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「どうなったの!?」
「デュランデュランさん!」
鐶と美紀がデュランデュランを見た。
「分からん」
デュランデュランはあくまで冷静に言う。
「私は映像系の魔法は使えないんだ」
「じゃあ、テレポートで……!」
美紀が言いかけたが、
「それはダメだ」
キューブリック将軍が制止した。
「カイ殿は自制が効かず先走った。
上に立つ者としては失態としか言い様がない」
「ぐ…」
美紀は口ごもる。
「……まあ、その理由は同情に値すると思うがな」
キューブリック将軍は少しの間の後に、そう付け加えた。
部屋にいる兵士たちは何も言わないが、キューブリック将軍に従うつもりらしいのが見て取れる。
「そこまで」
部屋に誰かが入ってきた。
ぞろぞろと憲兵を伴っている。
「ラル殿?」
キューブリック将軍が入り口の方を見る。
「カイ殿はおられますかな?」
「カイ殿にはある嫌疑が掛かっておる」
「王にも報告済みだ」
ラルとその取り巻きたちが口々に言った。
書状のような物を手にしていた。
「……」
「……」
「……今、席を外したが、どのような用です?」
一瞬、妙な空気が流れたが、キューブリック将軍は落ち着いた様子で答えた。
「カイ殿は魔王の身内だと言う嫌疑だ」
ラルが言い渡した。
ドヤ。
って顔だ。
「ふむ、にわかには信じられぬ事ですなぁ」
キューブリック将軍は言った。
懐からタバコを取り出している。
「吸ってもよろしいですかな?」
「……好きに致せば良い」
ラルは若干逡巡したが、言った。
キューブリック将軍は時間を稼いでいるのだ。
鐶は直感的に悟った。
(美紀ちゃん、逃げるよ?)
(え?)
鐶は美紀に囁いて、デュランデュランを見た。
無言でも言いたい事は伝わったらしい、デュランデュランはうなずく。
「テレポート!」
デュランデュランは、すっと2人に近づいて、叫んだ。
*
シュン。
と目の前の景色がかき消え、次の瞬間には宿に戻っていた。
『あら、魔法で帰ってくるなんて珍しいわね』
ヒルデが驚いている。
まあ、一瞬で現れたのだから当然だろう。
「ヒルデちゃん、エリザベスさんに連絡して!」
「緊急事態なんだよ!」
鐶と美紀はもの凄い勢いでヒルデに駆け寄る。
デュランデュランは現れた時と変わらず、その場に佇んでいた。
『な、なによ、どうしたの、いきなり!?』
ヒルデはまた驚いている。
「カイ君がムスペルヘイムに行っちゃったのよ!」
「魔王の片割れだってことがバレちゃったのよ!」
鐶と美紀は勢い込んで同時にしゃべりかける。
『2人同時にしゃべらないでよ』
ヒルデは引いている。
2人の勢いが尋常ではないからだった。
『なにがあったの?』
ヒルデがデュランデュランを見ると、
「現地でアクールがヤバくなって、
カイ殿が我々の制止を聞かずにテレポートをして、
同時に貴族たちが入ってきて、
カイ殿が魔王の身内だから捕縛すると…」
冷静に順を追って説明する。
『なんですって!?』
ヒルデはそこでやっと事態を理解したようだった。
ヒルデは霊体の力を使って、空中を飛んだ。
目的地はフェアリーテール家の屋敷である。
『エリザベス!』
ヒルデは屋敷に降り立つなり、エリザベスの部屋に入ってきた。
「うわ!?」
エリザベスは驚いている。
「なんだ、ヒルデじゃないか、驚かせるな」
『大変なのよ!』
ヒルデは説明した。
「なんだと!?」
エリザベスは驚いている。
「魔王の片割れだと!?」
「あー、その要素のことですか」
バークレーは全く驚いてない。
大司教の元で働いているので察しているというか、非公式には聞いてたのかもしれない。
「バークレー、お前知ってたのか?」
エリザベスはバークレーを見た。
非難している顔だ。
が、
「エリザベス様、カイ殿の心に偽りがないのはご存じではないですか?」
バークレーは言った。
「それにウソとは言え、魔王の愛人を葬ったりしてますよ」
「う、む……」
エリザベスは少し冷静になったようだった。
「仮にそうだとしても、多くのアスガルドの有力者は許さんだろう」
「エリザベス様はどう思っておられるので?」
バークレーは聞いた。
「私は……」
エリザベスは視線を逸らした。
