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「おう、魔王軍とまた戦わなくちゃいけなくなりそうだぜ」

オレの顔を見るなり、大司教が言った。

「え、またですか?」

オレは驚いた顔をする。

神殿にご機嫌伺いに来たところ、大司教からそんな話を聞いたのだった。


「ナムール領に再度侵入してきてるそうだ。ゴーレム隊とハルバート商会からの連絡だな」

大司教は渋い顔をしている。


アクール率いる有人ゴーレム隊は引き続きナムール領に駐留中だ。

ハルバート商会の商売は上手くいっていて、交易も順調、有人ゴーレム隊はもちろん派遣医師などの人材の面倒も見てもらっている。

当主のジョンが真面目で丁寧な性格なのが良かったのかもしれない。


「そろそろナムール領まで鉄道を通したいですねぇ」

オレは言ったが、

「突貫でやっても半年はかかるだろうよ」

大司教は様々な案件について、根回し中である。

王や取り巻きの貴族連中に効用を説き、商人や工房など各方面のトップへ利益を説き、GOサインを出す。

一番大事な仕事といって良い。

ここがスムーズに行かなければ話が止まってしまうのである。

「だが、進む方向ではあるからな」

大司教はニヤリと笑って見せた。

しかし、目にクマが出来ていて、いつ寝てるのかと心配してしまうくらい顔色が悪い。

「キチンと休んでます?」

オレは心配になって言った。

「まあ、ボチボチな。それよかここが正念場だぜ、身体を労っても計画が失敗しちまえば終わりだからな」

大司教はまた渋い顔をした。

言いたい事は分かるが、それで倒れられても困るんだよね。

何より、ここまで関わっていると情がわいてしまう。

「ダメですよ、大司教に倒れられたりしたら……」

オレはちょっと困ったような声を出してみた。

「ふん、まるで孫娘だな」

大司教は茶化すように言った。

ちなみに、オレの今の性別は女。

「見た目的にはそうですけどね」

オレは肩をすくめる。


そして神殿を出て、

工房を訪れてデュランデュラン、アラン司祭、ロン毛の様子を見に行き、

マイヤー商会へ行って近況報告と情報収集し、

フェアリーテイル家に行ってエリザベスやバークレーの様子を見に行き、

デイヴ叔父さんの酒造所へ行って割男とその仲間たちの働きぶりを見る。


日によっては、

ロンドヒル公爵の経営するサロンに行ったり、

ジェイクの木工ギルドへ行ったり、

宮殿に行って王のご機嫌を伺ったり、

と目的に応じて行ったり来たりする。


そして、毎日見る順番は異なっているが、見終わる頃には夕方になってるので、宿に帰る。

この日は割男たちと一緒に帰った。


鐶は護衛としてピッタリくっついている。

「鐶ちゃんだけズルい」

美紀が頬を膨らませていたが、

『そうね、でもそれぞれ得意な事が違うのよ』

ヒルデが落ち着いた様子で言った。

流石、正妻の貫禄だ。

『ふん、でも分け隔て無く接してくれなきゃ呪い殺すわよ?』

ヒルデはジト目でオレを見る。


シェリルはまたナムール領へ出かけていた。

あちらの諜報活動を統括するためだ。

現地に諜報部隊を置いてきてるので、長いこと留守に出来ないのだった。



すぐにマハラジャ・ナムールからアスガルド王に助力要請が来て、討伐軍が組織された。

キューブリック将軍が指揮官である。

討伐軍本隊が現地に到着次第、アクール率いる有人ゴーレム隊も編入される予定だ。

それから、今回はデュランデュランが開発したブラック隊も投入される。


「前回と同じように、ミキ殿の軍配をお願いしたい」

キューブリック将軍は言った。

王宮の会議室のような部屋で、関係者一同が集まっているのだった。

オレも大司教と一緒に呼ばれたのである。

「分かりました」

オレは慇懃にうなずいた。

「それから、ブラック隊は飛行機で輸送」

キューブリック将軍は続けて、計画を立ててゆく。

「鉄道とやらはまだ出来ておりませぬからなぁ」

関係者の1人が冗談を飛ばした。

「その鉄道とやらはいつ頃、完成するのです?」

別の者が聞いた。

皆、結構興味を持っているようだ。

「うむ、早くて半年後となる予定です」

大司教が答える。

「時間がかかるのう」

「ですが、鉄道が出来れば経済効果も見込まれるということですぞ?」

「ほう、それは良いですな」

皆、談笑を始めている。

少し緊張が薄れてきたようだ。

それから細かな事を決めて、解散となった。

キューブリック将軍はダラダラと会議をするのは嫌いらしい。



会議が終了した後、関係者の何人かは別室へ集まっていた。

全員、ミッドガルド及びアスガルドの貴族だ。


「また派兵ですな」

「そうですな、結構な散財になりますなぁ」

「敵わんなぁ」

