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オレとアクールは妙なカゴに入れられた。

一言で述べるとデカい鳥カゴ。

「このカゴには魔法封じが掛けてあるゆえ、魔法は使えぬ」

魔王は言った。

オレとほぼ同じ顔立ちで、体型もほぼ同じ。

違うのは髪型くらいか。

長い髪を結ってまとめている。

行軍のため、服装は黒色のピッタリした上下、下はズボンだった。

その上にマントを羽織っている。


リータ。

魔族の王にして、強大な魔力を有す化け物だ。

元はシェイプチェンジャーとかドッペルゲンガーと言われる魔物。

ヒルデと同じく、既に死んでいて、霊体が長い年月を経て凝り固まり、肉体を得たものらしい。

某RPGではリッチとか言うんじゃなかろうか。


「カイ様、何言ってるか分からない」

アクールが感想を言っている。

「気にするな、戯れ言だし」

オレは肩をすくめる。


オレたちはカゴに入れられて、魔王軍の中にいた。

要するに捕虜だ。

カゴはトロールたちが引いている。

魔王軍は移動中だ。

いつまでもナムール領にいても逆襲されるだけなので、当然、安全な場所まで移動する事になる。


「おい、トイレはどうするんだ?」

オレは即座に言った。

「しばらくは我慢するがよい」

魔王はカゴの近くに陣取っている。

移動用の椅子に座って、お茶を飲んでいる。

もちろん、椅子を担いでいるのは筋力自慢の魔族兵たちである。

包帯女を始めとする幹部たちがその周囲に待機していた。

「ムチャ言うな」

オレは憤慨。

「冗談じゃ、怒りっぽいのうお主」

魔王は余裕の表情だ。

扇子みたいなものを開いて煽いでいる。

ムスペルヘイムは日差しが強くて暑いからだった。

「尿瓶を入れてやる、催した時はそれを使うがよいぞ」

「公衆の面前でしろって言うのかよ」

オレは続けて言った。

「面倒じゃなぁ、尿瓶を使う時は言うが良い。足を止めて覆いを被せてやるぞ」

魔王は面倒臭そうに言い放つ。

「礼は言わない」

オレはせめてもの反抗といった感じで、そっぽを向く。


「しかし、お主は本当に私と似ているのう」

魔王は構わずに話しかけてくる。

「元が同じそうだからな」

オレは一応、受け答えした。

こういう時はしゃべって情報を少しでも増やす方がいいと思ったからだ。

「ふむ、あの時、別れ別れになった方がお主か」

魔王は興味深そうにオレを眺めているが、

「覚えていない。オレは転生してるんでね」

オレは正直なところを答える。

記憶の断片的なものは持っているのだが、夢と大差ない。

身体の変化や魔法を使うといった現象がなければ、恐らく妄想だと片付けていただろう。


「お前の方はどうなんだ?」

オレは逆に聞いた。

「何が、どうなのじゃ?」

魔王は質問を質問で返した。

わざとだな。

会話を楽しんでいる節すらある。

「もう忘れてしまったのか、ヒルデのこと」

オレが言うと、

「なにッ!?」

魔王は急に取り乱し始める。

顔色が赤くなったり青くなったりしているようだった。

「ヒルデの事を覚えておるのか!?」

魔王は宙を舞って、カゴの格子をつかんだ。

魔力云々もそうだが、霊体が超強力になって肉体を得てるんだよな、コイツ。

めっちゃ食いついてきたな。

そりゃ、意識があの子のまま継続しているのだから、当然か。

お付きの魔族たちがざわついている。


「実はな、ヒルデも幽霊になってたんだよ」

オレはカミングアウト。

「……なんじゃと!」

魔王は驚きのあまり言葉が出なくなったようだ。

「幽霊同士は見えない事がよくあるそうだな」

オレは続けた。

「……」

魔王は答えない。

「ヒルデと会ったぜ」

オレが言うと、

「……ずるい」

魔王はポツリとこぼした。

「私は諦めていた。会えぬと思っていた」

「だから、女の子をとっかえひっかえしてたのか?」

「なに!?」

魔王は、驚愕と後悔と嬉しさと羞恥がゴチャマゼになったような表情をしている。

「ヒルデにバレてるぞ」

オレが言うと、

「うっ……」

魔王はタラリと脂汗を流し出す。

「そ、そりは非常にマズイ……」

「ま、そうだろうなぁ」

「う、煩い!」

魔王は怒って誤魔化す。

「ヒルデを失った寂しさが分かるか!?」

「いや、だからといって愛人作りまくるのはなぁ」

オレがさらに言うと、

「ぐっ…」

魔王は言葉に詰まった。

「チ、チクショウッ」

魔王は捨て台詞を言うと、椅子を超えて飛び去っていく。


「リータ様!」

