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急に、魔王軍の動きが慌ただしくなった。

有人ゴーレムが追加されている。

何やらゴテゴテした派手な装飾がなされたゴーレムだ。

それが10数体。


そして、その手には巨大な短めの漆黒の杖が握られている。

いや、一体化しているのか。

よく見ると両腕だけが漆黒の樹木製のようだった。


これで敵をぶん殴りつつ、魔法を使うってことか!


『ヘル・バースト!』


独特の高い声が聞こえてきて、


ごぉっ!


周囲に炎がまき散らされた。

見ると、敵兵は皆、シールド魔法か金属の盾を使って防御していた。


無差別攻撃魔法かよ!

しかも広範囲の!


『ヘル・バースト!』

『ヘル・バースト!』

その凶悪魔法が何体分も降り注がれた。


「ぎゃあ!?」

「わぁッ!!」

こちらの有人ゴーレムが何体か炎に焼かれてしまった。

元々、かなり攻撃力のある魔法らしく、マジック・スクリーン越しでもゴーレムの身体が焼け焦げている。

木製だから炎には弱いのだった。

まだ戦死者は出ていないようだったが、結構な数の有人ゴーレムが行動不能に陥っている。


(マズイ!)


オレは思ったが、しかし、ここで見ていることしかできない。


『こ、これはッ!?』

アクールの声がした。

困惑している。

『まさか!』

「どうした、アクール?」

オレが声を掛けると、

『カイ様! 魔王様が!』

(なに!? 魔王?)


アクールが言いたいのは有人ゴーレムに魔王が乗っているということだろう。

となると、中央の一際装飾がなされたヤツだろうな。

思いっくそ目立つじゃねえか!


『ブリザード!』

『ブリザード!』

別の機体が氷魔法を唱えた。


突風と冷気と氷が襲ってきて、熱されたゴーレムを逆に冷やしに来る。

金属も木も、急激な温度変化には弱い。


ビキッ

ビキッ


有人ゴーレムの装甲板や機体にヒビが入っている。


(しまった! 相手はゴーレムの破壊に集中したのか!)

オレは焦った。

が、現場にいないので何もできない。


一連の攻撃で、自軍友軍は浮き足だった。

『フレイム!』

『ウィンド・カッター!』

『ライトニング!』

必死に反撃はするものの、相手の新たな機体には有効打を与えていない。

敵機体のマジック・スクリーンが強力なのだ。

その間も、残った水車とロータスが砲撃を加えてくる。

歩兵も動くに動けないので、両軍とも防御に専念していた。


「くそ! なんとかならないのか!?」

オレは焦りのまま叫んだ。

「デュランデュラン!」

「なんだ?」

デュランデュランが顔を出す。

部屋の隅っこで待機していたのだった。

「あの有人ゴーレムはあんたが作ったのか?」

「いや、あれは別の者が手がけたんだろう。エンジニアは私だけではないからな」

デュランデュランは冷静に答えた。

「落ち着いて、カイ君!」

「そうだよ、焦りは禁物だよ!」

鐶と美紀が叫んだ。

「クソ!」

が、オレは焦らずには居られなかった。


「敵の術中にハマっちゃダメだよ!」

「とにかく冷静に!」

「だが、アクールが……!」

オレが言った時だ。


ボン!


