゃあね」
蟹屋敷(ロン毛)「おう、あまりムリすんなよ?」
唐竹「先輩、今までありがとうございました」
炉縁「ううう、先輩…」
堂本「オレ、さっぱり活躍できませんでした…」
春巻「もっとこの世界の食を探求したかった…」
最後2人はただのグチだろ。
まあ、そんな風に別れの言葉を交わした。
こっちの世界に来てからは濃密な時間を過ごした。
これは皆同じだろう。
これでやっと皆を帰すことが出来、肩の荷が一つおりる。
「あー、ここどこだ?」
「どうなってんだ、これ?」
「先生、早く行きますよ!」
先生たちが混乱した状態のまま、生徒たちに押されて次元の裂け目に入ってゆく。
全員が裂け目に消えてゆき、そして、裂け目も消え失せていった。
……あ、学校残っちゃった。
*
「じゃあ、リータ様とカイ様、合一する」
アクールが言った。
「な、なんだそれ?」
魔王は驚いている。
だが、アクールの主張には一応の理由があった。
「リータ様もカイ様も魔力を使い過ぎてる」
「そうか、だから合体して魔力を取り戻そうということか」
デュランデュランがうなずいた。
「ま、肉体に霊体を取り込むのが安定化させるのに良いだろうな」
「それ私が吸収されるってことじゃん!」
魔王は渋ったが、
「でも、ヒルデと再会するにはそれしかないだろ」
オレが言うと、
「う…」
魔王はまた言葉に詰まった。
『はあ、カイとリータが合体するって、なんか不思議ね』
ヒルデはオレの隣で言ったが、やはり魔王には聞こえていないようだった。
「聞こえてないぜ」
オレは肩をすくめる。
「……うー、分かった、ヒルデと会えるなら、やる」
魔王はしばらく渋り倒していたが、遂に同意した。
『ふん、会えたら愛人とっかえひっかえしてた事、とっちめてやるから』
ヒルデはツンデレ。
「いつものヤツ」
オレは笑った。
さて、
「マギー、クララ」
オレは2人に向き直った。
「なにかな、カイ君」
「はい、カイ殿」
マギーとクララは、それぞれ性格が滲み出ている返事をする。
「君らがいなかったら、オレは多分、ここまでこれなかった」
オレは言った。
「ありがとう」
「いやー、照れるよー」
「ふふふ、いやですよ、カイ殿。恥ずかしい…」
マギーとクララは照れている。
「カイ様、私は?」
「カイ様、私は?」
アクールとシェリルがハモった。
「うん、君らもオレを支えてくれてありがとう」
オレは言った。
「えへ」
「うふ」
アクールとシェリルも照れている。
「デュランデュラン、お前がいなかったら皆を守ることも帰すこともできなかった。
改めて礼を言う」
オレはデュランデュランに向き直った。
頭を下げる。
「ふ…、お礼はイチャつくことで」
デュランデュランはニヤリと笑っている。
……冗談、なんだろうな。
「……」
パトラがその様子をジト目で見ている。
「私だけ仲間外れじゃないの!」
と、眼差しが語っていた。
「そろそろやるぞ」
魔王はスタンバっている。
「分かった」
オレは魔王の前に立った。
*
オレと魔王は向かい合って立った。
「お二人とも意識を同調させてください」
デュランデュランが傍らで言った。
誘導役だ。
「同調ってどうやるんだ?」
オレが聞くと、
「同じ事を考えてください」
デュランデュランは答える。
「女子のことを考えれば良かろう」
「……なんか不謹慎な気がするな」
でへへといった表情で魔王が言ったが、オレは眉をひそめた。
だが、他に案もない。
オレは魔王の言う通り、女の子のことを考えた。
マギー。
クララ。
アクール。
シェリル。
デュランデュラン。
そして、ヒルデ。
デュフフ。
思わずオレの顔が緩む。
見ると、魔王の顔も緩んでいた。
しかし、合一はできていない。
同調できていないのだ。
「リータ様、誰のことを考えたんですか?」
パトラがジト目のまま、聞いた。
「……う、も、もちろん、パトラのことだよ」
魔王は若干言い淀んだあと、答える。
「ウソですね」
パトラは敏感に察知した。
「いつもそうなんですよ、愛人を増やすことばかり考えていて!」
「お、落ち着こう! な?」
魔王は冷や汗をかいている。
別の娘さんの事を思い浮かべていたようだ。
「むー!」
パトラは唸った。
堪忍袋の緒が切れたらしい。
「いつもいつも、どうしてリータ様はそうなんですか!?」
「え、あ、うん、その……」
魔王は首を亀のように引っ込めて、しどろもどろになっている。
「それ、カイ君にも同じ事が言えるよね?」
気がつくと、マギーがジト目でオレを見ていた。
「だよねー、いつの間にか愛人増やしてたもん」
クララもうなずいている。
……いや、あの、君ら目が怖いよ、目が。
「そ、そうだっけ?」
オレは反射的に惚けてしまう。
それが、彼女たちの反応を過剰に引き出してしまったようだった。
「カイ様もリータ様と同じ!」
と、アクール。
「そうよねー、私で終わりと思ったけど、結局、デュランデュランも来ちゃったし…」
と、シェリル。
いや、それ、シェリルが提案したんじゃ…。
「私とイチャついてくれ」
と、デュランデュラン。
デュランデュランだけストーレトだなぁ。
オレが現実逃避してると、
「カイ君!」
「カイ殿!」
「カイ様!」
「カイ様!」
「カイ殿!」
5人がオレを責め始める。
「お、落ち着け、皆、落ち着け!」
オレは慌ててなだめようとする。
『ふん、自業自得ね』
ヒルデが遠巻きにして、つぶやく。
「うわー、やめれ!」
「うひー、カンベン!」
魔王とオレは頭を抱えて叫んだ。
いつの間にか、二人とも愛人さんたちに追い回されてしまっている。
その時だ。
ピカーッ
魔王とオレの身体が光を放った。
魔王の身体が霧のように細かく変化し、オレの身体に吸い込まれてゆく。
魔力が身体に満ちてくる。
「私の魔力を無駄にするなよ」
魔王はそう言い残してオレの身体の中に溶け込んだ。
*
合体が終了した。
「……」
「……」
気付くと、エリザベスとバークレーがジト目でオレを見ていた。
魔王軍の指揮官クラスの連中も同じように見ている。
うわ、見られてたの?
「えっと、あの、そういうことで、魔王になっちゃいましたw」
オレが言うと、
「……あ、うん」
「ほえー」
エリザベスもバークレーも何と言って良いかわからないといった感じで、声を絞り出す。
「……我々、アスガルドに帰ったらどう説明しましょう?」
バークレーはそこで悩んでいるようだった。
「うーん、皆、帰りました?」
オレは腕組みしながら、答える。
「オレもこんなだし、マギーもクララも実は魔王軍の人だったし、生徒達は帰ったし」
「どうしてこうなった?」
エリザベスはコメカミに人差し指を当てて、唸った。