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学校からエリック男爵の城へ戻ると、エリザベスさんに話をする。
「遺跡には次元の裂け目が残っていた」
デュランデュランさんが補足してくれたので、説明がやりやすかった。
あたしと美紀ちゃんだけでは上手く説明仕切れないので、助かる。
「では、皆を連れて学校とやらへ行こう」
エリザベスさんは言った。
「エリザベス殿」
と、言いつつやってきたのは……あれ? 誰だっけ?
「……ムランゲでござる」
自己紹介をしたところを見ると、皆の表情から忘れられてることを悟ったのかも。
「護衛はご要りようですかな?」
ムランゲさんは聞いた。
察するに、エリック男爵にあたしたちの世話をするよう言われてるようだね。
「どうかな?」
エリザベスさんはバークレーさんを見た。
隊ではエリザベスさんが参謀役のバークレーさんの意見を求めるのは、いつものことだ。
「ふむ、エリック男爵のご厚意を断るのも失礼に当たります」
バークレーさんは言った。
「ありがたくお受けするべきでしょう」
「うむ」
エリザベスさんはうなずいた。
ムランゲさんは律儀に結論を待っている。
貴族としての礼儀なのかもしれない。
「是非、お願いしたい」
エリザベスさんはお願いした。
「かしこまりました」
ムランゲさんはうなずいて、クルリと踵を返す。
……なんかの劇のワンシーンみたい。
*
すぐにクラスの代表者たちに連絡し、出立の手筈を整えた。
遂に帰る時が来た。
あたしは帰る気はない。
美紀ちゃんも同じだろう。
見送るだけだ。
カイ君がいないのが残念だけど、選り好みしてられる場合じゃないからね。
てか、カイ君、勝手にテレポートで行ってしまうとか、帰ってきたらどんな技で昏倒させてやろうか。
そんなことを考えながら林の中を歩いてゆき、学校まで到着する。
「む…」
先頭を歩いていたデュランデュランさんの表情が曇る。
「どうかしました?」
あたしが聞くと、
「気配がする」
ニンジャみたいなことを言う。
「え、気配って何の?」
「……魔王軍だな」
エリザベスさんが悟ったようで、
「皆、止まれ」
足を止める。
「どうしたんだ?」
ロン毛が先頭までやってきて聞いてくる。
コイツ神経質だよなー。
「魔王軍らしいよ。あ、でも、まだ皆には伏せていてね」
あたしは言って、口の前に人差し指をもってきた。
「なんでだよ?」
ロン毛は不服そうに聞くが、
「皆が不安でパニックになるから」
あたしが答えると
「あー…」
ロン毛はうなずいた。
最初の頃からすると、コイツも物事に対する理解力が高まったなぁ。
「頃合いを見て伝えるように指示するから」
「分かった」
ロン毛は列の後ろへ戻っていく。
このことをマサオたち代表者たちに伝えている。
「美紀ちゃん、皆には休憩って伝えて」
あたしは隣にいた美紀ちゃんに言って、自分も列の後ろへ行く。
「オッケー」
美紀ちゃんはうなずいて、あたしの後を追う。
『2人とも気配り大変ねぇ』
ヒルデさんが肩をすくめた。
生徒たちは休息中。
エリザベスさんとバークレーさんは、列の先頭のでムランゲさん率いる護衛隊と話していた。
あたしと美紀ちゃん、ヒルデさん、デュランデュランさんは、マサオやロン毛たちクラスの代表者たちと話している。
「魔王軍と戦うには兵数が少なすぎる。
一度、安全な所まで引き返して、援軍を要請すべきだな」
デュランデュランさんが言ったので、エリザベスさんとバークレーさんはムランゲさんにそれを伝えているのだった。
「とりあえず、一旦引いて、援軍を要請してもらう」
すぐにエリザベスさんが戻ってきて、言った。
「了解」
あたしたちはそれに従って、動く。
生徒たちには事実を伝えていた。
最初の頃とは違って、下手に動く者はいなかった。
言うことを聞いていれば大丈夫。
と、皆、思っている。
これもカイ君がしっかり導いてきたからだろう。