アクールの乗る有人ゴーレムが被弾した。



「デュランデュラン! オレをテレポートさせろ!!!」

オレは思わず怒鳴った。

が、

「断る! そんなことをしてもアクールは喜ばないだろう」

デュランデュランはうんと言わなかった。

「カイ君、落ち着いて!」

鐶がオレの所へ駆け寄ってきた。

美紀は軍配があるので、席を外せない。

オレらが揉めてる今でも、指揮を飛ばしている。

「やれ!」

「断る!」

「…………ッ」

その瞬間、オレはキレた。

身体の中で何かが弾けたようであった。


「テレポート!」

オレは叫ぶと、魔法を使った。

風系の感覚が体内に溢れてゆき、オレの身体がかき消える。



次の瞬間には戦場へ移動していた。

炎と焼けた匂いが充満する地獄のような空間である。


「テレポート成功した!」

オレは砲撃の雨の中にテレポートした。

「マジック・スクリーン!」

オレは魔法の膜を張り、アクール機に駆け寄った。

砲撃が何発も防御膜にブチ当たるが、オレの魔力強度だと問題なく防げるようだった。

「アクール!」

「カイ様!」

ゴーレムの残骸を見ると、アクールは生きていた。

「大丈夫か!」

「なんで…」

アクールは言って、


バシッ


オレの頬を叩いた。

平手打ちである。


痛い。


「なんで、来たんですか!!!」

アクールは怒っている。

「いや、その話は後で…」

「そうですけど、あなたが討たれたら終わりなんですよ!?」

ヒソヒソ声で会話する、オレとアクール。

周囲の隊員が、その様子を呆然と見ている。


そ、そりゃそうか。

いくら自分の愛人が危ないからって、テレポートしてくるとか、アホ以外の何物でもないわな。

クソ、下手打ったかもしれんな。


ゴホン。

咳払いをして、

「と、とにかく、一時退却!」

アクールは隊員に指示を飛ばした。

「りょーかい」

「へいへーい」

隊員の女の子たちは、なんか複雑そうな顔で、面白いものでも見たような顔で、従う。

まだ無事な有人ゴーレムを寄せて壁を作り、機体が壊れて出てきたパイロットたちを守る。

ブラック隊もそれに習って、同じようにしている。

防御を固めて後退である。


しかし、みすみすそれを見逃す敵軍ではない。

『全軍進めーッ!』

号令が聞こえてきて、有人ゴーレムが前進してくる。

それに応じて、水車やロータスも前進。

その後から、歩兵が着いてくる。

両軍とも、まだ歩兵が温存されているのだ。

有人ゴーレムや砲撃兵器が破壊され、体勢が崩れた方がその温存された歩兵の総攻撃を食らう。

そういう戦いだ。


「チッ、ヘル・バースト&ウインド・ブラスト!」

オレは今使える最大の魔法をブッパした。

先ほど敵が使った地獄の炎に、突風による衝撃波をプラスした極大魔法だ。

消耗度合いは激しいが、この際後先は考えてられない。


炎と衝撃波という訳の分からない魔法を受けて、有人ゴーレムが何体か破壊された。

「うわ!? なにあの威力!?」

アクール隊のパイロットの1人が驚いた。

確か、マレーナちゃんだったかな。

「もいっちょ!」

極大魔法を連続でブッパする。

「ハアハア…」

「カイ様、魔法打ち過ぎ」

アクールが心配して声を掛ける。

が、

「ここで力を出し惜しみして死んだら元も子もない」

オレは気力を振り絞って答える。

「アクールはオレが守る」

「……」

アクールは衝撃を受けた表情、

「バカ」

そして頬を赤らめて、つぶやいた。

「ヒューヒュー」

「もっとやれー」

パイロットの女の子たちがはやした。

確か、エナちゃんとイザベラちゃんだったかな。

ワルダちゃんもニヤニヤしながら、オレとアクールを見ている。

生暖かい目というヤツ。

「やめろ、お前ら!」

アクールは照れ隠しに怒鳴る。


『ヘル・バースト&ウインド・ブラスト!』

呪文が聞こえてきて、


ドギャアン!


衝撃がデカ過ぎて効果音が変になっている。

炎と衝撃波がオレらを襲った。


オレと同等の魔力。

もしかして、魔王か!?


