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魔王軍の飛行機はレビテーションで浮遊して、風の魔法で推進する仕組みらしい。
二つの機構に賢者の石を使用している。
すげえ金かけてやがんな。
魔王軍は有人ゴーレムもそうだったが、まさに金に糸目を掛けずに作ってるって感じだ。
かなりスピードが出ている。
「デュランデュラン以外にも技術者がいるんだな」
オレはつぶやいた。
「デュランデュランが育てた者たちがいる」
アクールが答える。
「技術を一から叩き込んでいるから、デュランデュランがいなくても行動できるはず」
「ふーん、やっぱ魔王軍こえーな」
オレは呻くように言った。
こんなセリフは魔王本人には聞かせられない。
また調子に乗られてムカつくからだ。
「この飛行機にしたって、普通すぐ作れるかよ」
「……」
アクールは黙って聞いている。
「基礎ができてるからこそ、見てすぐ真似できるんだ」
オレは半ば独り言っぽくしゃべっている。
「そういう連中は怖い、対応力がある」
「私たちはただ生き延びたいだけ」
アクールはポツリと言った。
「それには頭を使うしかない」
「頑張ってきたんだな、アクールたちは」
オレは言った。
アクールはちょっと照れたようだった。
頬が赤く染まっている。
魔王軍飛行機は全部で三機。
一応、編隊を組んで飛行していて、1日程度で辺境へ到達する。
時折、食事、トイレタイムを挟んでくれるので、待遇はまあ悪くない。
さすがに風呂は入れないが。
空は早いな。
オレは、これからの事を思案したが、良いアイディアは浮かばない。
オレが感情に任せてテレポートした時から、計画が破綻したのだ。
自分で自分の計画を…。
もう考えるのはやめよう。
魔王は今すぐにオレを始末する気はないようだし、様子を見て何か打開策を…。
そんなことを考えていると、
「おい、天の御使い」
魔王がこちらを見ていた。
いつの間に……と一瞬思ったが、オレが考えに没頭していただけか。
「なんだ?」
オレはぶっきらぼうに返す。
「そろそろ目的地に着くぞ」
魔王は言った。
視線はこちらへ向けたまま、アクールのカゴの方へ歩いて行く。
自然、アクールの視線が魔王へ向けられた。
「そなたは、ゴーレム隊の指揮官だな」
魔王は背を向けたままで言った。
アクールはハッとなった(急に話しかけられたからか?)ようだが、
「そうだ」
短く答える。
「協議の結果、死刑にする」
「え?!」
「なんだと!?」
魔王が言い渡すと、アクールとオレは驚いて叫んだ。
「お前、黙れ」
魔王はオレを睨み付ける。
「部外者が口をはさむでない!」
「はぁ!? 部外者じゃねえし! てか、アクールはお前の……!」
オレが焦ってしゃべると、
「黙れと言っている!」
魔王はピシャリと言った。
う……。
魔王の眼光に射すくめられるというか、何か必死な形相に、オレは思わず黙った。
「……」
アクールは答えない。
「しかと言い渡したぞ」
魔王はそれだけ言うと、
「ところで、天の御使い、お主は何がしたかったのだ?」
まるでアクールのことなど忘れたかのように、しゃべり始める。
ん?
なんだ、このやり取り。
……。
……。
……そういうことか。
「戦場にいきなりテレポートしてくるなど狂気の沙汰だ」
魔王は続けてしゃべっている。
「一体、何がしたい?」
「……ふん、アクールが心配だったんだ」
オレは言った。
少し頬が熱くなっている。
「アホじゃな」
魔王は呆れている。
「うるせー」
オレは顔を背けた。
魔王の視線が痛かったからだ。
*
しばらくして辺境に着いた。
オレらはすぐに飛行機から落とされる。
いつぞやエリザベスたちを出会った学校の近くの野原だ。
ゴブリンたちとも会ったけど。
すでに長い月日が経ってるような気がする。
飛行機は待機状態。
パトラを隊長にした近衛隊が魔王を警護している。
野原には野営地があって、魔王軍の部隊が駐屯しているようだった。
ずっとこっちも張っていたのか。
じゃあ、オレらが戻ってきた時も、コイツらいたのか?