生徒たちとの信頼が出来ているということだ。
でも、時間が掛かればそれも崩れてくる。
あたしは少し焦った。
カイ君がいれば、舌先三寸で丸め込めるんだろうけど、今はいない。
「美紀ちゃん」
あたしは傍らにいる美紀ちゃんを見た。
「皆を無事に帰そう」
「うん、そうだね」
美紀ちゃんはうなずく。
そのためには犠牲も厭わない。
カイ君には悪いけど、カイ君ならそうするだろう。
あたしは密かに心中思った。
*
オレらはカゴに入れられたまま、魔王軍の援軍が着いた。
なんと、有人ゴーレムが飛行機にドッキングされていて、空中を運んできていた。
「うわ、運んで来やがった」
オレは心底驚き、魔王軍の力を見くびっていた事を知った。
「カイ様、もしかして学校に来てるのって」
アクールが言った。
「姉…タマキさんたちじゃないですか?」
「うん、そうかもな」
オレはうなずく。
消去法で考えれば、それが一番可能性が高い。
他の遺跡荒しと考えられなくもないが、それだと魔王軍がスタンバイする理由が分からない。
アルガルド軍やそれに関係する軍だから、魔王軍も戦力を投入する訳だ。
「しかし、有人ゴーレムまで運んでくるとはな」
「タマキさんたちは有人ゴーレム持ってますかね」
アクールは心配している。
どういう経緯で学校へ来ているのか分からないので、全く読めない。
というか、なんで学校へ?
オレは考えたが分からなかった。
「おい、お主の仲間が100人ばかり来てるそうだぞ」
そこへ魔王が声を掛けてくる。
「まさか!?」
オレは驚いた。
「なんで、学校に来てるんだ?」
「私に聞くな」
魔王は肩をすくめる。
「理由はお主の方が分かるだろ」
「……」
オレは黙った。
多分、デュランデュランだ。
空間の魔法を使うデュランデュランが関わってる。
もしかしたら、帰る方法を発見したのかもしれない。
だけど、ナムール領での戦はどうしたんだ?
一旦は収まったとは言え、まだ交戦中のはずだ。
それをほっぽり出して辺境まで来るなんて、どういうことだ?
「なんてな」
魔王は悪戯っぽく言った。
「実は密偵から情報は得ているのだ」
「どんな?」
「アスガルドでは一部の貴族勢力が天の御使いを排斥している、と」
魔王はニヤニヤしながら答える。
オレの反応を楽しんでいるのだろう。
オレは顔面蒼白。
まさか、そんなことが……。
「カイ様」
アクールが心配そうにオレを見ている。
「ここに来ていると言うことは無事だってこと」
「……そ、そうだよな」
オレはその言葉に若干救われた。
冷静になった。
「果たしてそうかな? 向こうは有人ゴーレムは持ってないんじゃないか?」
魔王は面白がっているようだ。
戦力的には明らかに魔王軍の方が優勢だ。
「……」
オレは答えられなかった。
「ふふふ、ヨシッ、優位を取ったぞ!」
魔王はマウントを取ることに快感でも感じているのか、ガッツポーズで喜んでいる。
くっ…。
悔しいがこれは覆す術が思いつかん。
ちなみに、早いところで気付いたのだが、魔王軍の連中はアクールには一切触れてこない。
無視しているとは違う感じで、ちょうど腫れ物みたいな扱いをしている。
だが、それでいい。
あまり注意を引いてしまうと、これからの処遇に問題が出てくるんだろう。
オレは現実逃避してみる。
「なんじゃ、言い返せぬのか」
魔王はつまらなさそうに言った。
「ここは負けだ」
オレはため息とともに答えた。
「つまらんのう」
魔王は興が削がれたとばかり、
「別にお前を楽しませるために居る訳じゃない」
オレはそっぽを向いた。
「こちらができるのは交渉を持ちかけることくらいだ」
そして、言った。
「おお、こんな劣勢だというに、減らず口じゃのう」
魔王はちょっと驚いていたが、
「じゃが、そんなもの受ける訳がない。メリットがないからな」
ひらひらと手を振って、定位置の椅子の方へと去って行く。
「そうかい」
オレは肩をすくめた。
強がりであるが、口八丁で何かを掴むくらいしか方法がない。