しかも漆黒の樹木が魔力を増幅している。


バゴッ


エナ機が耐えきれずに粉々に砕けた。

「うわっ!?」

エナは驚いて、コックピットから転がり出る。

すぐに有人ゴーレムの作る壁に逃れた。

「大丈夫か、エナ?」

「なんとか大丈夫です、隊長」

アクールが声を掛けると、エナは力なく笑った。


クソ。

これじゃあ下手すると全滅だ。


魔王機とその取り巻きはまだ無事だ。

オレの魔力もそろそろ底をつく。

極大魔法を立て続けに撃ち込まれたら、後がない。


もちろん魔王機が見逃すはずもない。


『ヘル・バースト&ウインド・ブラスト!』

『ヘル・バースト&ウインド・ブラスト!』

ヤツらは極大魔法を連続で使ってきた。


これはヤバイ。


自軍の有人ゴーレムがボロボロになってゆく。

このままじゃ、すぐに全機破壊され、壁が作れなくなる。


『ハハハ、どうじゃ、我が軍の新型兵器は!?』

声が聞こえてきた。

魔王だ。

オレは直感で分かった。


クソッ

余裕ぶっこきやがって!


「黙れ! ネザー・フレイム!」

オレはもう一段階上の極大魔法を唱えた。

この魔法は威力は高いが、効果範囲がさっきの魔法より狭い。

「カイ様、それ以上やると魔力が…!」

アクールが止めようとするが、


地獄の深部から吹き出す炎が敵機を何体か屠った。


「ぐわ!?」

敵機から身体中を包帯でグルグル巻きにした女が転がり出てくる。

髪だけが包帯からはみ出ていて、服は着ているので性別が分かる感じだ。

機体を焼くのに魔力を使い果たして中のパイロットまでにはダメージは及ばないようだった。

『こしゃくな、小僧めが!』

魔王らしき声が憤った。


『ネザー・フレイム!』


ぐえ!?

魔王も使えんの?!


しかも漆黒の樹木効果で魔力が増幅されていると来ている。

遂にこちらの有人ゴーレムが耐えきれなくなった。


ビシッ


次々に亀裂が走り、ゴーレムが活動を止めた。

亀裂のためにユグの木機構も魔力増幅の力が落ちてきたようだった。


「畜生!」

オレは歯がみした。

悔しいが、ここはもうどうしようもない。


「おい、魔王!」

オレは叫んだ。

「カイ様、なにを!?」

アクールはうろたえたが、

「オレが人質になる! それでここは見逃せ!」

オレは構わずに言った。

風魔法で声量を増幅していた。

「ダメです! そんなこと!」

アクールはオレにしがみついた。

「いいんだ、オレはアクールたちが助かりさえすれば…」


ピタリ。

敵軍の動きが止まった。

『……』

魔王はしばらく黙っていたが、

『お主1人では安すぎるな。そこのちっこい女子も人質として取るぞ』


なんか上手くいったようだ。

いや、え? ちっこい女子って、アクールも?


「リータ様、そのような戯れ言を真に受けてはなりませぬ!」

包帯女が魔王機の側で怒鳴ったが、

『んー、でも、ほら敵の力を削ぐのも戦法の内じゃん?』

魔王は何やらブツブツ言っている。

「なーりーまーせーぬー!」

包帯女はプンスカと怒った。

「覇道というのは時には非情にならねばいけませぬ!

 ここは敵の戯れ言などには構わず、全軍で敵を殲滅すべきです!」

『えー』

魔王は何やら躊躇しているようだった。

魔王軍の兵士たちも突然の指揮系統の乱れに対応できず、戸惑い進軍を止めてしまっている。


その間に、オレは目配せして自軍友軍を下がらせた。

アクールも一緒に下がらせたかったのだが、

「絶対に下がりません!」

アクールは強情だった。

「うーん、頼むよー、お前に何かあったらオレ生きてられないんだよー」

オレは懇願したが、

「ダメです! カイ様から離れません!」

アクールはテコでも動かないといった感じだった。


両軍とも何かよく分からんがトップとその部下が押し問答し始めたので、膠着状態。

しばらく押し問答してたが、

『あっ、こんなことしてる場合じゃなかった!』

「ハッ、そうでした!」

魔王と包帯女はハッと我に返った。

『オラオラ、そこの女ども武装解除しろぃ!』

魔王は偉そうに言った。

それにしてもデカい声だな…。


武装解除したオレとアクールは捕縛された。


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