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学校からエリック男爵の城へ戻ると、エリザベスさんに話をする。


「遺跡には次元の裂け目が残っていた」

デュランデュランさんが補足してくれたので、説明がやりやすかった。

あたしと美紀ちゃんだけでは上手く説明仕切れないので、助かる。


「では、皆を連れて学校とやらへ行こう」

エリザベスさんは言った。


「エリザベス殿」

と、言いつつやってきたのは……あれ? 誰だっけ?

「……ムランゲでござる」

自己紹介をしたところを見ると、皆の表情から忘れられてることを悟ったのかも。

「護衛はご要りようですかな?」

ムランゲさんは聞いた。

察するに、エリック男爵にあたしたちの世話をするよう言われてるようだね。


「どうかな?」

エリザベスさんはバークレーさんを見た。

隊ではエリザベスさんが参謀役のバークレーさんの意見を求めるのは、いつものことだ。

「ふむ、エリック男爵のご厚意を断るのも失礼に当たります」

バークレーさんは言った。

「ありがたくお受けするべきでしょう」

「うむ」

エリザベスさんはうなずいた。

ムランゲさんは律儀に結論を待っている。

貴族としての礼儀なのかもしれない。

「是非、お願いしたい」

エリザベスさんはお願いした。

「かしこまりました」

ムランゲさんはうなずいて、クルリと踵を返す。


……なんかの劇のワンシーンみたい。



すぐにクラスの代表者たちに連絡し、出立の手筈を整えた。

遂に帰る時が来た。


あたしは帰る気はない。

美紀ちゃんも同じだろう。

見送るだけだ。


カイ君がいないのが残念だけど、選り好みしてられる場合じゃないからね。

てか、カイ君、勝手にテレポートで行ってしまうとか、帰ってきたらどんな技で昏倒させてやろうか。

そんなことを考えながら林の中を歩いてゆき、学校まで到着する。


「む…」

先頭を歩いていたデュランデュランさんの表情が曇る。

「どうかしました?」

あたしが聞くと、

「気配がする」

ニンジャみたいなことを言う。

「え、気配って何の?」

「……魔王軍だな」

エリザベスさんが悟ったようで、

「皆、止まれ」

足を止める。

「どうしたんだ?」

ロン毛が先頭までやってきて聞いてくる。

コイツ神経質だよなー。

「魔王軍らしいよ。あ、でも、まだ皆には伏せていてね」

あたしは言って、口の前に人差し指をもってきた。

「なんでだよ?」

ロン毛は不服そうに聞くが、

「皆が不安でパニックになるから」

あたしが答えると

「あー…」

ロン毛はうなずいた。

最初の頃からすると、コイツも物事に対する理解力が高まったなぁ。

「頃合いを見て伝えるように指示するから」

「分かった」

ロン毛は列の後ろへ戻っていく。

このことをマサオたち代表者たちに伝えている。

「美紀ちゃん、皆には休憩って伝えて」

あたしは隣にいた美紀ちゃんに言って、自分も列の後ろへ行く。

「オッケー」

美紀ちゃんはうなずいて、あたしの後を追う。

『2人とも気配り大変ねぇ』

ヒルデさんが肩をすくめた。


生徒たちは休息中。

エリザベスさんとバークレーさんは、列の先頭のでムランゲさん率いる護衛隊と話していた。

あたしと美紀ちゃん、ヒルデさん、デュランデュランさんは、マサオやロン毛たちクラスの代表者たちと話している。


「魔王軍と戦うには兵数が少なすぎる。

 一度、安全な所まで引き返して、援軍を要請すべきだな」

デュランデュランさんが言ったので、エリザベスさんとバークレーさんはムランゲさんにそれを伝えているのだった。


「とりあえず、一旦引いて、援軍を要請してもらう」

すぐにエリザベスさんが戻ってきて、言った。

「了解」

あたしたちはそれに従って、動く。

生徒たちには事実を伝えていた。

最初の頃とは違って、下手に動く者はいなかった。


言うことを聞いていれば大丈夫。

と、皆、思っている。


これもカイ君がしっかり導いてきたからだろう。

生徒たちとの信頼が出来ているということだ。


でも、時間が掛かればそれも崩れてくる。