包帯女とその部下たちがその後を追った。



魔王が拗ねてしまったので、行軍が止まった。

包帯女たちが魔王の機嫌を直そうと、色々やってるところらしい。

オレのお陰で魔王軍はとばっちりである。

ぐへへ、いい気味だぜ。


「カイ様、陰険…」

アクールがジト目でオレを見ている。

「ふん、女の子をとっかえひっかえしてるのが悪い」

オレは舌を出す。

「アクールだって魔王に文句あったんじゃないのか?」

「……うん、あった」

若干、間があったものの、アクールは正直に答えた。

「カイ様は私を入れてもまだ6人」


鐶、美紀、ヒルデ、アクール、シェリル、デュランデュラン。

うん、確かに6人だな。


「ま、まあ、普通は6人でも多いけどな」

「そう、どちらもダメ人間」

アクールはジロリとオレを見やる。

オレは口笛を吹きながら、視線を逸らした。

「でも、リータ様の愛人は多すぎる」

アクールはギリギリと歯ぎしりしながら、言葉を絞り出した。

「えーと、実際何人くらいなの?」

オレが興味本位で聞いたら、

「50人までは数えた…」

アクールはドス黒いオーラを出しつつ、答える。


うわ。

魔王ヒドス。

そして、アクール怖い。

それって、江戸時代の大奥とか古代中国の後宮並みじゃん。


「オ、オレはそんなに集める気はないからな」

オレが言い訳っぽく言うと、

「当然」

アクールはジロリとオレを睨む。

「てか、死にたければどうぞご勝手に」

「いやーん、アクールちゃん、こわーい」

オレが茶化すと、

「……」

アクールはもの凄い目でオレを睨んだので、

「ゴメ、ちょっとした冗談、ゴメンて」

オレはすぐ謝った。

ヤベー、この娘、思い詰めるクセがあるからな。

「……ふん」

アクールはそっぽを向いた。



しばらくして、魔王が立ち直ったので、行軍再開となった。


包帯女、どうやらパトラというらしい。

パトラと取り巻き連中が、ひたすら持ち上げて盛り上げた後、やっと復活したみたいだ。


「チッ、すぐ復活しやがった」

オレは舌打ちするが、

「ちと取り乱してしまったが、私は無敵ッ」

魔王はバカっぽく力説している。

「ヒルデには後で謝るからヨシッ」

猫みたいな何かのようなポーズとセリフを言って、ふんぞり返っている。


チッ、思ったよりアホだった、この魔王……。

てか、やっぱヒルデのことは怖いんだな。

ま、どうやって見えるようにするのか分からんけど。

なんか方法でもあるんだろうか?


「残念だったな、精神攻撃など効かぬわ!」

魔王は言った。

「いや、思いっきり効いてただろ、さっき!」

オレは吐き捨てるように言ったが、

「ワハハハハハハ」

魔王は意味も無く笑い飛ばしている。


「リータ様、例の辺境の遺跡に何物かが入ってきたようです」

お付きの魔法使いらしい女が言った。

「む、そうか」

魔王の表情がさっと変化する。


チッ、折角、コイツの気を緩ませたのに。

もう魔王のスイッチが入っちまった。


腐っても魔王だ。

数々の策略・戦術・魔法を使って魔族を引っ張り、他国を押しのけてのし上がってきたのは伊達じゃない。


「では、我らも遺跡に向かうとするか」

魔王は宣言した。

「これより、私は遺跡に向かう!

 皆の者はこのままナムール領に留まっておくれ」

「はっ」

部隊長以下、平頭して命を受ける。

「パトラ、新型を使うぞ」

「はい、只今連絡を取っております」

パトラは慇懃にうなずいた。


新型?


「おい、新型ってなんだ?」

オレは思わず聞いた。

「見てれば分かる」

パトラが面倒くさそうに答えた。

「ふん、我が魔族の技術も日々向上しておる!」

魔王がワハハと笑って言った。

「お前らの飛行機械だけではないぞ、空を飛ぶ乗り物は」

「げ、飛行機まで作ってるのか」

オレはちょっとビックリして言った。

デュランデュランがいないのに、結構作ってるのな。

「ふふふ、技術者はデュランデュランだけではない」

魔王は、オレの考えを見透かしたかのように言う。


有人ゴーレム、飛行機……真似するのが上手いな。

真似れるというのは、その機構に対する理解度が高いからだ。


「……」

「お、やっと優位に立てたな、私の方が上に立ったぞ、フィー!」

魔王は諸手を挙げて喜んでいる。

ガキか。


そして、オレとアクールはカゴに入ったまま飛行機へ載せられた。

いわゆる貨物室だ。

荷物扱いかよ。


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