「そうだな、カイの行動をずっと見てきたのは私たちだ」
「ええ」
エリザベスは、ため息とともに目を閉じる。
肯定だと言うことだろう。
「しかし、問題は宿の者たちだな」
エリザベスはうーんと唸った。
「100人も連れて逃げるわけにもいかぬしな」
『とりあえず、宿へ来て』
ヒルデはそう言うと、
しゅん。
姿が見えなくなる。
「そういやゴーストだったっけか」
エリザベスは感想を漏らした。
*
ラルとその一味はすぐに追っ手を差し向けるよう手配した。
そこへ大司教ダグが通りかかった。
「おや、何かあったのですか?」
大司教は思わず足を止めて、聞いた。
「カイ殿を捕縛するためです」
ラルが答えると、
「え!?」
大司教は仰天。
「そういえば大司教殿は知っておられたのか、カイ殿が魔王の身内であると」
ラルは詰め寄るように言う。
「それは…」
大司教は言葉に詰まる。
大司教も一応、王には報告してあるが、この感じだと何かしらの命令が出てる様子だ。
「まあ、良い、すぐに分かる事ですからな」
ラルは余裕たっぷりに言った。
「王よ!」
大司教は急いで謁見の間に行った。
「なんじゃ、そのように急いて」
ジョージ13世は少し驚いているようだった。
「カイの捕縛についてなのですがッ」
「あー、そのことか」
ジョージ13世の表情が若干曇る。
「ワシも正直どうかと思うのだがな、ラルたちの言うことももっともでなぁ」
「しかし、これまでカイの貢献を見れば二心がないことなど明らかではありませぬか!」
大司教は声を荒げている。
「ワシも個人的にはそう思うがな。
公務というのは私心で動かせるようなものでもない。
そちも分かっておるだろう?」
ジョージ13世が顔をしかめつつ言うと、
「ぐ…」
大司教は言葉に詰まる。
「だが、猶予は持たせてある。さっさと使者を出すが良い」
ジョージ13世はちょっと優しい感じで言った。
*
エリザベス隊と神殿の神官たちが宿に到着したのは、ほぼ同時であった。
「あれ、皆さん、急いで何かあったのですか?」
マサオが慌てて出てくる。
久しぶりの登場で、ちょっとテンションが高い。
マサオはカイに変わって宿にいる生徒たちをまとめている。
「うむ、これからカイを捕縛する兵士が来るだろう」
エリザベスが答えた。
「え!?」
マサオは驚いた。
「どういうことですか!?」
「済まん、貴族の一部が動き出してな…」
エリザベスは渋い顔。
「我々は君達を守るために来たと言う訳です」
バークレーがその後を継いだ。
「我々もな」
神官たちもうなずく。
皆、完全武装状態である。
「……」
マサオはそれに気付いた途端、さっと顔色が青ざめる。
「あ、来た来た」
『待ってたよ』
鐶とヒルデが、入り口の方へやってきた。
「ミキは?」
エリザベスが聞いた。
「ここにいるよ」
美紀が答える。
何故か鎧のような物を着込んでいる。
「私も戦うよ!」
「いや、君らは最後の砦だから」
エリザベスは頭を振った。
宿の入り口、裏口をエリザベス隊と神官たちが固めた。
「なんだか、学校で立てこもったのを思い出すよなぁ」
美紀が言った。
『あら、そんなことがあったの?』
ヒルデが聞いた。
興味を引かれたのだろう。
「まあ、その話は後だね」
鐶が言う。
「今は警戒しなくちゃ」
ちなみにマサオは生徒たちに説明をしに行っている。
マサオが委員たちに話し、委員たちがクラスの生徒たちに話す。
連絡系統は健在だったので、すぐに全生徒が警戒態勢に入った。
「いつも思うが、君らはホントに統率が取れてるな」
エリザベスは思わず笑みを漏らす。
「まあ、そういう風に教えられてるからね」
鐶が答える。
「ホントに軍隊の教練だな」
エリザベスは言った。
2時間もしないくらいで、憲兵と思しき部隊が宿へやってきた。
「上意により、天の御使い領導のカイ殿を召し捕りに参った」
憲兵隊長は大仰に声を張り上げた。
相手も本心ではエリザベス隊や神官たちとは揉めたくないと見える。
「カイ殿は不在だ」
エリザベスは負けじと声を張り上げた。
「宿を探させてもらう!」
憲兵は言った。
「どうぞご随意に」
「ですが、この者らを傷つけることは許しません」
エリザベスとバークレーが憲兵を睨み付ける。
ほぼ気合いのぶつけ合いである。
「……承知した」
憲兵隊長はしばし考えてから、答えた。