あたしは少し焦った。

カイ君がいれば、舌先三寸で丸め込めるんだろうけど、今はいない。


「美紀ちゃん」

あたしは傍らにいる美紀ちゃんを見た。

「皆を無事に帰そう」

「うん、そうだね」

美紀ちゃんはうなずく。


そのためには犠牲も厭わない。

カイ君には悪いけど、カイ君ならそうするだろう。


あたしは密かに心中思った。



オレらはカゴに入れられたまま、魔王軍の援軍が着いた。

なんと、有人ゴーレムが飛行機にドッキングされていて、空中を運んできていた。

「うわ、運んで来やがった」

オレは心底驚き、魔王軍の力を見くびっていた事を知った。

「カイ様、もしかして学校に来てるのって」

アクールが言った。

「姉…タマキさんたちじゃないですか?」

「うん、そうかもな」

オレはうなずく。

消去法で考えれば、それが一番可能性が高い。

他の遺跡荒しと考えられなくもないが、それだと魔王軍がスタンバイする理由が分からない。

アルガルド軍やそれに関係する軍だから、魔王軍も戦力を投入する訳だ。


「しかし、有人ゴーレムまで運んでくるとはな」

「タマキさんたちは有人ゴーレム持ってますかね」

アクールは心配している。

どういう経緯で学校へ来ているのか分からないので、全く読めない。


というか、なんで学校へ?

オレは考えたが分からなかった。


「おい、お主の仲間が100人ばかり来てるそうだぞ」

そこへ魔王が声を掛けてくる。

「まさか!?」

オレは驚いた。

「なんで、学校に来てるんだ?」

「私に聞くな」

魔王は肩をすくめる。

「理由はお主の方が分かるだろ」

「……」

オレは黙った。


多分、デュランデュランだ。

空間の魔法を使うデュランデュランが関わってる。

もしかしたら、帰る方法を発見したのかもしれない。


だけど、ナムール領での戦はどうしたんだ?

一旦は収まったとは言え、まだ交戦中のはずだ。

それをほっぽり出して辺境まで来るなんて、どういうことだ?


「なんてな」

魔王は悪戯っぽく言った。

「実は密偵から情報は得ているのだ」

「どんな?」

「アスガルドでは一部の貴族勢力が天の御使いを排斥している、と」

魔王はニヤニヤしながら答える。

オレの反応を楽しんでいるのだろう。


オレは顔面蒼白。

まさか、そんなことが……。


「カイ様」

アクールが心配そうにオレを見ている。

「ここに来ていると言うことは無事だってこと」

「……そ、そうだよな」

オレはその言葉に若干救われた。

冷静になった。

「果たしてそうかな? 向こうは有人ゴーレムは持ってないんじゃないか?」

魔王は面白がっているようだ。

戦力的には明らかに魔王軍の方が優勢だ。


「……」

オレは答えられなかった。

「ふふふ、ヨシッ、優位を取ったぞ!」

魔王はマウントを取ることに快感でも感じているのか、ガッツポーズで喜んでいる。


くっ…。

悔しいがこれは覆す術が思いつかん。


ちなみに、早いところで気付いたのだが、魔王軍の連中はアクールには一切触れてこない。

無視しているとは違う感じで、ちょうど腫れ物みたいな扱いをしている。

だが、それでいい。

あまり注意を引いてしまうと、これからの処遇に問題が出てくるんだろう。


オレは現実逃避してみる。


「なんじゃ、言い返せぬのか」

魔王はつまらなさそうに言った。

「ここは負けだ」

オレはため息とともに答えた。

「つまらんのう」

魔王は興が削がれたとばかり、

「別にお前を楽しませるために居る訳じゃない」

オレはそっぽを向いた。

「こちらができるのは交渉を持ちかけることくらいだ」

そして、言った。

「おお、こんな劣勢だというに、減らず口じゃのう」

魔王はちょっと驚いていたが、

「じゃが、そんなもの受ける訳がない。メリットがないからな」

ひらひらと手を振って、定位置の椅子の方へと去って行く。

「そうかい」

オレは肩をすくめた。

強がりであるが、口八丁で何かを掴むくらいしか方法がない。


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