「やーやー、皆、ご苦労」
魔王は気さくに愛想を振りまいている。
「魔王様、お早いお着きで」
「どうぞこちらへ」
「うむ、苦しゅうない」
現地で待機していた部下たちの誘導で、設置された天蓋へ行く。
天蓋には椅子が置いてあり、そこに座ると、パトラ率いる近衛隊がお茶の用意をし始める。
それをオレとアクールは眺めている。
近衛隊は護衛というよりお世話係っぽい。
「あちらの動向は?」
魔王が茶を一口飲んでから聞くと、
「はっ、数人で遺跡の偵察に来ております」
「エリック・シュナイダーの城にいるようで」
部下たちはすぐに答えた。
情報収集部隊なのか。
なら、無闇に攻撃してこなくてもうなずける。
偵察?
エリック男爵の城にいるって、誰のことだ?
オレは思ったが、ここで聞く訳にもいかない。
黙って会話に耳を傾けている。
「今、飛行機で1個大隊がこちらへ向かっています」
「向こうはアスガルドの一部隊、エリックの軍5部隊程度の戦力です」
「うむ、援軍が到着次第、遺跡を制圧じゃ」
部下の報告を受け、魔王は決定を下した。
どうやら魔王軍の飛行機は量産されており、結構な規模を輸送することが出来るようだ。
ちなみに1部隊は15人程度がこちらの世界では普通らしい。
魔王軍は大隊。
大隊は6部隊で構成され、工兵、衛生兵などを含め、約100人の規模だ。
こちらはエリザベス隊、エリック軍5部隊で6部隊。人数にすると90人程度。
ほぼ同等の戦力だ。
魔王軍は他にも戦力を布陣しているため、裂ける戦力はギリギリまで落としたいのだろう。
戦線が拡大しているのだろうな。
一昔前の日本軍みたいだ。
違うのは他国の切り崩し工作に余念がないということ。
「魔力」
「え?」
アクールが唐突に言ったので、オレは聞き返した。
「カイ様、魔法を使い過ぎ、魔力が落ちてる」
アクールは説明を始めた。
「リータ様も同じ。強力な魔法を続けて使い過ぎ」
「……でも、アクールを助けるためだったんだ」
オレは弁解した。
「それには感謝してる」
アクールはちょっとうつむき加減で言う。
頬が少し赤い。
「でも、この先、魔法だけに頼るのは危険」
「…分かった、ありがとうな」
オレが礼を言うと、
「……」
アクールの頬がさらに赤くなったようだった。
*
あたしたちは学校に戻ってきていた。
学校は無人の状態でほったらかしになっているので、かなり荒廃してきている。
教室はホコリまみれになっており、虫の姿や蜘蛛の巣が至るところに見られる。
「ふー、何か、分かる?」
あたしは、後ろにいるデュランデュランさんを見た。
「思った通りだ、次元の裂け目が残っているな」
デュランデュランさんは答えた。
どうやら、デュランデュランさんの目には、あたしたちには見えないモノが見えているらしい。
「鐶ちゃん、少し休憩しよ?」
美紀ちゃんがあたしの肩を叩く。
見ると、バークレーさんが肩で息をしていた。
「おk、小休止ね」
あたしは言った。
かなり強行軍で来てしまったためか、バークレーさんにはキツかったようだ。
あたしは慣れてるから大丈夫だし、デュランデュランさんは悪魔の末裔だからか体力が常人とは違うようだ。
ヒルデさんは幽霊なので、人とは体力が異なるらしい。
分からないのは美紀ちゃんだ。
なぜかバカみたいな体力をしているのが判明してきている。
なぜ?
あたしは思った。
ザザッ
その途端、思考が乱れ…
……あれ、なんだっけ?
あたしは次の瞬間、先ほど考えていた事を忘れていた。
休憩を挟んでから、デュランデュランさんが学校の中を見て回る。
あたしたちはそれに着いて行く。
「次元の裂け目を再度活性化させてやれば元の世界に返すことは可能だろう」
デュランデュランさんは言った。
「じゃあ、皆さんを連れて今一度来ましょう」
バークレーさんは決意にも似たものを口にする。
今のアスガルドの状況を考えると、それが最も良さそうに思える。
貴族の一部勢力が、カイ君とあたしたち生徒を追い落とそうとしているのだ。
まあ、カイ君とあたしたち恋人連中が一緒に元の世界へ帰るか否かは別として、生徒たちはこのままこちらの世界へ居ても仕方がない。
いつかは帰れる……という希望を胸にしていても、時間は無慈悲に過ぎていって老いてしまうのだ。
可能性があるのなら、試すべきだろう。
「決まりだね」
あたしは腰を上げた。