「しかし、従わねば王に対して不敬になりますからなぁ」

「お互い辛いですなぁ」

愚痴を言い合っている。


「時に聞きましたか?」

「何をじゃ?」

「天の御使いのカイ殿は、どうやらムスペルヘイムの魔王とは兄弟のような関係だとか」

「なんと!?」

「まさか!」


「魔王の身内とかあり得ぬ!」

「真ならゆゆしき事態ではないか」

「確かな情報なのでしょうな?」

「うむ」

貴族の内、1人がうなずいた。

先ほどの会議で冗談を飛ばした者である。


「この事は明らかにされておるのか?」

「王の耳に入れねばまずいじゃろうなぁ」

「そうじゃなぁ」

「我らが知っていながら王の耳に入れなかったでは」

「後で仕置きされるやもしれぬ」

「うむ」


ここに集まった者たちは、王に進言する事になる。

即ち「カイは魔王の身内」と。



この情報を得た者は、フリック・ラル伯と言った。

ラルはミッドガルドに領地を持つ伯爵であるが、領地経営は部下に任せて自身はアスガルドに住んでいる。


数日前に何者かが接近を図ってきたのだった。


「カイ殿の素性をお教え致したく」

「どうやら魔王とは兄弟のようなものだとか」


怪しむラルに、その者はこう説明した。


「カイ殿のせいで、お手前は肩身が狭くはありませぬか?」

「利益が損なわれているのでは?」


これだけで権謀術数に通じているラルは悟った。


これは使える、と。


天の御使いであるカイが現れてからというもの、一部の者たちに利益が集中しているのは確かだ。

ラルも生活基盤が壊れるほどではないが、今までより利益が落ち込んでいる。

戦が続いているからと自分を納得させてはいたが、よく考えれば自分が割りを食う必要はない。


どうせ魔王が北上するには限界がある。

放って置いても問題はないはずだ。

それより、我が利益を考えるべきではないか。


ラルは国内に目を向けていた。

情報源が魔王の手先だろうと何だろうと、自分たちが利益を得られればそれで良い。

この世界の貴族の思考回路はこんなもんである。



ナムール領で再び戦が始まった。

以前と同じように、現地にいるシェリルの実況とオレの千里眼と遠隔聴覚の魔法を通して、盤上に置いたコマをリアルタイムで動かす。

んで、軍師美紀の力を借りる。


前回との違いは漆黒の樹木製の有人ゴーレム隊がいることだ。


「アクール、気をつけろよ」

オレが言うと、

『了解、カイ様』

アクールは簡潔な答えをよこした。

彼女らしい言葉である。


盤上には漆黒の水車、ダーク・ロータスの他に有人ゴーレムのようなモノが増えている。

やはり敵も開発していたらしい。

アスガルドの討伐軍、マハラジャ・ナムールの正規軍はほぼ前回と同じ兵装。

両軍は野原で対峙していた。


最初はセオリー通り射出武器、魔法の応酬になった。

矢や魔法というミサイル兵器が雨のように降り注ぎ、双方兵数を減らしてゆこうとする。

盾やシールド魔法が掲げられ、ミサイル兵器を防ぐ。


その合間を縫って、極大魔法が撃ち込まれた。

魔王軍は漆黒の水車、ダーク・ロータスから砲撃し、

アスガルド軍、ナムール軍はメーサー機で砲撃する。

これは両軍とも有人ゴーレム隊がマジック・スクリーンを張って防いでいる。


戦の様式が決まってきたのだった。

両軍とも防御を固めることに専念しているため、損害は軽微だ。


次に両軍とも兵を進めた。

白兵戦へ移行する。


今回の目玉は有人ゴーレム・ブラック隊だ。

これを主軸にアクール隊が脇を固めて前進し、前面から押し潰す予定である。

アスガルド軍は更に有人ゴーレム隊の脇を固めて補助・援護をする。

ナムール軍は両翼に陣取り、援護射撃に専念。

前回にも増して層を厚くしている。


正面の撃ち合いに特化したブラック隊が少しずつ押してゆく戦術だ。

これは上手く行った。

漆黒の水車やダーク・ロータスは接近戦闘には向かない。

敵方の有人ゴーレムはまだ発展途上で、訓練も不足しているためか動きが鈍かった。


正面に集中砲火を浴びせてゆくと、


ボン!


ダーク・ロータスが爆発した。

砲撃に耐えきれなかったのだろう。

それを皮切りに、水車や敵の有人ゴーレムも次々に破壊されてゆく。


「ヨシッ!」

どこかで見たようなポーズを取り、オレは叫んだ。


「まだ戦は始まったばかりだよ!」

鐶が叱責した。

「油断は禁物」

美紀も全く勝った気にはなってない。


「おう、皆、貫禄付いて来ちゃってるねぇ」

オレは思わずニヤける。


「さて、相手がどう出てくるか……」

キューブリック将軍もまだ相手の様子を伺っている。


魔王軍はどうでるか。


次は魔王様が登場。

魔法合戦になる模様。

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